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4.つくしの家族

Category『Distance from you』 本編
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つくしが初めて3階に類を招き入れた日、つくしの祖父・伊佐夫が趣向を凝らして作ったサンルームを見て、類は感嘆の声を洩らした。
「すごいね。ここ、ペット達のために?」
「はい。犬も猫も外で飼うとどうしても寿命が短くなりがちなので。けれど室内だけで飼うのも可哀そうだからと、祖父がこのサンルームを考案したんです」

3階のフロアの半分は、数年前にサンルームへと改築されていた。窓は開くけれど、猫達の転落防止のためしっかりと網が張ってある。壁面にはキャットウォークが据えられ、床には人工芝が敷かれ、遊具も取り揃えてある。夏の暑さにはサンシェードが、冬の寒さには暖房が、ボタン一つで操作可能だ。

つくしは現在、犬を2匹、猫を3匹飼っている。
4匹は祖父が遺した家族だったが、シロンだけはつくしが連れてきた。いずれも保健所から引き取り、あるいは捨てられていたのを保護した犬や猫達だ。

雑種犬のカイ、17歳、雄。
ボーダー・コリーのシロン、3歳、雄。
雑種猫のファイ、11歳、雌。
アメリカン・ショートヘアのラム、8歳、雌。
マンチカンのミュー、4歳、雄。

悲しいことだが、飼い主達は様々な事情によってペットを手離すときがある。引き取り手が見つかればいいが、そうでないときは保健所に引き渡され、殺処分を受ける場合もある。祖父母はそうした現状に心を痛めていて、可能であれば自宅で引き取り、面倒を見続けていた。結局は一部しか救済できないそうした行動を、偽善的だと見る目もあるだろう。
だが、つくしは祖父母の信念を受け継ぎ、身寄りのない動物を保護して次の飼い主を探してやったり、そのまま引き取って育てたりしてきた。
引き取った命にはもちろん責任がある。つくしは、自分が一人で世話できる限界は5匹だと思っていて、それ以上は増やせなくとも、精いっぱいの愛情で彼らを可愛がっている。


「…シロンは?」
類は早速じゃれてくる猫のファイの相手をしながら、ここにシロンの姿がないことに気付く。
「ここに連れてくるとみんなと遊んで無茶をしてしまうので、別室のゲージに休ませています」
「見に行っても?」
「えぇ」
つくしはサンルームの隣の部屋へと類を案内する。つくしがここの家主になるまで個室として使っていた勉強部屋は、今は動物達の寝室となっている。
「シロン、花沢さんのお見舞いだよ」
シロンはそれを聞くと、サッと立ち上がり、嬉しそうに尾を振った。
その後ろ足には骨を固定するピンが刺さったままだ。その部分を噛んだり舐めたりしないように、シロンの首にはエリザベス・カラーという保護具が巻いてある。
「立ち上がって大丈夫なの?」
「えぇ、走ったりしなければ。あまり行動を制限すると、今度はストレスで不調になるので」
シロンは、屈みこんで手を伸べた類の指先を舐め、しきりに甘えた声を出した。

「…動物は、お好きですか?」
つくしは類の背に尋ねる。
動物達の反応を見る限り、類は彼らに歓迎されているように見える。彼らは、自分達を可愛がってくれる人間を本能的に見分ける。そのセオリーからすれば、類は動物好きであるように思ったのだが…。
「嫌いではありませんが、個人的に飼ったことはありません」
「…そうですか」
なんとなく期待を裏切られた気分で、つくしの声がトーンダウンする。
それに気付いた類はさっと言葉を継いだ。
「ここの子達は皆、人懐っこくてかわいいですね」
「…えぇ、ありがとうございます」
つくしは曖昧に返答をした。
今のは取って付けたようなお世辞だな、と感じていた。



「…あの、こうして二度もお見舞いに来てくださいましたし、シロンの回復も順調ですから、これ以上のお気遣いはもう結構です」
つくしがそう言うと、類は立ち上がり、彼女をじっと見つめた。その視線に居心地の悪さを感じたつくしはさっと部屋を出て先導し、類に階下への移動を促そうとした。
類が続いて部屋を出るとすぐ、マンチカンのミューがその足元にすり寄ってきた。類はひょいっとミューを抱き上げると、つくしにこう言った。
「もう少し、サンルームにいてもいいですか?」
「…えっ」
「普段、動物と触れ合う機会もないですし…。ね? ミュー」
類にのど元を撫でられたミューが、ゴロゴロと機嫌のいい声を洩らしている。

