FC2ブログ

Best partner ~後編~

Category6万HIT記念
 4
週明けの放課後、「今日も車で送るよ」と申し出てくれた類に微笑み、あたしは彼に手を差し出した。その手を大きな手に包まれる。
あたし達は、迎えに来てくれた類のうちの車に乗り込んだ。
「疲れてるなら、また膝を貸すよ?」
軽い口調でそう提案されたが、あたしは首を振る。
「うぅん。週末いっぱい甘えさせてもらったから、今日は類の番ね」

あたしがそう言って自分の両腿をポンと叩いて誘うと、“いいの?”って顔をして類は身を横たえ、頭を乗せた。その柔らかな髪を撫で梳いていると、彼への愛おしさで胸がいっぱいになる。
大学の講義の合間に、会社でインターンシップの研修を受けている類が、実はとても疲れていることをあたしは知っていた。



「…あのね、変な事、訊いてもいい?」
あたしがそう言うと、うっとりと気持ちよさそうにしていた類が、ぱちりと瞳を開け、あたしを下から見上げた。
「いいよ、何?」
ちょっとだけ言い淀み、だけど大事なことだから、と自分を励まし、思い切って訊ねてみる。
「類は、気づいてたんだよね? あたしが…その…体調が悪いこと」
「…そうだね。顔色良くなかったし」
類はあっさりと肯定する。
「その原因も分かってたよね? だから負担にならないように、予定を変更してくれたんでしょ?」
「………………」

…あぁ、やっぱり変な事を訊いているのかな。
そう思いながら、類の澄んだ瞳をじっと見下ろしていると、急に恥ずかしさがこみ上げてきて、頬の辺りがカァッと熱く火照っていくような気がした。
類はちょっと考え込むような反応をした後で、小さく頷いた。
「…夏に、会社であるセミナーを受けたんだよね」


類の話はこうだった。
花沢物産では、女性のキャリアを育成しようという試みが以前から積極的に行われている。そのライフステージへの理解を深めるために、あるセミナーが2回に分けて開催され、その中で女性が長く働く上で突き当たる問題が取り上げられたそうだ。

女性特有の月経や月経前症候群(PMS)、妊娠に伴う体調不良、出産と育児、閉経に伴う更年期障害など、女性の一生を追った幅広い事例が紹介され、そうした不調や転換期への正しい知識と理解とが必要であることが、切々と説かれたという。そうした理解は、近年問題視されがちなハラスメントを防止することへも繋がっていく。
アメリカや欧州の企業では当たり前のように周知されているそれらのことは、日本においてはいまだ理解が後進的であることが指摘されている。それが女性キャリアの育成を阻んでいる、とも。
プライベートにおいても、女性側からは打ち明けにくい不調を、パートナーが理解し、察してあげることも大切だと女性講師は語り、類は“なるほど”と思ったのだそうだ。


「改めて勉強してみると、知らないことも多かったなと思って。受講する前は不調なら不調って言えばいい、って軽く考えてたんだけど、女性心理からすると、そう簡単なことでもないんだよね」
「…うん。そうだと思う」
「で、様子を観察すると、あんたはけっこう分かりやすくてさ」
「そっ、そうなの?」
にわかに羞恥心が湧き起こり、あたしが思わず片手で口元を覆うと、類はとても真剣な顔で言う。
「無意識なんだろうけど、腰やお腹を気にする動作があったり、今回みたいに顔色が悪かったりして分かる。…でも、それはいつも一緒にいる俺だからだよ」
そう言って、類はおもむろに体を起こした。あたしの手を繋ぎ直して引き寄せ、彼の膝の上に置く。


「俺達、けっこう何でも話して、お互いのことを解り合ってると思う。…だけど牧野にとって、今でもそのことはデリケートな話題なんだろ? …だから不調だって分かっても、自分から打ち明けてくれるまでは、触れずにいた方がいいんだろうって思ってた」
「類…」
「そういう時期になると、あんた、会うのを避けるようになるよね。で、会ってても不調を訴えないし。それが牧野なりの俺への気遣いの形なのかもしれないけど、俺はいつでも一緒にいたいし、でもって無理なく過ごしたいんだよね…」


予定変更は、彼の気まぐれなんかじゃなかった。
類なりのあたしへの気遣いの形が、車での送迎であったり、負担の少ないデートプランへの変更だったりしたというわけなのだろう。そうした細やかな配慮は、類のくれるたくさんの優しさの中に紛れてしまって気づけずにいた。
そんな自分を密やかに恥じる。


「…変に気を遣わせちゃってごめん。今回のことも、これまでのことも、本当にありがとう。今度からはきちんと伝えることにする」
「うん。別に恥ずかしいことじゃないし」
「告白ついでに言っちゃうと、あたし、けっこう不調の波が大きくて、体がつらいなって思うことが多いの…」
「…うん。分かってた」
類はあたしの頭をよしよしと撫でてくれる。
「ちゃんと教えてよ。楽しいことだけじゃなくて、つらいことも、全部共有したいからさ。それでこそ、ベストパートナーだろ?」
あたしは小さく何度も頷いた。
彼のそうした想いに胸を打たれて、なかなか次の言葉が出てこなかった。



