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12.悪友達

Category『Distance from you』 本編
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11月23日。
世間的には祝日である今日も、類は通常通りに本社に出社した。
商談などの対外業務がない分、執務室で書類の決裁に集中できた。
祝日の名目は日頃の勤務への労いのためだというのに皮肉な話だ、と類は思う。

その夜、類は呼び出されて会員制バーに足を運んだ。
類が顔を出したときには二人はすでに到着し、飲み始めていた。カウンター席に座り、類も同じショットグラスを頼む。
美作あきら、西門総二郎とは、幼稚舎から長年にわたる付き合いだ。
当代きっての遊び人と称された彼らも、30歳を迎える前にはそれぞれ結婚をし、相手との子を成して後継を得ていた。
彼らの結婚には、当人の自由意思は反映されていない。
もちろん類も例外ではなく、彼らと同じ定めにあるはずだった。


―音沙汰なし、か。
スマートフォンを眺め、類はふぅっとため息をつく。
昨夜電話を切られてから類はメールを二通送ったが、女医からは何の返信もない。
そのため息を、隣のあきらが耳ざとく拾った。
「お前が連絡を気にするなんて珍しいな。……まさか、女か?」
無言ながらも類が小さく笑みを返すのに、あきらも、その隣に座っていた総二郎も驚いて言った。
「おっ! マジか?」
「どんな女だよ?」
「…俺のこと、まるっきり無視して平気でいられる女性ひと

二人は顔を見合わせる。
「お前を袖にするとはな…」
「…それ、脈ないんじゃね?」
「ん~。なんだかんだで関係を絶たれずに2ヶ月経ったし、ちょっとずつ打ち解けてくれてはいるよ」
「はぁっ!? 2ヶ月?」
総二郎が目を剥く。
「いや、それ、絶対に脈ないだろ…」
あきらも苦笑した。
「しかも、まさに今、その女から無視されてるんだろ?」
「うん。…でもさ、どうしても気になるんだよね」

総二郎がカウンターに身を乗り出して聞く。
「年は?」
「一つ下」
「美人か?」
「磨けば、かな。お洒落には無頓着だから。…俺は、そのままでいいけど」
「職業は?」
「獣医師」
へぇぇ、と二人は興味津々だ。
「白衣か…」
「ヤラしいな」
「…は? そんなんじゃないし」
「どうやって知り合ったんだよ」
あきらに問われ、類は彼女との出会いの一部始終を簡潔に説明した。

「こっちが近づこうとすると、あっちはすぐ遠ざかろうとするんだよね。…どう思う?」
「…単純に、お前のことが迷惑か」
総二郎が別の選択肢の可能性を示し、あきらがそれを引き継いだ。
「…過去に、男関係で嫌な思い出があるか」
類は頷く。
「後者かなって気がする。なんとなく」
「そういう相手は難儀だぜ? つらい過去を乗り越えさせるのは、こっちの忍耐がいる」
あきらの言葉に、類も自嘲気味に笑った。
「…俺にも、過去はあるしね?」

一瞬、場の空気が張りつめたが、総二郎が努めて明るく場をとりなす。
中條なかじょう家のことなら気にすることねぇよ。紗穂は結婚して、もう子供もいる」
あきらも同意する。
「お前のみそぎも済んだと考えて差し支えないさ。…もう5年になるんだから時効だろ」
「5年、ね」
類は静かに振り返る。


5年前、婚約関係にあった中條紗穂に投げつけられた言葉が、まだ耳の奥にこびりついている。
『どうして、私じゃダメなんですかっ?』
『悪いところがあるなら直します。理由を仰ってください!』
最後に会った日、可憐な花のように美しい彼女にその顔を歪ませ、声高にそう叫ばせたのは他でもない自分だった。
紗穂のせいではない。おそらく彼女でなくても婚約は破綻したはずで、彼女には心から申し訳なく思っている。…だが、それ以上の感情は湧いてこない。


グレーの記憶が封を解かれ、身の内を侵食しようとするのをぐっとこらえる。
その反動のように、唐突に芽生えてくる想いがある。
―逢いたいな。
ともすれば自分を突き放し、冷めた瞳で見つめる女医に。
どうしてこんなに彼女に惹かれるのか、自分でも分からない。…だが。
―もっと、彼女のことが知りたい。
―俺のことも、知ってほしい。


「お前がその女医を一方的に好きなのは分かったけど、一つだけ忠告しといてやるよ」
あきらは一拍の間をおいて、低い声音で言う。
「振られても、ストーカーにはなるなよ?」
「…自信ない」
「おいおい。なる気かよ」
総二郎の突っ込みに、類は応える。
「誰かを好きになるとか、もう一生、俺にはないと思ってたから」
手の中のショットグラスを煽って言う。
「ちょっとやそっとじゃ、諦めきれない」

あきらがくつくつと笑う。
「だいぶ重度らしいぜ、総二郎」
「類、悪いことは言わねぇ。煮詰まったら連絡しろ。暴走する前に止めてやる」
総二郎の言いように、類はまた小さく笑った。
「まずは、早いうちにお前の事情をちゃんと明かしておけ。けっこうヘヴィーなんだからよ。相手は一般人なんだろ? その時点で無理だってこともある」
「そうだね」
類は、心に決めた。
次に会うとき、つくしに自分の過去の一端を明かしてみよう、と。





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いつも拍手をありがとうございます。やっとこさF2登場…(;^_^A
ここでも類のよき理解者である二人です。
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