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Category第3章 縒りあうもの
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12月10日、類の退院を待たずにあたしは一足先に学校に戻った。
彼がそうするようにと言ってくれたからだ。
その類も12月12日には退院することが決まった。懸念されていた運動障害も、記憶障害も今のところ見受けられない。だけど、ときどきは頭痛が起きたり、軽いめまいを感じたりもするようだった。
しばらくは通院しながら自宅療養をし、仕事への復帰は少なくとも年明けという見通しが立てられた。


学校におけるあたしの立場は、コンペ以前と比べて様々な面で変化していた。
クラスメート達にとっては、最優秀作品賞を受賞したことよりも、発表時の衣装のまま救急車に飛び乗ったあの一幕の方がよほど印象強かったらしい。
当然と言えば、当然かもしれないけれど…。
館内放送の呼び出しにあったように、表向き、倒れたのはあたしの『家族』であり、家族の疾病の付き添いのために栄えある表彰式に出られなかったことは、非常に同情的に扱われることになった。
美作さんの機転のおかげだと思う。
類の素性が公にならずに済んだことに安堵しつつ、周囲からは遅まきながらの祝辞と労いとを受けて、あたしは再び日常へと溶け込んでいった。


菜々美さんと羽純ちゃんには、類とやり直すことを報告した。
本当に大丈夫なのか、と二人は最初こそ懐疑的だったけれど、あたしの笑顔に曇りがないことが分かると、何がどうなって元の鞘に収まることになったのかの詳細を聞きたがった。
そして、先延ばしになっていたコンペの祝賀会を改めて開こうという話にもなった。
結果的に、菜々美さんは惜しくも次点で入賞を逃していて、羽純ちゃんは自身の履修コースの2位入賞だった。
…二人には、遠くない未来に、すべてを明かすつもりでいる。


あたしは、館山さんからも祝辞を受けた。決して親し気ではないけれど、彼女は彼女なりにあたしと相対しようとしてくれていた。
「受賞おめでとう。…その後、ご家族の容態はどう?」
「もう大丈夫。あの時はどうもありがとう。通路では放送がまったく聞こえなかったから、館山さんに呼び出してもらえて助かったの」
あたしが礼を述べると、彼女はふっと表情を和らげた。
「…ちょっと聞きたいんだけど。どうして発表順を変えたの? 最後の衣装もリハのときとは違ったよね?」
「改まって理由を聞かれると、説明しにくいんだけど…」

本番で、あたしは発表順をリハ-サルとは逆にした。衣装も、初めは裾広の七分丈パンツだったけれど、ベースをミニスカートに変え、敢えてエキセントリックともとれるデザインへと変えた。
非定型が定型へ、黒が白へと変遷する過程より、その逆の方が気分的にしっくり来たのだ。

『新しい自分』とテーマを挙げられたように、あたしにはこの数ヶ月でいろいろと心境の変化があった。
誰もが抱えている光と闇。
あたしは、自分自身の中にもそれを認めている。
いみじくも類が指摘したように、あたしはきっとこれからも多くの闇を見ることになるだろう。社会に出れば、いつも正論が通るとは限らない。
だけど闇を払拭するよりも、それが存在することをある程度は受け入れ、許容してやれる方がより意義深いことなのだと、あたしは知ることができたと思う。

「あの時の自分がdownerダウナーだったからかな」
「…それだけ?」
「端的に言えばそう。気分的に最後は白って感じがしなかったから」
なにそれ、と言って、彼女はクスッと小さく笑った。
でも、本当に素敵だったと、最後にそう言ってくれた。



美作邸に留め置かれていたあたしの荷物は、花沢邸に運び込まれた。それだけでなく、マンションに残した荷物も、真悠子さんの指示によってすべて邸宅に移された。類と暮らしたあの部屋はそのまま退去することになり、あたしは退院した彼とともに花沢邸で暮らすようになった。
また二人だけで暮らしたくなれば、時機を見てそうしていいと言われている。
でも、少なくとも今の彼には自宅での療養が必要だった。

あたしの部屋は類の自室の隣に設けられたけれど、あたしがその部屋で過ごすことはほとんどなかった。毎日学校から戻ると、まだ大事をとって横になっている彼に、今日あったことを報告しながら、一緒に夕食を摂るのが習慣化しつつあった。


ある日の夜、類の口から唐突に道明寺の名が飛び出したときは驚いた。聞けば、彼の方から電話があったのだという。
「開口一番で怒られた。…この莫迦ばかがって」
西門さんか、美作さんからパーティーの夜以降のひと騒動を聞いたのだろう。
「…司、離婚するのは本当らしい。もう本格的に協議に入ってて、年末までにはカタをつけるって」
「そう…」
望まぬ結婚の末路を聞き、どうしても胸が疼く。

…道明寺にも幸せになってほしい。
そう想う気持ちは今でも変わらない。

「…懐かしさだけ」
「え…?」
「つくしに対して感じるのは、ただ懐かしさだけだって。…本心か、分からないけど」
「…きっと本心だよ」

―だって、あたしもそうだから。
―そうだよね? 道明寺…。



寝支度が済むと、あたしは類に招き入れられ、彼のベッドにもぐりこむ。
そっと抱きしめられ、頬にトクトクという規則正しい彼の鼓動を感じていると、あたしはすぐに眠くなってしまう。髪を優しく撫で梳かれたり、額や頭にキスを落とされたりして過ごす、甘く穏やかなこの時間があたしは好きだった。
大切にされてるんだ、と感じることができた。

「おやすみなさい、類…」
半分まどろみながら、あたしは呟く。
「おやすみ。…いい夢を」
類も囁く。

―また、明日ね…。





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いつも拍手をありがとうございます。
かつてのような穏やかな日々を取り戻しつつある二人です。
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