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Category第3章 縒りあうもの
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美作さんとあたしは、連れ立って屋上へと足を運んだ。
ドアを開けた途端に吹き付けてきた北風に、あたしは首を竦ませた。
「わぁ…。さすがにこの時間は寒いね」
二十四節気ではもう大雪だ。
冬も本格化していく時期にあって、今日は終日暖かかった。
すでに日は沈み、西の稜線も朱色を失って、空は深い藍色に侵食されつつあった。
屋上にはもちろん誰の姿もない。
施錠時刻は17時。…まだ少しだけ猶予がある。

類が意識を取り戻したあの日、季節は盛夏だった。彼が記憶を失っていることに深く傷つき、一人隠れて嗚咽したのはこの場所だった。
…そして、美作さんが秘めた想いを打ち明けてくれたのも。


「…牧野」
「美作さん」
あたしと美作さんの言葉が重なる。
「…先に言わせてもらっていい?」
いいよ、と彼は笑う。
「今まで、本当にどうもありがとう。…美作さんが居なかったら、たぶん、あたしは類とやり直せなかった」
「総二郎も、だろ」
「もちろん。…だけど、美作さんは、あたしの一番の応援団だったよ」

美作さんは、あたしの心にそっと寄り添ってくれた。
それはかつて、類があたしの心を支えてくれたときと同じようで。
見返りを求めない、純粋なその想いに、あたしは結局応えることができない。
だけど、きっと、彼は謝罪を求めないだろう。
…だから。

「ありがとう。…ずっと忘れない。美作さんの優しさ」
「…ばーか。俺はなぁ、いつでも、誰にでも優しいんだよ」
美作さんはあたしの頭をクシャクシャと掻き混ぜる。
…ちょっと痛いくらいに。
「どうせ、これからもずーっとお前との縁は続いていくんだ。…あぁ、そんなこともあったなぁ程度に思っときゃいい。特別視も、変な気遣いも、要らない」
「うん…」

涙がこぼれそうだ。
ごめんなさい、と謝りたかった。
その優しさに甘えるだけ甘えて、狡くてごめんなさい、と。
それをぐっと堪える。
彼に許されたいと思うのは、自分が楽になりたいからだ。


「泣くなよ。類に怒られる」
「…泣かないよっ」
自然と声が大きくなる。
精一杯の強がりなど、きっと美作さんにはお見通しだったろう。
美作さんが右手を差し出す。
「…幸せになれよ」
あたしもすぐに右手を差し出し、ぎゅっと強く握り合う。
「なってみせる。二人で」
「類を頼むな」
あたしは大きく頷いた。



先に戻ってくれ、と美作さんに言われ、あたしは小走りに階段を駆け下りた。
途中、風に乱れた髪を整え直し、類の病室に戻る。
「…遅かったね」
ベッド上に上体を起こした類が、読みかけの書類に目線を落としたまま言う。
あたしは正直に告げる。
「うん。…屋上で美作さんと話してた」
類は静かに顔を上げ、あたしを見た。招かれるままにベッドサイドに腰かける。
「冷たくなってる」
類はあたしの頬に触れる。
「今までありがとうって言ってきた」
「…あいつ、なんて?」
「気遣いは要らない。これからも付き合いは続いていくんだからって…」
「…そう」

類は黙ってあたしを抱き寄せた。
「…分かってても、なんか………嫉妬する」
「ごめんなさい。…でも、どうしても、話をしなくちゃいけなかったから…」
あたしは類の肩口に額を摺り寄せる。
美作さんの想いを知ってしまった以上、あたしと彼にはその終着点が必要だった。
「幸せになれって。…類を頼むって、言われたよ」
「………」
類はそれ以上何も言わなかった。
だけど、そこに負の感情は感じられない。


伏せた顔をつと上向かされ、少しだけ強引に口づけられる。
歯列を割って侵入してきた類の舌に翻弄されて、あたしは息を乱す。頭の奥がジンと熱くなり、甘く痺れる感覚だけで満たされていく。
「…だめだ」
唇を離して、類は言う。
「キスだけじゃ、我慢できなくなる」
「…あたしも…そうかも」
咄嗟に同意してしまってから、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。
類の目がわずかに見開かれて…。
その表情がゆっくりと穏やかな微笑へと変わっていくのにそっと見惚れながら、あたしも笑顔を返した。





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本日4万HITを迎えました! ありがとうございます(*^-^*)
明日は記念SSをお送りしたいと思います。
am10:00とpm10:00の2回更新です。どうぞよろしくお願いします♪
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6 Comments

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2018/10/15 (Mon) 22:17 | REPLY |   

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2018/10/15 (Mon) 22:31 | REPLY |   
nainai

nainai  

桜様

こんばんは。今夜もコメントありがとうございます。
喜んでいただけたようで何よりです~(*´ω`*) 旦那さん驚かせちゃいましたねw

F4の絆は、血の繋がりよりも濃いものであるように感じています。あきらは、作中のセリフにもあったように、類の幸せも自分の喜びとして受け入れるのですが、かつての類も、司の幸せを同じように受け入れていました。…優しすぎますよねぇ。
総二郎にもしっかり頑張ってもらったし、司にも活躍してもらいたかったんですが、構成上これが限度でした…(;^_^A

桜様のお言葉、とても嬉しいです。連載はもう少し続きますので、最後までよろしくお願いします。

2018/10/16 (Tue) 00:04 | REPLY |   
nainai

nainai  

み様

こんばんは。今夜もコメントありがとうございます。

あきらのスタンスは、“類からつくしを奪う”というものではなく、“類がつくしを必要としないなら自分がもらう”というものでした。途中、つくしの涙を見てその気持ちが揺らぐんですけれど、そこはしっかり自分を律して、二人の幸せを願うことに徹するんですね。今作における一番の功労者だと思います!

つくしが類に促したのは、自分の気持ちを素直に口にすることだったと思います。嫉妬を隠さずにいたことは、彼にとっては大きな進歩であったと思うのです。

明日はSSです~。楽しんでいただけましたら幸いです♪♪

2018/10/16 (Tue) 00:20 | REPLY |   

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2018/10/16 (Tue) 10:34 | REPLY |   
nainai

nainai  

mi様

こんばんは。初コメントありがとうございます(*´ω`*)
とっても嬉しいです~。

第2章では、徐々に壊れていく二人の関係を描いてきましたので、ヤキモキされた方も多かっただろうなぁと思います。それを修復するための第3章でしたが、ようやくここまで来れました!
あきらの株がグーンと上がりましたね。彼のエピソードはどれも思い入れがあります。

多くの人の支えによって、二人は絆を強め、未来へと進んでいきます。
もう物語は終盤ですが、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

2018/10/16 (Tue) 20:35 | REPLY |   

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