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3-28

Category第3章 縒りあうもの
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3-27は限定公開記事でした。
お読みにならない方のためにあらすじを…と思いましたが、今回は特筆すべきことが少ないです(;^_^A そのまま本編へとお進みください。




前日までの長雨が嘘のように、3月20日は未明から快晴だった。
麗らかな春の日、あたしの通う服飾専門学校の卒業式が華々しく執り行われた。
「…卒業生のみなさんの今後の活躍に期待いたします。本日は誠におめでとうございます」
壇上の校長先生はそのように仰って式辞を締めくくり、晴れやかな顔で立ち居並ぶ卒業生達を満面の笑みで送り出した。
―それぞれの未来へと。

「元気でね」
「また会おうね」
すれ違うクラスメート達とそんな言葉を交わし合いながら、菜々美さん、羽純ちゃんと合流する。式後は、菜々美さんのうちで卒業の祝賀会を行うことになっている。
「じゃあ、行きますか」
「はい!」
あたし達は混雑の中を進んで、喜びに湧き立つ集団をそっと離れる。
もう通うことのない学び舎を見上げ、その光景を目に焼き付けた。

つらいこと、苦しいことがたくさんあった。
だけど、それ以上に楽しいこと、嬉しいことがあった。
得難い親友と巡り合うことができた。
様々な想いを胸に、あたし達はここから巣立っていく。



「卒業おめでとう! いよいよ社会人ね」
菜々美さんのお母さんの音頭で、乾杯のために掲げられたグラスがかち合う。
さすがに昼からアルコールは飲めないので、中身はソフトドリンクだ。
食卓に並べられた料理の香りが食欲をそそる。それらは菜々美さんのお母さんと妹、朋美ちゃんの力作だ。あたし達は手を合わせ、さっそくそれらに箸をのばした。料理はどれも本当に美味しかった。

「あっという間の三年間だったわね。…まだ学生でいたいくらい」
菜々美さんがポツリと言う。
「何言ってんの。それはそれは長~い三年間だったわよ。もう学生は十分でしょ!」
菜々美さんのお母さんが笑う。
「…支えてもらって感謝してます。お母様」
菜々美さんもお道化て笑う。

「羽純ちゃんのご両親も、つくしちゃんのご両親も、きっと今日という日を喜んでおいででしょうね」
「はい」
「つくしさんのご両親は、別のことでも喜んでいらっしゃるんじゃないですか?」
羽純ちゃんの言葉に、あたしはちょっとだけ首を傾げる。
「…来週にも入籍でしょう? GWにはイタリアで挙式じゃないですかっ!」
「あっ、そうだね」
あたしの鈍い反応が、羽純ちゃんの怒りに触れる。
今日に至るまで、あたしはしっかり者の彼女に怒られてばかりだった。
そんなやり取りもしばらくできなくなると思うと、一抹の寂しさがこみ上げてくる。


類や彼のご両親と話し合った結果、あたし達の入籍は彼の誕生日に、挙式はイタリア・フィレンツェの教会で行うことになった。結婚式には近親者のみを招待することになっている。
婚姻届にはすでに必要事項を記入済みだったし、挙式の準備は細かい調整を残しつつも概ね整っている。あとはそれぞれの当日を迎えるばかりになっていた。


「…いいなぁ、フィレンツェ」
朋美ちゃんが独りごちる。
「お姉ちゃんだけ、いいな~」
「朋美ちゃん、ごめんね…」
あたしは、菜々美さんと羽純ちゃんの二人は結婚式に招待していた。
東京からフィレンツェまでの移動は、チャーター機を利用することになっている。それにはあたしと類、牧野家の三人、優紀、そして彼女達二人が搭乗する予定だ。
夢乃さん、絵夢ちゃんと芽夢ちゃん、八千代先生も別ルートで移動してくる。ギリギリまで国内で仕事のある西門さんと美作さん、フランスにいる類のご両親、アメリカにいる道明寺と滋さん、ドイツにいる桜子も現地集合の予定だ。
ごく内輪での挙式…。それがあたし達の望む形だった。


「結婚式に招待できる人数には限りがあるのよ。仕方ないじゃない」
「お土産いっぱい買ってくるから。…ね?」
母と姉が同時に宥め始めるので、朋美ちゃんはますますふくれっ面になる。
「…だってさぁ、あの“F4”が集まるんでしょ? 一度でいいから生で見てみたかったのに!」
「えっ? そこ? つくしちゃんをお祝いしたいからじゃなくて?」
拍子抜けしたような菜々美さんの声に皆で笑った。


