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21.揺らぐ

Category『Distance from you』 本編
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「いくらでも待てるって、言われたの!?」
「うん…」
「あの事も知った上で、その反応なのよね!?」
「うん…」
優紀から、類とのその後を窺う電話がかかってきたのは、休診日である水曜日の午後だった。つくしは優紀に先日の類とのやり取りを明かした。
類側の事情については軽く触れるにとどめて。
優紀の反応たるや、つくしが身を竦ませてしまうほどの驚嘆ぶりだった。

「…で、つくしは、彼になんて答えたの?」
「ちょっと考えさせてほしいって言った…」
「えぇぇっ、なんでよ」
「なんでって! そんなの…すぐ答えられないよ…」
声は尻すぼみになる。
優紀は、つくしの困惑気味の声音から一つの可能性を探った。

「…付き合ってみたら? 花沢さんと」
「でも…」
「好きなの? 嫌いなの?」
「…よく分からない」
「好きでもないし、嫌いでもないの?」
「それも分からない。…あの人、宇宙人みたいなんだもん…」
何を言い出すのか、予測不能で分からないことだらけだ。

「でもさぁ…本当に嫌だったらその場で断れたよね。…迷ってるんでしょ?」
「………………」
「自分の中でも少しは前向きな検討ができてるってことじゃない。…進歩だよ。恐れないで飛び込んでみなよ」
それでも、つくしの態度は煮え切らない。
「返事はいつするの?」
「特には決まってなくて。…今週の土曜、いつものようにここに来るみたい」
「じゃあさ、その日、私も同席してあげようか? 一度、その御曹司とやらを拝んでみたいしさ」
「……目的はそこ?」
「違うわよ。つくしが心配だからに決まってるでしょっ?」

ここで、つくしは思った。
一度、優紀と彼を引き会わせてみてもいいのではないかと。
彼のことを第三者の目で見極めてほしい気がした。
他力本願だと思われたっていい。
自分一人では、すでに思考の堂々巡りに陥ってしまっている。

「本当に来てくれる? 頼むからドタキャンしないでよ」
「もちろん! 親友の一大事だもの。這ってでも行くわよ」
優紀には類がいつも来る時刻の20分前を指定して、通話を終えた。




待ちわびた電話がかかってきたのはその夜だった。
つくしは入院中の動物達の体調変化を看るために1階に下りていた。
着信の相手は、養豚場経営者の竹井だ。
「竹井さん! 検査結果が出たんですね!」
挨拶もそぞろに意気込んでつくしが問えば、竹井は穏やかな声で返答をくれた。
「検査は陰性だったよ。先生の見立ては正しかったね」
「あぁ、良かった…」
つくしはホッと胸を撫で下ろす。

豚の感染症は恐ろしい。元より抵抗力の弱い豚は、いったん病気にかかってしまうと次々に頓死するからだ。感染症の種類によっては、農場内の豚すべてが殺処分される場合もある。


「下痢の原因も分かった。先生の指摘の通り、新しいLOTの飼料が原因だった。他にも同様の問い合わせがあって、そのLOTはメーカーの回収対象になったよ」
「じゃ、あれはやっぱり消化不良ですか?」
「あぁ、飼料の原材料の入荷先が変わってたらしくてな。加工工程に問題があったらしい。メーカー側は無償で改良型を寄こしてくれたからもう問題なくなった。三嶋先生がよろしく言ってくれって」
「お役に立ててよかったです。先生にもよろしくお伝えくださいね」

それで話は終わったと思ったのに、それはそうと、と竹井が前振りをするので、つくしは嫌な予感がした。
「こないだは忙しくて話せなかったが、先生が連れてきたあの男は彼氏か?」
「…いいえ、友人です」
「先生の友人は、わざわざ仕事先にまでついてきたりするものかい?」
「…奇特な人なんです。とっても」
確かに変わってたよなぁ、と竹井が豪快に笑う。

「嘉子が言ってたぞ。慣れない手つきで何やかやと手伝ってくれたって。そうしながら、先生のことをいろいろ聞き出そうとしてたって」
「…そうですか」
「彼の方は先生に気があると見た。嘉子も同意見だ」
まさに養豚場から帰ったその直後、彼から想いを告げられたとは言えないつくしだった。…妙に顔が火照る。
「…それじゃ、竹井さん。仕事がありますのでこれで。…嘉子さんにもよろしくお伝えくださいね」
「おぅ、先生またな」
類に関してはノーコメントを貫いたまま竹井との電話を終えたが、どっと疲れが増した気のするつくしだった。


なんだろう。
最近は彼のことばかり話題にして、彼のことばかり気にしている。
振り回されて自分らしくもない。


お風呂に入ろうとして、彼が贈ってくれたバスオイルの存在に気付く。もらった日の夜に1本を使用してから、まだ次を使っていなかった。つくしは2本目の小瓶の封を切り、バスタブに全部を注ぎ入れた。
ミントの清涼な香りが浴室を満たしていく。
『リラックスタイムにどうぞ』
几帳面な、彼の字。
彼の書いてくれたメッセージカードは、なんとなく捨てられなくて取ってある。バスオイルの空き瓶も浴室の窓辺に並べて置いている。目にすれば類のことを思い出さずにはいられないのに、なぜか捨てることができない。

肩まで湯につかり、はぁっと吐き出す吐息は重い。
バスタブの縁に後頭部を預け、ぼぅっと天井を見上げることしばし。
『俺達の間にはまだいろんな問題があるけど、一緒に克服していこうよ。…ね?』
類の落ち着いた声が脳裏に響く。

自分を見つめる瞳の中にある、揺るぎない強い光。
…彼の光は、いつか私の屈託を払拭し得るだろうか。

「…本当に、どうしたらいいの?」
無意識に膝を抱きかかえていた。バスタブの底についた足先をじっと見つめる。
つくしの呟きに応える声は、もちろんない。





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いつも拍手をありがとうございます。つくしの心は揺れています。
ジレジレ展開ですみません…。
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2 Comments

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2018/12/14 (Fri) 13:26 | REPLY |   
nainai

nainai  

ま様

こんばんは。コメントありがとうございます。
とても嬉しいです~(^^♪

今作の類はとにかく一途なんですよね。“頑張れ~!”と応援したくなるような彼を、丁寧に描いていきたいなと思っています。対称的につくしはとてもクールです。でも、そのクールな表情こそが彼女の仮面なのです。
まだスタートラインに立ったばかりの二人ですが、これからいろいろな事があって二人の距離はどんどん縮まっていきます。ジレジレ展開ですが温かく見守ってくださればと思います。

私の家庭的な事情もあり、相変わらずの遅筆なのですが、仮原稿では後半部分を書いています。連載は今回も長期化の予感です💦 更新頑張ります!

2018/12/14 (Fri) 21:19 | REPLY |   

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