それからは、不調を感じたときは早めに打ち明けて、できるだけ負担なく一緒にいられるようにした。予定が変更になっても、類は嫌な顔一つ見せず、そのときにできる最良の方法であたしを気遣ってくれる。
その代わり、不調じゃないときにめいっぱい自分を甘やかしてほしいと言われ、それには一体どうすれば…と頭を悩ませることしばし。

「特別なことは望んでない。ただいつも俺の傍にいて、俺の話を聞いてくれて、笑顔を見せてくれればそれで」
あたしの笑顔が好きなんだと、類は言う。
それだけでは不公平じゃないか、とあたしが言えば、
「そうだな…。じゃあ、1対3でどう?」
「…何の比率?」
「甘やかしタイムの時間比率。牧野の持ち分が1、俺が3。それで帳尻合わせをするのは?」
何それ、とあたしが笑うと、決まりね、と彼も笑った。


後日、類はアル・シュトーの画集をプレゼントしてくれた。展覧会で観た作品だけでなく、他の美術館に保管されているという彼の作品もまた、どれもが素敵だった。
いつか彼の描く愛に満ちたカンヴァスのように、温かな家庭を類と築きたい。
心からそう思う。


これからのあたし達には、いろんなライフステージが待っている。
同じ未来を描いていくなら、一緒に乗り越えなければいけない様々な困難も。
類には類の、あたしにはあたしの、為すべきことがある。
各々にしかできないことがある。
だけど、あたしに課せられたものより、類に課せられたものの方がより大きく、重く、複雑で成し遂げにくいものであることは確かだ。

類があたしのベストパートナーでいてくれるように、あたしは類のベストパートナーとして、ずっと彼を支えていきたい。
あたしの笑顔が好きだと言ってくれるのなら、いつでも笑みを絶やさずにいよう。
だけど、笑顔になれないときは無理をせず、それを隠さないでいよう。
自分にも、相手にも、正直であることがまず大事なんだよね?


「類もちゃんと教えてね。あたし鈍感だから、つらい時は言ってくれなきゃ分かんない気がする…」
「そう? 牧野はけっこう分かってくれてるよ?」
「いつでも、どんなときでも、類のベストパートナーでいたいから」
そう言うと、答えの代わりに、あたしの大好きな彼の笑顔と熱いハグが返ってきた。




~Fin~





今作は、“健やかなる時も、病める時も”というフレーズを意識しながら書きました。
類の説明にあった女性理解のためのセミナーは、実際に実施されているそうです。
いわゆる“病気ではないけれど、病気並みの不調”が女性には多いよなぁ、と思い、テーマにしてみることに…。SSのお話として立ち上げるには難易度が高く、書き上げた後も長い間推敲に悩み、公開するのを迷いました。…頑張ってみましたが、いかがだったでしょうか(→自信なし💦)。
つくしの独白にある、『笑顔になれないときは無理をせず、それを隠さないでいよう。自分にも、相手にも、正直であることがまず大事。』という部分に今回の主旨を表しているつもりです。相互理解はやっぱり察するものではなくて、話し合いによって深まるものだと思っています。




ブログ村のランキングに参加しています。ポチッとお願いします☆

いつも拍手をありがとうございます。記念SSでした☆
関連記事
スポンサーサイト



4 Comments

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/12/20 (Thu) 23:42 | REPLY |   
nainai

nainai  

ま様

こんばんは。温かいコメントをありがとうございます。
嬉しいです♪

いいお話……そう言っていただけると……(ノД`)・゜・。
これまでのSSの中でも苦心惨憺の作品でした。なんとか纏めることができてホッとしています。
自分自身がフルタイムで働いているので、どうしても働く女性側からの視点になってしまうのですが、皆が生き生きと元気に働ける職場環境であってほしいな、と願うばかりです。

私の描く二人は熱々というより控えめなLoveなのですが、お楽しみいただけましたなら幸いです♪ 次回の記念SSも頑張るつもりです。

2018/12/21 (Fri) 00:51 | REPLY |   

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/09/03 (Tue) 08:03 | REPLY |   
nainai

nainai  

ふ様

こんばんは。SSの方にコメントくださり、ありがとうございます♪
ふ様の共感をいただき、嬉しい限りです(*'▽')

今も過去作品に拍手をいただくことは多いのですが、『Best partner』は特にその機会が多いように思います。公開前は、こんなナイーブな話題を類×つくに盛り込んでいいものだろうか、とかなり悩みもしたのですが、思い切って公開してみてよかったと思っています。私にとって思い出深い作品の一つです。

女性は大変だな、と思う一方で、男性は大変だな、と思うこともやっぱりあります。相互理解に努めつつ、日々を穏やかに暮らしていきたいものですよね。

2019/09/03 (Tue) 22:50 | REPLY |   

Post a comment