彼らがF4と称され、絶対的権勢を誇って高校に在籍していた日々は遠い。歳下の朋美ちゃんの世代においても、その通称はまだ健在なのだと改めて感じ入る。
あたしは最初、彼らが大っ嫌いだった。だけど今では、彼らなくしては、あたしの人生は語れないほどに大切な存在になっている。
あの日、美作さんが言ってくれたように、あたし達はこれからもずっと繋がっていけるだろうか。…そうであるなら、本当に嬉しいと思う。


別れを惜しみつつ、菜々美さんのうちから帰宅したのは午後5時頃だった。
花沢家の一員となった以上、防犯上の理由から単独行動は控えるように常々言われているので、あたしは運転手の今井さんに迎えをお願いした。ただ、あまり目立ちたくないというあたしの心情も汲んでもらい、あたしの送迎時にはリムジンではなく、普遍的な国産車が主に使用されている。
…それだって、十分すぎる贅沢だと思うんだけどね。

通用門から車が入り、今井さんに礼を述べて車を降りると、近くで剪定作業をしていた庭師の蓑井さんがあたしに気付いて一礼をしてくれた。
「お帰りなさいませ、つくし様。ご卒業おめでとうございます」
「ありがとうございます。無事、今日を迎えることができました」
蓑井さんとは毎日顔を合わせるわけではなかったけれど、こうして折に触れて、あたし達は会話を交わした。主従関係を強く意識させない彼の接し方は、あたしにはむしろ気安かった。
「寒い中、ご苦労様です」
「なぁに、今年は暖かい方です。…つくし様がこちらにおいでになってからは、とくにそう思いますよ」
あたしはその言葉に微笑みを返す。
「いろいろ不安もおありでしょうが、皆でつくし様を支えます。微力ながら私も。…どうぞ肩肘を張らず、いまの自然体のままでいらしてください」

蓑井さんにそう言ってもらえて、あたしは本当に嬉しかった。
花沢邸で暮らし始めてもう3ヶ月以上になるけれど、あたしには邸宅の敷居はいまだに高く感じられてもいた。一般家庭の出に過ぎないあたしに、類の婚約者だからとごく丁寧に接してくれる皆にも、どこか申し訳ない気持ちがいつも付き纏っていた。
「…蓑井さん、ひとつ、お願いしたいことがあるんです」
「はい、何なりと」
「彼との入籍を記念して植樹をしたいのですが、今からでもお願いが可能でしょうか?」
蓑井さんの目元が和む。実に嬉しそうに。
「…それならば、おあつらえ向きの品種がございますよ」



その日、類が帰宅したのは午後11時過ぎだった。
年度末の業務は多忙を極めるらしい。
康江さん達とともに彼を出迎えたあたしは、類が大きな花束を抱えてドアから入ってくるのを見た。赤いチューリップの束に目が釘付けになる。
「卒業おめでとう」
類はそう言って微笑み、あたしに花束を手渡した。

1年前、一緒に暮らし始める最初の夜にも、彼は同じように赤いチューリップの花束をあたしに贈ってくれた。
胸がいっぱいになる。…様々な想いが去来する。

「…つくしが好きな花だったよね?」
あたしの反応が芳しくないと感じたのか、類の声が少し怪訝そうに曇る。
泣くな、とあたしは自分を叱咤した。
「うん。…類、ありがとう。すごく…嬉しい…」
類は、花束を抱きしめるあたしの手が震えているのに気づいただろう。
けれど優しく目元を和ませ、良かった、と一言だけ呟いた。


康江さんは水切りをしてくれ、美しい花々は、一緒に過ごすことの多い類の部屋の方へと飾られた。うち2本は押し花用に取り分け、あたしの自室へと飾ることにした。

あたしにとって、チューリップは類の優しさの象徴だ。
昔も、…今も。





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いつも拍手をありがとうございます。
お約束ですが出してしまいました。チューリップ…。
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2 Comments

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2018/10/31 (Wed) 09:53 | REPLY |   
nainai

nainai  

金子様

大変申し訳ございませんが、
広告の勧誘についてはお断りさせていただきます。

プロフィールにもお断りの旨を追加記載いたしました。
今後のご案内はご遠慮くださいますよう、お願い申し上げます。

2018/10/31 (Wed) 21:20 | REPLY |   

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