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27.見舞い

Category『Distance from you』 本編
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火曜日の夕刻、類は花沢物産本社の執務室にいた。
年末に向けて、日毎に業務量は増えつつあり、自由時間の確保はますます難しくなってきている。行きたくもない会食や夜会の予定もびっしりだ。
それでもつくしと次に会うのは、いつものように土曜日の午後と、固く心に決めていた。もし夜に会うことが可能だったら、それこそ毎日でも会いに行きたいくらいだ。一緒に暮らしたいと言ったのも半分くらいは本気だった。
だが、それを望むのは時期尚早というものだろう。

自分と向き合うことを、やっとつくしに受け入れてもらえたのだ。
距離を縮めることに焦って、下手に彼女の警戒心を強めたくなかった。
Step by step。
彼女の歩調に合わせて進んでいくことは、きっと焦れったさももどかしさもたくさん味わうのだろうけれど、類には確信があった。
いつか、本当の意味で、つくしに受け入れてもらえる日が来るだろうことに―。



執務中の息抜きに、ひかわ動物病院のホームページにアクセスしてみると、今日の夕方5時からの臨時休診のお知らせが掲載されていた。その理由は書かれていない。

―土曜日の夜も元気がなかった。
―かなり疲れているようだったから、体調でも悪くしたかな…。

都合を合わせようとつくしと話していて、改めて類が驚いたこと。
休診日の水曜日は基本的には自宅にいて、火曜午後に手術した動物達のフォローに時間を充てているということ。
日曜や祝日でも、必要に応じて入院させた動物達を世話したり、竹井夫妻に呼び出されて養豚場に出向いたりしていて、比較的に外出の自由が利かない生活を送っているということ。
緊急ブザーが鳴れば、どんな時間であっても処置にあたるということ。
拘束時間の長さは、他の労働条件に照らし合わせても、過酷な部類に属するのではないだろうか。


心配になると居ても立っても居られず、類はすぐさま電話をかけていた。
時刻は午後8時45分。
果たして、事態は類の予想通りの展開だった。
電話での彼女の声はひどく気怠げで、まるで覇気がない。
見舞いを固辞する彼女から半ば強引に訪問の許可をもらうと、取る物もとりあえず、類はつくしの元へと向かった。途中薬店に寄り、店員に訊いて必要なものを購入することも忘れずに。


類の車がひかわ動物病院の駐車場に着いたのは、午後9時20分だった。
1階の裏口側の部屋の電気が灯っている。
…まだ仕事をしているのだろうか、と類は眉を顰めた。
裏口のベルを鳴らすとすぐ、マスクをつけたつくしが出迎えてくれた。
熱があるせいか、彼女の瞳は充血してしっとりと潤んでいる。
「まさか、まだ仕事してたの?」
驚いたように類が問うと、つくしは軽く首を振る。
「さっきまでは上にいた。あなたがそろそろ来る頃かと思って待ってた。…預かってる子達の様子も見る必要があったから」
そう言って、1階の部屋の電気をオフにする。
「上がって?」
「うん」
類は彼女に続いて、2階に上がった。つくしの足元がわずかにふらつくのを、類は見逃さなかった。


「…具合は?」
つくしを炬燵に入らせると、類は薬店で買ってきたものをダイニングテーブルの上に広げながら問う。
「薬で頭痛は少し治まってきた。でも、熱は抑えられないみたいで…」
つくしのくぐもった声が返る。
類にうつらないようにするための配慮で、つくしはマスクをつけたままだ。
「ゼリーとか経口補水液とか、店の人に訊いて適当に買ってきたから冷やしとくね」
「…ありがとう」

類は冷蔵庫にそれらを納め終わると、炬燵の方へと近づいて膝をつき、改めてつくしの様子を窺った。うつむきがちに机に頬杖をついた彼女の、疲労の濃さを感じ取る。
ふいに縮められた距離につくしがわずかに肩を揺らしたことが分かり、類はそれ以上は近づかずに問うた。
「…顔色よくないね。だるい?」
「そんなにつらくないけど、体が重い感じ…」
「病院へは?」
「明日、必要があれば受診するつもり」
「何か、してほしいことある?」
つくしはゆっくり顔を上げると、小さく首を振った。
「…ありがとう。もう、十分だから」


類はつくしの瞳をじっと見つめると、なぜか急に申し訳なさそうな表情になる。
「心配で慌てて来てはみたけど、冷静になってよくよく考えてみたら、先生は寝てた方が良かったよね」
「…………………」

―今更、それを言うの?
つくしは、なんだか可笑しくなって、思わず笑っていた。

「…意外だな。もっと冷静な人だと思ってたのに」
「相手があんただからだよ…」
類はちょっと拗ねたような顔をする。年齢にそぐわない仕草だと思うのに、それを可愛らしく感じるのはきっと熱のせいだ、とつくしは思った。
男の人の何かに対し、可愛いと感じるなんて稀なことだ。
「…今日は、もう帰るの?」
「いや、会社に戻る。仕事投げてきたし」

忙しい人だとは聞いていた。電話があったときも仕事中なのだろうとは思っていた。やりかけの仕事を置いてまで、急いで来てくれたことが分かって、つくしの心はまた、ゆらりと揺れた。





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いつも拍手をありがとうございます。
本編はまだ12月上旬なのですが、Xmasのお話もあります。時期がずれてしまいますが、気長に待っていてくださいね<(_ _)>
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2 Comments

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2018/12/26 (Wed) 21:21 | REPLY |   
nainai

nainai  

m様

こんばんは。いつもコメントありがとうございます。
励みになります~(*´ω`*)

ご指摘の通り、正に手探り状態の二人です。でも、つくしの塩対応が少しは緩和されてきたかな…?というところ。
根底にはまだ男性への忌避感があって、類もそれを承知の上でのやり取りとなっております。そうしたことの積み重ねが、信頼へと繋がっていってほしいと思いながら…。

m様の描いてくださった展開も非常においしい!ですが、さて次のお話はどうなるでしょう(^^;) 更新頑張ります!

2018/12/27 (Thu) 00:03 | REPLY |   

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