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Twice A Day ~後編~

Category4万HIT記念
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予定通りに講義を受講し、いつもの場所で類と待ち合わせて迎えの車に乗った。
道すがら向かう先が分かって、あたしは彼に問う。
「もう一回、類のうちに行くの?」
類はちょっとだけ翳った笑みを見せる。
「そう。…つまんない?」
「うぅん、そんなことない」
あたしはふるふると首を振る。
「また庭園を散歩できる? 見せてもらった花、すごく綺麗だった。もう一度見たかったけど、朝は時間がなかったから…」
「…うん。きっと喜んでもらえると思ってた」
あたしの答えに満足したのか、類は繋いだ指先にきゅっと力をこめてくる。
それに応えて、あたしもぎゅっと握り返した。

自分だけに向けられる笑顔が、すごく愛しい。
類のその笑顔を、いつまでも守ってあげたいって思う。


夕暮れの庭には、朝とはまた違う風情がある。
朝歩いた道と全く同じコースをたどりながら、朝、類に教えてもらった花の名をもう一度復唱する。
「これ、覚えてる?」
「あ~、えっと、ちょっと聞き慣れない名前でね。…そう! シュウメイギク!」
「正解」
“秋の明るい菊”という字を書くんだよ、と彼に教えてもらう。
あたしは、彼とのそうしたやり取りをずっと忘れないだろう。


そうして再び、庭園の端までやってきた。
そこに咲いているのは、風に揺れるたくさんの紅い花々で…。
「…あれっ?」
あたしはビックリした。記憶間違いだったのかと思って。
「類…。ここってスイフヨウが咲いてたよね?」
「うん。そうだよ」
「えっ? でも……白い花じゃなかった?」
だけど、今、低木に咲き乱れているのはどれも紅い花だ。
あたしのその反応に満足したように、類は種明かしをしてくれる。
「…牧野が驚くのも無理はないよ。朝、そこには確かに白い花が咲いてたんだ」







スイフヨウは“酔芙蓉”と書く。
ハスを意味する水芙蓉とは、語音で混同されやすいが別のものだ。
アオイ科フヨウ属の花木で、フヨウの園芸品種として知られる。
咲き初めは白い花が、時間の経過につれて、人が酒に酔ったときのように赤く染まって様変わりすることから、この名がついたという。

色の変化は、午後以降の気温上昇によって、花に含まれるアントシアニン色素の生合成が進むためだと言われている。アントシアニン色素は、人間でいうメラニン色素のようなものだ。
なぜ最初が白い花なのか、という点については諸説あるが、その方が受粉に必要な虫を引き寄せやすいためだという説が一般的らしい。


丁寧に花の説明をしてくれながら、類は優しく笑む。
「スイフヨウと同じように色が変化する花は、他にもあるんだよ。ハコネウツギとか、ゲンペイコギクとか」
「そうなんだ。色が変わるなんて不思議だね」
あたしはスイフヨウの花弁に触れ、その色の変化をじっくりと確かめる。朝は真っ白だったそれは、今は紅く染まっている。
「すごい。鮮やかな色…」
「今日は、9月下旬にしては気温も高かったしね。綺麗な花を見るには気象条件も大事なんだ」
「だから、今日だったのね?」
「うん」

枝には大きくふくらんだ蕾が鈴なりについていて、明日もたくさんの花が咲くのだろうと思った。
「…あれ? でもしぼんだ花はどうなっちゃうの? 今日これだけたくさんの花が咲いたなら、昨日咲いたものもあったでしょう?」
いい着眼点だね、と類は笑う。
「実は、昨日咲いたものは、蓑井に剪定してもらったんだ。…白い花が咲いてても、その横にある紅くしおれた花を見たら、ネタバレになるからさ」
「…そうだったんだ」


1日に2回のデートの意味が分かった。
この酔芙蓉の美しい変化を見せてくれるためだったんだ…。


あたしは彼の細やかな気遣いにすっかり感動してしまい、満面の笑みになる。
「素敵な花を見せてくれてありがとう。…蓑井さんにもお礼を言わなくちゃね」
「…ん」
繋いだ手を軽く彼の方に引かれ、類の腕の中に抱きとめられる。
驚いて見上げたあたしの唇に、ふわっとしたものが触れた。
類から送られる甘やかなバードキスを、ドキドキしながら受け入れる。
やがて唇が離され、ごく至近距離で彼が言った。
「…牧野も酔芙蓉みたいだよね」
「え…?」
「キスしたら、真っ赤になる」

