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8.過去の片鱗

Category『Distance from you』 本編
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「…それで、散歩友達になっちゃったの?」
親友である優紀との電話の中で、新たに“友人”になった彼の話をすると、怪訝そうな声でそう尋ねられた。不思議がられるのも当然だと思う。これが他人の話だったら、つくしも同じように相手の身の上をひどく心配したことだろう。
「どういう素性の人なの?」
「花沢物産の副社長だって。学年は一つ上」
「はぁ!? 花沢物産って…あの?」
「うん」
「そんなことってあるんだね。…カッコいい?」
「綺麗な顔立ちだとは思うよ。由紀乃さんはファンみたい」
私は興味ないけど、という一言は心の中で呟く。


松岡優紀とは中学時代からの付き合いだ。お互いに実家が千葉にある。
つくしが都内の獣医学部に進学するとき、優紀も都内の大学に通うために引っ越してきた。彼女も動物好きで、ここにも何度も泊まりに来たことがある。
大学卒業後は中小企業のOLをしていた彼女だが、一昨年前、職場の同僚と結婚し、立花姓へと変わった。今年の春に長女を出産し、現在は育児休業中の身だ。


「どう考えても、それ、つくしに気があるんじゃ…」
「…そう思う? でも、私みたいなのに何の冗談かって話じゃない?」
「どうして、そんなに卑下するのよ。相手は冗談じゃないかもしれないよ」
「…そういうの迷惑だから、本当はもう、会いたくないの」
つくしの態度は頑なだ。
「それって、やっぱり、“あの事”も関係してる?」
優紀の声がトーンダウンする。
つくしはその痛みにはもう慣れていて、いまさら動じることもない。
「うん…。まだ克服できてない」
「そう…」
優紀だけが唯一、つくしの過去を知っている。


「でもさ、もし、本当にその人がいい人だったら、…その、向き合ってみてもいいんじゃない?」
「相手は普通の人とは違うんだよ。あり得ないって」
「知り合ったのは、何かの縁ってこともあるし」
「…縁、ね」
その響きに、つくしは小さく含み笑う。
良くも悪くも都合のいい言葉だ、と。
「克服したいっていう気持ちが少しでもあるなら、ある意味でチャンスかも?」
「………………」
「……つくし?」
「いい人かどうかって、どうやって判断したらいいの?」
つくしの声が少しだけ尖る。
「そんなの……簡単には分かんないじゃない」
二人の間に、ピリッとした緊張が走った。

「…………ごめんね」
しばしの沈黙の後、返ってきた優紀の声は消え入りそうに小さかった。
つくしはハッとして、すぐに自分の感情的な言動を詫びた。
「ごめん。キツイ言い方して。…心配してくれてるのに」
「ううん。気遣いが足らなくて、あたしこそごめん」


そのとき、優紀の声の向こう側から赤ちゃんのぐずる声がし始めた。
昼寝から目覚めたのだろう。
仔猫の鳴き声のような愛らしい声を聞きながら、つくしはふっと表情を和らげる。
「麻帆ちゃんを見てあげて? 話聞いてくれてありがと」
「中途半端になってごめん。また電話する。一人で悩まないでよ!」
「うん。…じゃ、また」
つくしは通話終了のボタンを押すと、ソファに深く身を沈めた。


幸せな結婚をした優紀を羨ましく思う気持ちはある。
血を分けた自分の子供は可愛く、とても愛おしいものだろう。
…だが、つくしには元より結婚願望がなかった。



優紀が指した“あの事”。
それはもう10年も前に起きたことだ。
だが目を閉じれば当時のことが鮮明に思い出されて、つくしの胸を暗く塞ぐ。

―やめよう。思い出すのは。

つくしは立ち上がると、3階に向かう。
サンルームの揺り椅子に座ると、すぐ近寄ってくる小さな影がある。
膝の上に飛び乗ってきたラムの柔らかな毛並みを撫でながら、つくしは自分が平常心を取り戻していくのを静かに待つ。
いつの間にか、カイもつくしの足元に蹲っていた。
彼女の痛みに寄り添うような彼らの行動に、つくしはじわりと涙が滲むのを感じた。
過去の古傷がまだ、こんなにも疼いて、痛い。

『友人でしたら、ここに来ていいんでしょう?』

ふいに脳裏に響いた彼の声。
友人の定義って何だろう、とつくしは思う。友人関係を築くには、相手のことが知りたいと思う気持ちが前提に必要なような気がする。

―私は、彼のことを、知りたいと思えるだろうか。





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つくしにも、類にも、過去があります。

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2 Comments

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2018/11/18 (Sun) 21:16 | REPLY |   
nainai

nainai  

m様

こんばんは。今夜もコメントありがとうございます。

さて、今回のお話ではつくしの過去についての記述をしました。類への態度が辛口なのも、その過去が関係していそうです。
二人はaround30。
各々が現在も独身を貫いているのには、それなりの理由が存在します。

つくしと類の間の距離はまだまだ遠いのですが、これが徐々に近づいていく過程を楽しんでもらえたらなぁと思います。
次のお話の更新は、明日11/19です。よろしくお願いいたします(*´ω`*)



2018/11/18 (Sun) 23:43 | REPLY |   

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