FC2ブログ

19.告白

Category『Distance from you』 本編
 0
「…俺のあんたへの気持ちは、錯覚だって言いたいの? 現実から目を背けてるだけだって…」
類の声がわずかに強張る。
目線は合わせないままに、つくしは頷く。
「話を聞いた限りではそう感じた。…だって、分からないから。あなたが私なんかを気にかける理由が、全然理解できない」
その顔に浮かぶ、自嘲的な笑み。
発された言葉からも分かる。彼女の自己評価がとても低いこと―。
「理由ならたくさんあるよ」
類は即答する。

「先生は、俺を特別視しない。俺の肩書や出自を聞いてもそれは抜きに、ずっと俺という個人に接してくれた。…まぁ、優しくないときも多かったけど、あくまでもフェアを貫いてくれた。…このことって、実は俺にとってはとても重要だった」
「…興味がなかったのよ。そうしたものの一切に」
つくしの反駁は聞かなかったことにして、類は話を続ける。

「仕事に対する姿勢に感銘を受けた。小さな命と向き合うことにいつも一生懸命で、そのひとつひとつの死にも、慣れることなく相対していくよね」
「動物は人と違って裏表がないから。…私にとっては、心を傾けてあげやすいだけ」
つくしは決して類に同調しない。
それでも類は微笑む。つくしが怯んでしまうほどに優しく。

「カイ達を見てれば分かる。先生が、どれほどの愛情をあの子達に注いできたのか。…逆に言えば、あんたはそれだけの愛情のポテンシャルを持ってるってことだ」
「………………」
たくさんの愛情を注がれて育ったからこそ、5匹は心優しくあのサンルームで類を迎え入れてくれた。初めてサンルームに足を踏み入れたときの心地よさを、類はきっと忘れないだろう。

「見かけだって、こんなだよ? 女らしさの欠片もないし、あなたとは釣り合いようもないよ」
つくしが先んじてそう言い出すと、
「自分以外のことを優先して、自分のために時間を割かないからだろ? …俺、今のままの先生でも十分に魅力的だと思うけど、ちょっと手をかければあんたは変わるよ。素地はいいし。そこは保証する」
「…そんな保証、いらないし」
彼女から苦笑が洩れ、類はなんとなく攻勢が変わってきたのを感じた。
いったん言葉を切ると、背筋を正し、類はつくしに告げた。


「錯覚でも、勘違いでも、現実逃避でもない。…俺は、先生が好きだよ。牧野つくしという一人の人間に、心底惚れてる。…こんな気持ちになれた自分が信じられないくらいに」
つくしの瞳に浮かぶ、強い、強い揺らぎ。
「決して人に誇れる人生を送ってきたとは言えない。俺に愛を語る資格がないことも分かってる。……でも、あんたに愛されたらどんなに幸せだろうって、そればかりを考えてしまう」


―その瞳に、俺を映して。
―俺の気持ちを、分かってほしい。
―あんたに触れたい。…抱きしめたいんだ。


つくしに会うたびにその想いは強く大きくなり、胸の奥が熱くなる自分を類は自覚していた。彼女が受け入れてくれれば、自分のできる精一杯で彼女を愛するだろう。
かつての自分には一度としてできなかったことなのに、つくしに対しては、確信的にそうできるという自信が類にはある。

これが愛しいという感情なのだ。
静が言っていたことは正しかった。
かつて静に抱いていた感情と、つくしに抱く感情はまったく異なるもの。
そう思えた。


―だが。



「…誰なの?」
「え?」
「誰が、あんたをそうさせたの?」
さっと、つくしの顔色が変わる。
「俺がこうなってしまったのは、もともとの生育環境に依るところが大きい。…でも、先生は違うよね。俺みたいに、愛情を知らずに育ったわけじゃない」
彼女にそのことを問うのは時期尚早だということも分かっていた。だが、逢うのをこれきりとされてしまえば、もうそれを問うタイミングを逸してしまう。


ふぅっと、つくしがため息を吐く。口を開きかけ、躊躇っては口を閉じ、幾度もそれを繰り返す様を見ていると、類まで息が詰まりそうだった。
やがて、つくしの目にうっすらと光るものが浮かび始めると、初めて見る彼女の涙に類は胸を突かれ、これ以上の無理をさせてはいけないと判断するに至った。心の負荷が大きすぎるのだ。
「先生、ごめん…。そのことは、質問したらいけなかったんだね」

思い出すことも、口にすることも難しいような過去。
深い、深い心の傷…。


だが、つくしは話し始めた。
意を決したように。


「…大学1年生の冬で、19歳になったばかりだった」
「え…?」
「私が、あの人と出会ったとき」
「いいの?」
類の問いに、つくしは頷いた。





ブログ村のランキングに参加しています。ポチッとお願いします☆

いつも拍手をありがとうございます。次回つくしの過去編です。
少しヘヴィーな仕上がりになったかもしれません…(-_-;)
関連記事
スポンサーサイト



0 Comments

Post a comment