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3.土曜日の彼

Category『Distance from you』 本編
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東京で生まれ育ったつくしは、小さい頃から母方の祖父母宅であるここによく出入りをしていた。生来、動物が大好きだったのだ。
ただ自宅は社宅で動物が飼えないため、つくしは伊佐夫と敏子が飼う動物達と触れ合い、その世話をすることを日々の楽しみにしていた。
その後、つくしが中学に上がる頃、一家は千葉へと引っ越したが、ずっと傍で見てきた伊佐夫と同じ獣医の道を選ぶことは、つくしにとってはごく自然なことだった。

獣医になるためには、医師と同じように6年間大学に通う必要がある。
獣医学部のある大学は全国に限られた数しか存在せず、また都内の国立大学ともなると、その倍率たるや凄まじい競争ではあったが、つくしは一発で難関を突破した。
つくしが獣医になることに、家計的に余裕のなかった両親は難色を示した。
だが、学費は自分が払うと伊佐夫が申し出てくれた。つくしは奨学金を受けつつも、祖父の厚意に甘える形で18歳のときからここで暮らしている。


学業とアルバイトに勤しむ傍ら、伊佐夫の仕事を手伝い、つくしは彼の見立てを学び続けた。

―動物達の目を、耳を、舌を見ろ。
―体に触れて、その肌質を、毛並みを感じろ。

子供の頃から数多くの症例を目にしてきたつくしの診断力は、祖父譲りのものだった。だが、もちろん見立て違いも時にはある。トライ&エラーを繰り返しながらも、つくしは留年することなく24歳で大学を卒業した。
卒業後の3年間は、伊佐夫の後輩が経営している都内のクリニックで修行させてもらったり、また東京近郊の農場で管理獣医師に師事し、牛や豚の健康診断や防疫管理を行ったりして、ひたすら実務経験を積んだ。


つくしがひかわ動物病院に正勤務医として戻ってきたのは、27歳の頃だった。
伊佐夫は高齢になっており、そろそろ引退を、と考えるようになっていた。
つくしが29歳になる直前、近所に往診に出ていた伊佐夫は帰路で体調不良になり、そのまま病院へ搬送された。原因は脳出血だった。
そして、その入院生活も長くは続かなかった…。

伊佐夫が亡くなると、敏子も自分も引退だと言って、病院内の勤務を辞した。
思い出が多すぎるこの家に暮らすのがつらかったのか、敏子は今、千葉にいるつくしの両親と一緒に暮らしている。
そうして、受付の長谷ミチ子、看護師の野島由紀乃と力を合わせながら、つくしは新院長としての毎日を送っているのだった。



いつものように土曜日の午前診療を終え、パソコンでカルテを急いで書き終えると、つくしは受付にいるミチ子に声をかけた。
「データ送りました。会計お願いします。…午前はこれで終わり?」
つくしが問うと、ミチ子は意味ありげな表情を浮かべて振り返った。
「患者さんは終わりですけど、お客様がお見えです」
「………あぁ」
待合室に目線を振ると、文庫本を読んでいたらしい長身の彼がそれに気付いてこちらを見る。その顔にふんわりとした笑みが浮かぶ。
つくしは彼に小さく会釈をすると、さっと診察室に引っ込んだ。

由紀乃が笑いながら、つくしに話しかけてくる。
「“土曜日の彼”ですか?」
「…うん。…最初いい人だと思ってたけど、なんか違うような気もしてきて…」
つくしは腕組みをしながら考え込む。
その様子を見て由紀乃がからかう。
「先生のこと、好きになったんじゃないですか?」
「まさか」
つくしは顔を顰めながら即答する。



毎週土曜日のこの時刻に、類がひかわ動物病院を訪れるようになったのは、シロンの事故の翌週からだった。
翌週にはすでにシロンを入院部屋のゲージから出していて、愛犬と愛猫達のフリールームにしている3階の一室で休ませていた。
つくしがその旨を告げ、今後の見舞いも併せて断ろうとすると、類は有無を言わせない微笑でもって、他のペット達にも会ってみたいと言い出した。
つくしは大いに悩んだ後、それで最後にするつもりで居住空間としての2階、3階へと彼を招き入れた。


―そもそも、あれが、判断ミスだったのよね。
つくしは、その日のやり取りを思い返す。
―あのとき強く断っていれば、きっと毎週の訪問なんてなかったはずなのに。





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いつも拍手をありがとうございます。
『スカーレット』では“金曜日の君”、今作では“土曜日の彼”と称される類です。
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4 Comments

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2018/11/08 (Thu) 01:14 | REPLY |   
nainai

nainai  

ニ様

おはようございます。コメントありがとうございます。
書き込みくださったことが嬉しいです~♪♪

良いところに着目してくださいましたね。
…そうなんです。珍しいパターンを選んでみました。次のお話以降、その傾向がより顕著になっていきます。
もちろん理由あってのことです。どうぞお楽しみに…(*´ω`*)

現在執筆中の部分は物語の中盤なのですが、なかなか筆が進みません💦
しばらくは1日おき更新ですが、気長にお付き合いくださいませ。

2018/11/08 (Thu) 06:28 | REPLY |   

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2018/11/08 (Thu) 22:49 | REPLY |   
nainai

nainai  

m様

こんばんは。今夜もコメントありがとうございます。

お話を書く際、獣医師についていろいろ調べたのですが、“医師”と名のつく職業になるのは本当に大変だと思いました。都内の国立と挙げた大学にはモデルがあり、そこの偏差値は69ですΣ(・ω・ノ)ノ! 
つくしは相当賢い…ということで💦

次のお話は回想シーンです。つくしの愛犬・愛猫達が登場します。
どうぞお楽しみに(*´ω`*)

2018/11/09 (Fri) 00:09 | REPLY |   

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