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16.近づきたい

Category『Distance from you』 本編
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ナビの画面が示す時刻は、正午だった。
「ちょうどお昼になったね。昼食はどうする?」
どこかに立ち寄ることを提案すべく、類がそう問うと、つくしは後部席に置いているバッグを指して言った。
「お握りを作ってきてるの。よかったら食べて。…あなたが、私が作った物でも食べられるなら、だけど」
「俺の分も考えてくれたの?」
「…カイの体調が良くないから、あまり家を長く空けたくないの。申し訳ないけど、寄り道せず帰っていい?」

知らされた内容の深刻さに、類は声もなくつくしの横顔を見つめた。
“散歩友達”になってからは、3階のサンルームへは上がらせてもらえていなかったので、シロン以外の動物達の様子を類はあまり知らなかった。
「…カイ、具合悪いの?」
「もう、おじいちゃんだからね。…年は越せないかもしれない」
答えるつくしの顔には痛々しさがあり、多くを語らない彼女の苦しみを垣間見た気がした。


―つらいと思うこと全部、話してくれたらいいのに。


類はそう思うが、口にすれば彼女の心がより遠ざかる気がして言えない。
それでなくとも今日は、いつもよりも彼女との距離が遠くに感じられてならない。


類は後部席に手を伸ばし、バッグを引き寄せて中のお握りを取り出した。
「ごめんなさい。不揃いだし、冷たいままだけど…」
「ん。構わない」
丁寧に巻かれたラップを剥き、最初の1個をつくしに手渡そうとした。
「どうぞ。運転しながらでも食べられるよね?」
だが、類が差し出したお握りの受け取りを、彼女は頑なに拒否した。
「後でいい」
「え? でもさ…」
「信号で停まったとき自分で取れるからいいの。…先に食べて」
道は直線道路だ。
その左手をこっちに向けてくれるだけで、すぐ手渡してやれるのに。

彼女から放たれる拒絶の気配。
いつの間にか、つくしの横顔には、行き道のときと同じ緊張の色が浮かんでいた。

「…じゃ、先にいただくね」
類は差し出した手をそっと引き戻し、そのまま口元へと運んだ。
唇に触れるお握りは確かに冷たかったが、午前中の作業で空腹だったし、塩加減も絶妙に感じられて美味しかった。バッグにはペットボトルのお茶も準備してある。
ちゃんと彼女が自分の分も考えていてくれたことは嬉しいのに、やり取りには相変わらず見えない壁があって、類はそれをひどく焦れったく感じた。


―どうしてだろう。
―何が、いけないんだろう。



帰り道も渋滞は少なく、ナビの予想よりも早く二人は家に帰りついた。
「カイを見舞ってもいい?」
「……えぇ」
つくしは一瞬の躊躇いを見せたが、類の顔を見ると断れないと感じたのだろう。無駄な駆け引きを繰り広げるより、早くカイの様子が見たかったのか、あっさりと了承の意を示した。
つくしは荷物を置き、手を丁寧に洗ってから3階に上がる。類もそれに倣った。
「ただいま」
類がつくしの後ろに続いて姿を見せると、真っ先に駆け寄ってきたのはシロンだった。類が、飛び跳ねながらじゃれてくるシロンの相手をしている間に、つくしは、揺り椅子の近くに伏せているカイの傍に行く。
「カイ、調子はどう?」
老犬はピクピクッと耳を揺らし、のっそりと顔を上げた。手を伸べたつくしの指先を舐め、元気だよと健気にアピールをする。つくしはホッと安堵の息をついた。

しばらくカイの体調を細かく観察していると、頭上にすいと影が差した。
類がカイの傍に寄ってきたことが分かると、つくしはその場を彼に譲った。
「先に下りるから、ごゆっくりどうぞ」
「…分かった」
つくしは素早く立ち上がり、類を置いて行ってしまう。
…まるで、避けるように。



「ねぇ、カイ」
類はしゃがみ込み、優しく語りかけた。
「俺さ、先生が好きなんだ。すごく。…でも、先生の方はそうじゃないみたい」

いつまでも縮まることのない、彼女との距離。
だけど、どうしても近づきたい。

カイは白く濁った瞳で、じぃっと類の目を見上げている。
「望み薄だけど、これから俺の過去を話してみようと思う」
彼が人語を理解できるとはさすがに思わない。けれど類は、サンルームの主であるこの老犬に、無性に自分を認めてほしい気がした。
「受け入れてもらえるかは分からない。だけど知ってほしいんだ。俺のこと、全部」
瞬間、カイは、ワフッと一声鳴いた。類に応えるように。

―なんて、いいタイミングで鳴くんだろうね。お前は。

「応援してくれてるってことで、いい?」
類は満面の笑みを浮かべ、カイの頭を撫で回した。
老犬は目を閉じ、悠然とそれを受け入れた。





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いつも拍手をありがとうございます。
例によって細かい描写が多く、前振りが長くて申し訳ございません(;^_^A
いよいよ各々の過去に迫ります。
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2 Comments

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2018/12/04 (Tue) 11:02 | REPLY |   
nainai

nainai  

わ様

こんばんは! コメントありがとうございます。
嬉しいです~(*´ω`*)

さて、もうお分かりのように今作はジレジレ展開なのです。物語の中では、もうすぐ出会いから3ヶ月が経つというのに、二人の距離はちっとも縮まっていないという…(;^_^A 
つくしは、友人としての立場を類に許しましたが、なかなかそれに馴染もうとはしません。ここから類が頑張ります! 奮闘を見守っていてくださいね。

今作は1話分の記事の文字数が、前作よりも少なめです。UP前の推敲を楽にするためなのですが、物語の進行が遅くなってしまうのでもう少し頑張らねばなぁと思っています。

2018/12/04 (Tue) 22:06 | REPLY |   

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