―そっか。…類は、知らないんだ。
あたしは、痺れたようにぼぅっとする頭で思った。

「…それ、あたしだけじゃないよ」
屈んだままの類の首にするりと両腕を回し、あたしから彼に唇を寄せる。
類が驚いているのが分かった。
彼を真似て、その唇を食むように口づけてからあたしも言った。
「キスすると類も赤くなるんだよ。…それも耳だけ」
「…そうなの?」
類は左手で自分の耳に触れる。
いつもよりほんのりと赤い耳を見ると、あたしは嬉しくなるんだ。

「あたしほどじゃないけど、類も照れてるんだって、それで分かるの」
類はちょっと悔しそうな表情だ。
それが彼をあどけなく見せて、あたしをもっとドキドキさせる。
「…誤魔化せてる、と思ったんだけどな」
「ふふっ。新しい発見だった?」
「うん」
類はあたしを抱きしめて言った。
「あんたといると、どんどん新しい自分に出会える気がするよ」



―もう一回、していい?
―うん。しよ。

あたし達は交わす。
さっきよりも深くて、蕩けそうに甘いキスを。


―で、今日は泊まりでいい?
―えっ……。
―明日の朝も散歩しよ。
―それは……すごく魅力的なお誘いだね。

あたし達は交わす。
明日へと続いていく約束を。

―冬にも、春にも、夏にも、いろんな花が咲くよ。
―また、一つ一つ教えてくれる?
―うん。あんたが望むなら、いつでも。




~Fin~



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いつも拍手をありがとうございます。
酔芙蓉について書いてみたくてトライしたSSでした(^^♪
庭園で戯れる幼少時の類と、その姿を見守る庭師の姿がイメージにありました。
楽しんでいただけましたら幸いです。
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4 Comments

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2018/10/17 (Wed) 00:03 | REPLY |   
nainai

nainai  

ま様

こんばんは。今夜もコメントありがとうございます。
SSを楽しんでいただけたようで嬉しいです(^_^)

実は私も花についてはあまり詳しくありません。ダイヤモンド富士と同じく、テレビで観た酔芙蓉をどうにかSSにできないかなぁと1ヶ月ほど温めていたネタでした。設定が9月なので、3万HITのタイミングでこれを書ければよかったのですが…(;^_^A

原作の通り、作中の類も孤独な幼少期を過ごしました。物言わぬ美しい花々は、幼い類にとってはわずかながらの心の慰めになったかと思うのです。庭師が黙々と自分の仕事をするのを、近くでじっと眺めるのが好きだったかもしれません。
…という感じに、類の幼少期のイメージが先行しまして、今回のお庭デートに相成りました。

SSは気軽に楽しんでもらいたいので、二人の関係も甘々です。流れる時間もゆったりしています。
次の5万HITもSSが書けるよう、ネタキャッチを頑張っていこうと思います。

2018/10/17 (Wed) 00:39 | REPLY |   

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2018/10/17 (Wed) 03:32 | REPLY |   
nainai

nainai  

ミ様

おはようございます。いつもコメントありがとうございます(*´ω`*)

酔芙蓉は、私もこの年になるまで知らなかったんです。レア品種というわけでもないそうなので、もしかしたら知らないうちに見かけているのかもしれません。道すがら綺麗な花だなぁと思っても、調べることもなくそのまま忘れてしまうことも多いですしね。
つくしからのkissは、類の心遣いに対する喜びの表れというか…(*ノωノ) たぶん彼女も照れる類が見たかったんだと思います。…書いている自分が一番照れ照れでしたけれど…。

連載の方はもう終盤ですが、未来に向けてより絆を深めていく二人を丁寧に描いていこうと思っています。今月中には終わる予定でいます。今夜もいつもの時間にUP予定です。最後までよろしくお願いいたします。

2018/10/17 (Wed) 08:21 | REPLY |   

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