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風鈴 ~どっちが先?~

Category*Summer Festival 2018
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『Summer Festival 2018』に掲載された作品です。
個人的にはとても好きな一作になりました! 少しだけ加筆訂正しています。
このお話の続編は構想にあるので、またいつか…。






初夏、花沢邸の類の自室には、今年も風鈴が吊るされる。
…いや、吊るしているのは、私なんだけどね。
紐を結わえてバランスを確かめると、垂れ下がっている短冊の部分にふぅっと息を吹きかけた。

チリン チリリン

―あぁ、いい音色。
その精美で澄んだ音色にニンマリとして、もう一度そっと風鈴を吹き鳴らす。
空調の完備された邸内では、その音色に冷涼さを感じながら暑さを凌ぐ必要はないけれど、この時期になると決まって私は窓辺にそれを飾る。
類との思い出の品でもあるし。

チリチリン    ワァワァ…
チリリン    ギャンギャン
チリ……    わぁぁぁん

―んん? 何の騒ぎ??
子供達が大声で言い争う声がして、慌てて声のする方へと向かった。
子供部屋では、6歳の美玖みくと、5歳の暁斗あきとが何かを喚き合っていて、世話係の康江さんが弱り切った表情で二人を宥めようとしていた。

「二人とも、どうしたの?」
「だってっ!! あっくんがっ、みくのこと、ウソつきっていうからっ!!」
「ウソ? 何が嘘なの?」
泣いている美玖に指を突きつけられた暁斗は、ふくれっ面で言葉を返す。
「だってぇ…。みーちゃんがまちがえてるから、ホントのこと、ゆっただけなのに」
「えぇと、何のことで喧嘩してるのかな?」
「パパとママがけっこんしたのって、パパがママにだいすきってゆったから、そうなったんだよね?」

―えっ? 結婚? 好き?

「ちがうよっ。ママがパパをだいすきだったからだもんっ。ママがパパに『けっこんしてください』っていったからだって、パパがいってたもんっ」
「だって、やすえはそうじゃないってゆったよ! ねっ?」
暁斗に同意を求められた康江さんは、困ったように私を見つめた。

―何の話で揉めてるのかと思ったら、そんなことなの…?
―私と類の、どっちが先に相手に好きって言ったかって?

カァッと赤面しながらも、どう事態を収拾すべきかを急いで考える。
「あのね、二人ともよく聞いてね…」
私は膝を折って子供達の目線まで下がり、二人を手元に引き寄せる。
そうして、なるべく分かりやすい言葉で、類との馴れ初めを話してあげた。
「パパとママが結婚したのはね…」



******



「ただいま。二人とも寝た?」
子供達を寝かしつけている間に、類は帰ってシャワーを済ませていたらしい。寝室に入るとふんわりと石鹸の香りがした。
彼はベッドサイドに腰かけ、濡れた髪をタオルで拭いているところだった。
「…お帰りなさい」
「なに? どうしたの?」
むぅっとした顔で出迎えた私に、類は面白そうに笑って問いかけてくる。
伸ばされた腕にそっと引き寄せられて、彼の隣に腰掛ける。

「怒った顔も可愛いね?」
「……っ!! …コホン。あのね、今日子供達がこんなことで言い争いをしてね…」
二人の言い争いの内容を話すと、ぷっと吹き出した類。
そのままスイッチが入ったらしく、ケラケラと笑い出してしまう。
「もう、笑い事じゃ…」
「あはは。…そっか、美玖は記憶力がいいんだね」
「………?」
「だって俺がそれを話したのは、美玖が3歳になるかならないかの頃だったから」

―え? 
―じゃ、美玖が聞いたのは本当のことなの?

「…えっと、記憶では、付き合い始めもプロポーズも、類から申し込んでくれたんだと思ったけど…」
「まぁ、実際は、そうなんだけど」

―え??
―は、話が見えない…。

「なんで美玖にそう言ったの? その…私から好きだって言ったことにしたの?」
「小さいし覚えてないと思ったんだ。…なんかさ、ちょっと悔しくってつい出来心で」

―悔しい? 出来心?

