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Category第3章 縒りあうもの
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唐突に視界が歪み、不鮮明になった。
あきらに支えられながら、会場を出たことまでは覚えている。
こみ上げる嘔気。
脳を突き刺すような激しい痛みに意識が飛ぶ。

朦朧としながらも、意識を取り戻す。
自分の体はストレッチャーの上に乗せられていた。
傍らには、それを運ぶ救急隊員の姿。
「しっかりしろ! 類!」
俺を励ますあきらの声。
あきらが救急車を呼んでくれたのだと理解できた。

ストレッチャーが救急車に収容される。
次の瞬間、霞む視界の中につくしが飛び込んできた。
「類…っ!!」
彼女は最後に見た黒衣の姿のままだった。
白い頬に透明な雫が伝う。
紅いルージュに彩られた唇が俺の名を呼ぶ。

―あぁ、逢いたかった。

俺にとっては、誰よりも、何よりも、愛しい存在。
だけど、俺はずっと彼女の泣き顔ばかりを見ている気がする。


『つくし』
彼女の名を呼んだつもりだった。
だけど呼気が洩れるばかりで言葉にならない。
体も痺れたように動かない。

どうして…。
俺に何が起きてるんだ…。

やがて、彼女の両手が俺の右手を包み込んだ。
伝わってくるその温かさに安堵する。
ずっと、彼女に逢いたかった。
こんな形の再会などではなく。
逢って謝りたかった。
想いを言葉にして伝えたかった。


もう悲しませたりはしないと。
あんたは、かけがえのない存在なのだと。
深く、愛しているのだと。


それなのに…。


彼女が俺の名を呼ぶ。…何度も。
「類…、類…」
「……つ、くし」
今度は、はっきりと声が出た。

伝えたい。
伝えることが可能ならば、今。

「…逢いたかった…。ずっと、謝り、たかった……」
「違うの。…あたしも悪かったの…」

どうして、彼女が謝るんだろう。
こんなふうに悲しい顔をさせる俺こそが悪いのに。

「…泣かせて…ばかりで……ごめ…」

どうか、俺を、許して。
今度こそ、間違えないから。
あんたが何を望んで、どうすれば微笑んでくれるのか。
それがようやく分かったから。

彼女に伝えたいことがたくさんある。
だけど、もう、声が出ない。
ゆっくりと、意識が、遠のいていく。


まだ、死ねない。
彼女を残しては。


…待って、いて。
必ず…つくしの元に…帰る……から…。





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