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14.ドライビング・タイム

Category『Distance from you』 本編
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翌朝、つくしが支度を終えて6時50分に戸外に出ると、約束の7時より早いにもかかわらず、類の車が駐車場のいつもの位置に停まっているのが見えた。
―早起きは苦手だって言ってたのに。
つくしは小さくため息をつく。
昨晩、自分が了承したことだ。分かっている。だけど…。
気を取り直して自分の軽自動車に荷物を積み始めると、そこに車を降りてきた類の声がかかった。
「おはよ」
「…おはようございます」
「俺が運転するから、こっちに乗れば?」

その誘いにつくしは逡巡する様子を見せたが、やがて類を手招きした。
「養豚場の敷地内に入るときに、防疫のために車も消毒されるの。車は泥で汚れるし、私の車で行きましょう」
「いいの? 運転は?」
「私がする。助手席にどうぞ」
つくしは助手席のシートを最大限まで後ろに下げた。
長身の彼が窮屈でないように。
「…どう? 乗れる?」
「うん。軽自動車って思ったよりは広いね」
類のセリフに、これまでの生育環境の違いを改めて感じ取り、つくしは類に気付かれぬよう苦笑した。


―ドライブが始まって30分。
休日の朝の道路には大きな混雑がなく、車はナビの示す予定よりも早く通過点を過ぎ、目的地に向かう。車内のラジオからは、流行りのPOPナンバーが低いボリュームで流れていた。
普段からつくしは、自分からはほとんど話題を振らない。類が質問をすれば、それには応えるという形でのみ会話は進む。
だが、今日はその返答でさえもどこか鈍かった。
類は、彼女の表情がいつも以上に固く強張っていることを素早く察知した。

「…あのさ、今日、具合悪い?」
「え? …うぅん」
「顔色が冴えない」
「…ここのところ、仕事が忙しかったから…」
「保険は限定してるの? 運転代わってやろうか?」
類の申し出に、つくしは首を振る。
「ありがとう。でも大丈夫。…到着までまだ時間かかるし、眠ってていいよ」

“眠っていていいよ”なのか。
“眠っていてくれた方がいいよ”なのか。

類はつくしの横顔を見つめ、やがて静かな声で同意を示した。
「…朝早かったし、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「うん。着いたら起こすから」
類はつくしの勧めるままに背もたれを倒し、眠ったふりをしながらそっと彼女の様子を窺い続けた。
つくしはしばらく走った後、信号で止まった際にちらりと類の方に視線を振った。類は眠ったふりをする。彼女はすぐ前を向き、両手でハンドルにもたれかかるようにして、弱々しいため息を吐いた。

―もしかして、緊張してる?
―最近では、そんな反応をしたことはなかったのに、どうして?
どこか落ち着かない彼女の様子に、そんな疑問が浮かんだ。



目的地に近づくと、つくしは眠っている類に声をかけた。
「花沢さん、起きて。もうすぐ着くよ」
「…ん…」
しばらくは眠ったふりを続けていた類だったが、日常業務の疲れもあって、いつしか眠りに落ちてしまっていた。
つくしには言えないことだったが、彼女と会う時間を捻出するために、類はこれまで以上に平日の仕事量を増やしていた。
その姿勢から、秘書の田村は類の本気度を察したようだ。できるだけ土曜日の午後には仕事が入らないように、密やかに配慮してくれている。
もちろん昨日のように、融通がきかない日もあるが…。

体を起こそうとして、ふと、柔らかな感触が手に触れた。
…薄地のブランケット。
いつの間にか、それが自分の上半身にかけてあった。
「これ、かけてくれたの?」
つくしは前方に視線を固定したまま応える。
とても小さな声で。
「…風邪ひいたらいけないから」
「ありがとう」
彼女にしてみれば、そうしたことも些細な気遣いの一つに過ぎないのだろう。
相手を好むと好まざるとに関係なく、“寒そうだから”してくれただけのこと。
実直な彼女らしい行動。
それでも、類は嬉しかった。





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今はまだ、楽しいドライブとはいかない二人です。その理由は追い追い…。
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