「自分ばかりがあんたを好きみたいで。昔も…今もさ」
「そっ、そんなことないよ! 私だって…」
負けないくらい類が好きだ、という言葉はすぐそこまで出かかったけど、あえて言わずにおく。…変なところで見栄っ張りな人には、素直に言ってやらないんだから。
唐突に口をつぐんだ私に、類は微笑みかける。


「それで、なんて言って、喧嘩をおさめたの?」
「どちらを立てても角が立つと思ったから、『せーの!!』で、お互いに好きだって言ったことにしたの」
「同時に?」
「そう。それならどっちが先かなんて、揉めないかと思って…」
なるほどね、と楽しそうに呟いて、類は私を抱き寄せたままベッドに転がる。
類は終始面白がっていて、私にはそれが面白くない。


私の言ったことは、あながち間違いでもない。
類の自室に飾っている風鈴は、私が類にプレゼントしたものだ。牧野家に飾ってあったそれを見て、類が自分も風鈴が欲しいと言ったから。
風鈴を買った日、類に自分の想いを告げるつもりで彼と会った。だけど、私がそれを口にするよりも早く、類が好きだと言ってくれたのだ。
すごく、すごく嬉しかった。

そのときの喜びを忘れたくないから、私は毎年風鈴を飾るんだもの。
いつまでも変わらない、類への想いを確かめたくてそうするんだもの。


「『せーの!!』で言い合う?」
「…この状況で、よくそんなことが言えるよね?」
「だって…つくしも目は笑ってるし。…ほら、せーの」
「「大好きだよ」」
私達の声は、図ったかのように、見事にシンクロした。
類はクスクスと笑いながら、わざとリップ音を立ててキスをする。離れた唇を追うようにして口づけると、類の目元が嬉しそうに綻んだ。

彼は慣れた手つきで、私のナイトウェアのボタンを外していく。重ね合った類の素肌は、入浴後なのにひんやりとしていて、私の体の火照りを冷ましてくれる。互いの体に、唇で、舌で、指で触れて、愛情と優しさを示し合う。

自分ばっかり好きだなんて、そんなこと言わせない…。
だって、私は、こんなに類を大切に想っているのに…。


その夜は、なんだかムキになってしまって、いつもより積極的に類を求めた……気がする。彼の術中にどっぷりとハマっていた自分に気づいたのは、眠りに落ちる直前、類のこの上なく満足気な顔を見たときだった。

―あぁ、しまった…。
―これ、“してやったり”の顔じゃないの…。



******



夏の終わりが近づき、風鈴を片付けるために台に上ろうとした。
それを見かけた類が、慌てて私を制する。
「ちょっと、何してんの」
「風鈴、片付けようと思って…」
「…あのさ、自分が妊婦だっていう自覚ある? 俺がやるから」
「えぇ? これくらい大丈夫だよ?」

今、私のお腹の中には小さな赤ちゃんがいる。時期を考えれば、風鈴を飾った日の夜が、ちょうどそのタイミングだったとしか思えない。
数年ぶりの慶事に、花沢邸は喜びに湧き立った。

美玖のときも、暁斗のときもそうだったように、類の過保護は日増しにひどくなる。
…でも、すごく幸せだなって思う。

「来年も飾ろうね」
「うん」

風鈴の傘についた埃を拭いとり、そっと箱に納めると、私達は微笑み合った。
ドアの向こうから、パタパタと小さい足音が近づいてきて、子供達が勢いよく部屋に飛び込んでくる。
「「パパ、遊ぼうっ!」」
「いいよ。何して遊ぼうか」
類と、彼の両腕に腕をかけて吊り下がる我が子達を見送り、私は風鈴を納めた箱をクローゼットの奥へと仕舞った。





いつも拍手をありがとうございます! 実は初めての夫婦ものでした♪
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