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Category第3章 縒りあうもの
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12月1日土曜日。
卒業制作を発表する、学年最後のコンペティション当日。
あたしは心穏やかに朝を迎えた。
午前9時の開始時刻に合わせ、今日は通常の出校よりも早い8時集合になっている。手際よく身支度を整えて、あたしは美作邸を後にした。

類のことはずっと考えないようにしていた。
考えると、あたしは、立ち止まってしまうから。
ただ前に、…今より少しでも前に、あたしは進んでいきたい。
いつか、そういう選択をした自分を悔いる日が来るのかもしれないけれど、あたしが自分という人間を確立するためには、きっとこの道を進むしかないんだと今は強く思えた。



「おはようございます。いよいよですね!」
学校に着くと、最初に羽純ちゃんが話しかけてきた。
「おはよう。昨日は眠れた?」
「はい! しっかり8時間は寝ました。何も考えずに」
「あはっ。さすがだね」
「人事を尽くしましたから」
羽純ちゃんの良点はこの潔さだとあたしは思う。意欲に満ちた瞳をキラキラと輝かせて、羽純ちゃんが今、この瞬間を、心から楽しんでいるのを肌で感じる。
「おはよう。今日は冷え込みがきついわね。ダウン着てきちゃったわよ」
菜々美さんが悠然と姿を見せる。新調したというグレーのロングダウンコートが、長身の彼女によく似合っていた。
「今冬一番の寒さらしいですからね」
それでも校内は活気と熱気に満ち、その寒さを微塵も感じさせない。
「さぁ、行きましょう!」
菜々美さんが意気揚々と告げ、あたし達は揃って頷いた。


あたしと菜々美さんが出展する、アパレルデザイナーコース。
出展作品は4点。
羽純ちゃんが出展する、オートクチュール・ブライダルドレスコース。
出展作品は2点。
そして、和装が出展される、ファッションテクニカルコース。
出展作品は2点。

出展する作品を身に着けるのは、発表者本人でなくてもいい。例えば、女性服をデザインする男子生徒は、自分の代わりにランウェイを歩いてくれる女性を探すことになっているし、ドレスコース、和装コースの場合も着用自体が大変なので代役を立てる生徒も多い。
その中にあって、あたし達3人はあえて代役を立てなかった。
今回の制作のテーマは、『新しい自分』。
新しい可能性を模索するのに、まず自分自身をどれほど魅力的に演出できるのかは大切なことだった。そして演出の中に、いかに他に差異をつけ、自作にも対比を生み出すのかも。


「あれ? つくしちゃん、発表順変えた?」
着替えのための控室で、あたしが最初に身に纏った衣装を見て、菜々美さんが問う。あたしは頷いた。
「最初のコンセプトでは、黒から白へという変遷を描いたんですけど、逆にしたんです」
「白から黒へ?」
「はい。その方が今の自分にはしっくりくるので」

あたしの作品の1点目は、白の総レースワンピースだった。
雪花をイメージした刺繍にビーズを重ねて散らしたレースワンピースの中に、キャミソールワンピースを重ねて着る。丈は膝丈だけど、裾野が広がるように後ろ下がりにフレア状になるように工夫した。見ようによってはショート丈のブライダル衣装にも見えるこの作品は、リハーサルでは4番目に発表したものだった。
首元と手首にも同じレース地で作製したアクセントをつけ、髪もセットして準備を整えていく。菜々美さんと互いに最終チェックし合って控室を出て、あたし達は舞台袖に発表順の列に並んだ。


会場内には在校生、講師、卒業生、一般の来場者達がひしめき合っている。
ざわめきは次第に大きくなり、舞台袖にいる自分達にまで、その熱気が伝わってくるようだった。
やがて、時刻は9時を迎える。
「会場にお集まりの皆様、長らくお待たせ致しました。定刻となりましたので、これより、第48期生による卒業制作発表会を開催いたします」
司会進行を務める講師の声が聴こえ、あたしはピンと背筋を立てた。
この3年間の集大成となる発表会。注ぎ続けた情熱があたしを奮い立たせる。
―あぁ。いよいよ、始まるんだ…! 
やがてランウェイのための音楽が鳴り始め、最初の発表者が歩み出す瞬間を、あたしはじっと見つめた。