―こらっ。ミューってば! なに懐いてんのっ。
心の中で叱責の言葉を投げながら、つくしは逡巡する。
ミューを味方につけられてしまったようで、それも気に食わない。

「…午後の診療が3時からなんです。それまでの時間でしたら…」
渋々ながらつくしがそう言ったとき、類の瞳がきらりと光ったような気がした。
…悪戯っぽく。
「ありがとう」
「私はすることがあるので2階にいます。何かありましたら声をかけてください」
微笑を浮かべた類と、彼に懐くミューに見送られて、つくしは階下に下りた。



類は2時40分までサンルームに滞在した。玄関で彼と別れるとき、もうこれっきりで、と念押ししようとしたつくしを遮って、類は言った。
「また、ここに来てもいいですか?」
「えっ…」
「シロンの回復を最後まで確かめたいので。…ダメですか?」
直球でそう聞かれると、つくしは言葉に窮してしまう。どう断ったら角が立たないかを考えたが、午後の診療時間も迫っており、返答に迷っている時間がなかった。
「…シロンが回復するまでの期間でなら…」
結局、類に押し切られる形でつくしはそう答えていて、今になってそのことを後悔している。



それからというもの、類は毎週土曜日の同じ時間に、病院に姿を見せるようになった。3階に上がってシロンを見舞い、30分ほどサンルームに滞在すると2階に下り、そこでつくしと他愛もない話をするのだ。
話といっても、彼の話を聞くというより、いつの間にかつくしが話を聞かせる形になってしまっていて、それがまたつくしには面白くない。
類に主導権を握られているような気持ちになるのだ。


つくしの胸中はずっと複雑だった。美しい微笑を浮かべながら、唐突に彼女の日常に紛れ込んできた類の存在を、どうしても許容できずにいた。
―あの笑顔には、きっと裏がある…。
どういう勘が働いたのかは分からないが、つくしはそう思わずにいられなかった。





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いつも拍手をありがとうございます。
…そろそろお気づきでしょうか? 
今回のお話のつくしは、類にまったくときめいていないのです…Σ(・ω・ノ)ノ!
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8 Comments

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2018/11/09 (Fri) 22:29 | REPLY |   

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2018/11/09 (Fri) 22:44 | REPLY |   
nainai

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わ様

こんばんは。今夜もコメントありがとうございます。

今作のつくしは類に対して懐疑的です。ここでときめいてしまっては、ちょっとつまらないですから…(;^_^A そういう二人がどうやって近づいていくのか、という部分を楽しんでもらえたらと思います。

獣医師の話を書くにあたっていろいろ調べたのですが、避けては通れないのがペットブームの裏側部分だと思いました。殺処分の実態を知ると本当に心が痛みます。お話を通じて“光と闇”をうまく描いていければ、と思います。

わ様のご家族のワンコ達は、大切にしてもらえて幸せですね。実体験を教えてくださってありがとうございます。とても参考になります。

2018/11/10 (Sat) 00:26 | REPLY |   
nainai

nainai  

二様

こんばんは。今夜もコメントありがとうございます。

いかがでしょう? その後、眠れたでしょうか?(*´ω`*)
楽しみにしていただいて、嬉しい限りです。

今作のつくしは、そう簡単に類に心を許しません。そんな二人がどんなふうに距離を縮めていくのか、その過程を楽しんでいただけたらな、と思います。
更新頑張ります!

2018/11/10 (Sat) 00:36 | REPLY |   

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2018/11/10 (Sat) 13:57 | REPLY |   
nainai

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m様

こんばんは。今日もコメントありがとうございます。

今作はこういう展開なのですが、お楽しみいただけているでしょうか(*´ω`*)
普通の女性なら舞い上がってしまいそうなシチュエーションですが、つくしの場合はそう簡単にはいきません。彼女の瞳が何を見つめているのか、おいおい明らかにしていくつもりです。

ステップアップにはまだまだ時間のかかる二人です。今後を見守っていてくださいね。

2018/11/10 (Sat) 17:47 | REPLY |   

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2018/11/11 (Sun) 08:43 | REPLY |   
nainai

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ミ様

こんにちは。今日もコメントありがとうございます。

現段階では、つくしから類にベクトルは向いていないんですよ。彼女はとてもクールなんです。類の方は…という部分を、今夜の更新で見ていただけたらと思います(*´ω`*)
この話はもちろんラブストーリーなので、段階的にLoveに進んでもらわないといけないのですが、その過程がなんとも厄介です。また難解なものを題材にしたなぁと自分でも思っています(;^_^A

これまでにない展開を…という望みはいつも変わっていません。これから紆余曲折のある二人を、温かく見守ってあげてくださいね♪♪

2018/11/11 (Sun) 15:04 | REPLY |   

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