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Category第3章 縒りあうもの
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つくしが3点目の作品を発表した時点で、開催宣言から2時間半が経過していた。
彼女の作品は、カラーコンセプトこそ統一されたものだったが、一つ一つは異なる印象を観客に与えた。
最初は白一色、全体的に甘いデザインの衣装で、女性なら誰でも憧れるような可愛らしさを演出した。次は白を基調に黒を差し入れたワンピースで、凛とした美しさを演出してみせた。
先ほどは、同じ色使いでも黒の混成比を強くし、中性的なイメージを抱かせるパンツスタイルだった。こうなれば、最後に出てくるのは黒一色だ。それだけは分かる。
他の生徒が多彩な色使いをする中にあって、モノトーンのみでテーマを表現しようとする彼女は、本当にデザインだけでこの場の勝負に挑んでいる様子だった。


大音量の音楽が耳に刺さる。
彼女の発表を見るという目的がないなら、一秒でも早く立ち去りたいところだ。
もはや馴染みになっている例の頭痛を、先ほどから感じ始めていた。
目の奥の差し込むような痛みは、いつ頃から始まったものだっただろうか。
つくしと離れてしまう以前はさほど感じていなかったから、自分に与えられた罰のようにも感じている。
痛みは脈打つように発されて、徐々にひどくなる。
事故後、頭痛はよく起きたし、最近のものも睡眠不足からくる症状だろうと思ってきたが、こうも頻繁なら脳外科に受診した方がいいのかもしれない。
事故後、月に一度の検診は欠かさずに行っていた。だが…。

―ズキンッ。
いつもより強い痛みを感じたのは、次の瞬間だった。


「………!」
「類? どうした?」
痛みの強さに目の前がチカチカして、俺は思わず目元を覆う。
隣にいるはずのあきらの声が、なぜか遠くに感じられた。
「なんでも、ない。…ちょっと、頭痛がして」
「外に出るか?」
「……いい。最後まで、見届けたいから」
俺はポケットに忍ばせていた鎮痛剤を取り出し、噛んで飲み下した。
苦い味が口腔内に広がったが、それは我慢できた。


2巡目、3巡目の発表のときも、つくしは俺の姿を確認するようにこちらを見た。
4巡目のときに姿を消していたら、また彼女を失望させてしまうかもしれない。
つくしの期待に応えたい。
今は素直にそう思える自分がいる。
彼女が俺に見せたかったもの、それを見届けてちゃんと理解してやりたい。


痛みをこらえながら、俺は呟いていた。
「…俺、たぶん、最初から勘違いしてた」
「ん?」
「あいつは、自分自身で輝けるんだよね。…俺がいなくても」
―あれが、本来の彼女だ。
自分の足で立ち、たゆまぬ努力で未来を掴み取ろうとする姿。
高校生の彼女から受けた鮮烈なイメージそのままに、その根幹が何も変わっていないことに気付く。それが、ひどく愛おしくて、…ひどく寂しい。
あきらが、これ見よがしのため息を吐く。
「そうじゃないさ。……お前がいるなら、より輝けるんだよ」
「………」
「牧野は……お前を待ってる。ずっと。……いろんなことが理解できたんなら、早くあの笑顔を本物にしてやれ」
その言葉が強く胸に響いて、俺はあきらの顔を凝視していた。


「……なんで?」
「何が」
「なんで、俺に対してそんなふうに言えるの? あきらもつくしが好きなんだろ?」
あきらは、詰問する口調になった俺に小さく笑んで、こう言った。
「確かに、俺は牧野が好きだ。あいつが俺を望んでくれるんなら、いつだって迎え入れる覚悟がある」
「…だったら」
「でもな、俺はお前の親友でもある。お前が苦しむのを分かっていて手助けしない選択肢は、……やっぱり俺にはない」
「………」
「言っとくが、これはお前の二番煎じだぞ? かつてのお前がそうだったんだ。俺は牧野の笑顔が見たいし、お前の笑顔も見たい。…自己満足に過ぎなくても、俺自身がそうしたいんだよ」
なぜか、それ以上言葉が見つからなかった。




つくしが、最後のステージに立つ。
予想通り、4点目の作品は黒一色だった。技巧を凝らしたミニワンピースを身に纏い、彼女が壇上に現れた瞬間、観客席からはひと際大きな歓声が上がった。
黒は彼女の細い肢体を、その色白さを強調する。薄地のマントが左上半身を覆うようにしてかかり、彼女が歩くたびにそれがふわりと翻る。

彼女が描いたのは、強烈なまでのasymmetry。

どこをとっても対称な部分がなく、定型を完全に無視したアーティスティックな作品だった。彼女の作らしからぬその衣装は、これまでの3作のイメージを払拭することで、今回のテーマ「新しい自分」に相応しい演出となっている。
白から黒へ、均衡から不均衡へと移行する様は、つくし自身の心の変遷でもあるような気がした。

ステージの先端に到達する前に、彼女は歩きながら左上半身を覆うマントの留め紐をするりと解いた。下から現れたのは、左肩を顕わにしたワンショルダートップス。
つくしはマントを腰に巻き直し、スリットスカートのようにして衣装の印象を様変わりさせた。短時間の中に詰め込まれた、まるでマジックのような演出に、大きな拍手が沸き起こる。

ステージ上のつくしと目が合う。
それに応えて俺が頷いたのが、彼女には見えただろうか。


「結果は…見るまでもねぇよな」
あきらが呟く。
「…あぁ」
俺も応える。
「あいつが…No.1だ」
たとえ、実際にそうはならなくても、俺にはもう十分だった。
彼女は、俺が想像していたより、ずっと遥かに有望なデザイナーだった。


つくしが愛して、愛して、愛してやまない、この世界。
それを手離してまで俺に信じてほしいと懇願した、あの夜の彼女の切実な想いを、俺はようやく理解できた。


もう何を疑うべくもない。
あきらに、司に、…過去の自分に嫉妬する必要もない。
俺は、つくしを信じる。
どんなことがあっても、彼女を信じていられる。
今更だと、もう遅いと、言われても構わない。
彼女と共に、生きていきたい。
伸びやかに、ありのままに輝く彼女を、傍で支えたい。
彼女の本物の笑顔が見たい。
つくしを、愛しているから。

強く、強く、そう思う。



自分の中に燻っていた不確かな部分が、ようやくクリアになったと思った時だった。

―ズクンッ

これまでにない激しい痛みが頭の奥から発され、視界がぐにゃりと歪んだ。





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いつも拍手をありがとうございます。物語は急転へ。
次回、初めてのあきら視点です。
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2 Comments

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2018/10/06 (Sat) 14:55 | REPLY |   

nainai  

ま様

こんばんは。いつもコメントありがとうございます!

類はようやく理解できたんですよね。自分がどうするべきだったのか。目線を交わし合う二人の心はすぐ近くにあって、あとは再会を待つばかりだったのですが…。類を襲った突然の頭痛。事態はもう少し深刻です。

明日は初めてのあきら視点です。とても書きやすかったです。どうぞお楽しみに(^-^)

2018/10/06 (Sat) 22:36 | REPLY |   

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