出番を待つまでの間に、これまでの数年を振り返る。
鮮烈な記憶となって残る、八千代先生との出会い。
意を決し、実行に移した服飾専門学校への転学。
転がり始めた、あたしの夢。
苦しくも楽しかった学校生活。
同志であり、ライバルでもある親友達。
そして、勝ち取った内定、デザイナーとしての未来…。

どんな時でもあたしを鼓舞し続けたのは、デザイナーになりたい!という強い意志だった。そして、とめどなく浮かんでくるデザインを具現化することは、あたしの大きな喜びだった。
そんなあたしを、ずっと傍にいて支え続けてくれたのが類で……。
もう彼がその夢を支えてくれないのだとしても、…もう傍にいてくれないのだとしても、あたしの情熱は消えることはない。
創作への苦しみを抱えながらも、この世界で生きていくと決めた自分だから。



「…33番、牧野つくしさん」
進行役の講師に名を呼ばれたのと同時に、あたしは舞台に躍り出た。
―さぁ、行こう!
観客席にT字に張り出すようにして設置されたランウェイは明るく照らされていて、その眩さに最高潮に高まった緊張も弾け飛ぶ。舞台上からは照明の落とされた観客席側ははっきりと見えないけれど、例年通りに場内が人で埋め尽くされているのが分かった。
あたしが裾を揺らしながら歩いていくと、場内にいる観客から「わぁっ」という歓声が上がり、好感触を得たように感じた。
途中、過去のイベント行事で交流のあった下級生達と目が合う。彼女達は大きな拍手であたしを出迎え、声援を送ってくれた。
「牧野さぁん! 素敵ですっ!」
ありがとう、と、あたしは笑顔でそれに応じる。


やがてランウェイの端まで来るとその場でくるりと回って見せた。
本物のモデルのようなポージングは恥ずかしくてできないけれど、ワンピースの裾を少しだけ持ち上げ、観客席に向けて礼をする。そうして元来た道を戻ろうと、視線を右に動かした時だった。
集団を離れ、会場の入り口近くに立っている長身の影にあたしは気付く。

―あの、シルエット…。

ドクン、と心臓が跳ねた。どんなに遠くても、どんなに視界が不明瞭でも、あたしは絶対に見間違えたりしない。
逢いたくて、でも逢いたくなくて、……でも逢いたくて。
あたしに至上の喜びを、そして同じくらい深い悲しみをも与えることのできる、この世でただ一人の人。


―類…っ!!


その瞬間、あたしを満たしたのは喜びだった。
驚きでも、悲しみでも、…ましてや怒りでもなく。
自然と口元が綻んだのが分かった。

きっと、あたしには、心からの笑顔が浮かんでいただろう。






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いつも拍手をありがとうございます。 コンペ開催です!
ここからのお話は、いつもより想像力を膨らまして読んでいただけると…💦
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4 Comments

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/09/30 (Sun) 02:03 | REPLY |   
nainai

nainai  

ま様

おはようございます。いつもコメントありがとうございます。

いよいよコンペが始まりました。コンペ会場の様子は、ガールズコレクションのショー風景を想像しながら読んでいただけると…。表現力の限界が…(/ω\)
パーティーがあったのが11月17日、コンペはその2週後の12月1日という設定です。離れている間、二人がそれぞれに抱えてきた想いが交錯した瞬間でした。つくしは素直に喜びを感じました。では類の方は? ということで話は進んでいきます。

仕事が忙しすぎてなかなか更新ペースがあがりません💦 10月中に終われるように頑張っていこうと思います!

2018/09/30 (Sun) 07:10 | REPLY |   

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2018/09/30 (Sun) 21:04 | REPLY |   
nainai

nainai  

た様

こんばんは。初コメントありがとうございます。
当サイトへようこそおいでくださいました!

連載はいよいよ佳境に入ってきました。続きを楽しみにしていただけているようでとても嬉しいです(*´ω`*)
仕事と家庭とで毎日忙しく、なかなか更新ペースが上がりませんが、なんとか10月中に連載を終えたいな~と思っております。

最後までよろしくお付き合いのほどを…。

2018/09/30 (Sun) 22:46 | REPLY |   

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