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30.対策

Category『Distance from you』 本編
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土曜日の午後、類はいつも通りの時刻に姿を見せた。
ミチ子の要望に沿い、由紀乃、つくし、類の4人で2階に集まり、件の不審者について話し合いをすることになった。
ミチ子の勤務については、由紀乃の了承を得た上で、すでに提案通りのシフトに変更している。つくしはミチ子に負担を強いる申し訳なさを覚えつつも、夜間診療の時間に二人でいることの心強さを実感してもいた。

「…その時の状況を、もう少し詳しく教えてください」
類は手帳を開くとメモを取りながら、ミチ子に詳細を確認した。その表情は厳しく、直接話をしていないつくしや由紀乃が思わず身を固くしてしまうほどのものだった。彼の真剣さが伝わってきた。
「今日はどうですか?」
類に問われ、ミチ子は窓からそっと階下を見下ろして首を振る。
「見える範囲にはいないと思うわ」
「分かりました。…この件は俺に調べさせてください」
類はそう言ってから、つくしを見る。


「あのさ、敷地内に防犯カメラを設置してもいい? 費用は俺がもつから」
「防犯、カメラ?」
つくしは目を瞬かせる。
「そう。それで調べてヒットするなら、相手が俺を狙っているのか、あんたを狙っているのかが分かるだろ?」
「私を狙ったりする人なんて…」
「いないとは言い切れない。あくまでも念のためだから、そうさせて。…それに、監視中であることを掲示する方が、病院の前に動物を置き去りにする人が減っていいんじゃない?」


類の言う通り、防犯カメラの設置とその旨の掲示は、動物を捨てるという身勝手な行動の抑止に繋がるだろう、とつくしは思う。だが、ここには捨て置けないと分かったとき、その人は次にどんな行動を取るだろうか、と不安にもなる。
捨てられる動物達に少しでも生き延びる可能性を残してやるのなら、置き去りを黙認することも必要なのではないか、と思ったのだ。

つくしの記憶の限り、これまで病院の前に置き去りにされた動物達が天寿を全うできなかったケースはなかった。引き取り先を探し、あるいはそのまま病院で引き取り、面倒を見てきた。前院長、斐川伊佐夫の尽力によるものであったし、つくしの努力によるものでもあっただろう。


つくしがそのように自分の考えを述べると、類は驚いたように彼女を見つめ返した。ミチ子と由紀乃は彼女の信念を深く理解しているので、これにはため息をついただけだった。
「…先生って、どこまでもお人好しだね」
類がそう言うと、つくしは苦笑を返す。
「置き去りにする人を許せない気持ちはちゃんとあるよ。…でも、そういう人はどうあっても彼らを捨ててしまうの。うちに置けなかったらどこかよそで。…それが嫌だから」
分かった、と類は言う。カメラは目立たないところに設置することを確約して、つくしの了承を得た。



ミチ子は類の迅速な対応には満足した様子で、由紀乃も残りの昼休みをとるために、それぞれ階下に下りて行った。
午後の診療開始まで、まだ時間がある。
いつものように二人きりになってしまうと、隣り合って座る類は体の向きを変えた。表情を和らげ、つくしに優しく話しかける。
「風邪はすっかり治ったみたいだね」
つくしの脳裏には、週刊誌の写真がよぎる。
まるでイミテーションの造形美だった、彼の冷たい横顔が。
「…うん」


つくしは、類の微笑から目が離せない。
今、目の前にいる彼と写真とはまるで別人のようだと思いながら…。


つくしの反応が芳しくないので、類は表情を曇らせた。
「…ごめん。不安にさせたね」
「えっ?」
「不審者のこと。ミチ子さんの言う通り、本当にそいつがいるとしたら、それは俺の方の関係者だと思う。…先生にとっては傍迷惑な話だろ」
だけど、と前置きして類は言葉を継ぐ。
「あんたのことは俺が守る。何か気づいたらすぐ言って。いつだって、どんな些細な事だっていいから」

類の瞳はつくしだけを映していた。
その中に灯る真摯な光を見つめ、つくしはゆっくりと頷いた。

「分かった。…じゃ、シロンの散歩に行かない?」
不審者のことにはほとんど触れないまま、つくしがそう切り出すので、類は軽く目を見開いた。
「気にならないの?」
「だって、気にしてたら生活できないじゃない。…それに、今、あなたが言ったでしょ? 俺が守るって」
つくしは、棚からシロンのリードを引っ張り出して小さく笑う。
「お手並み拝見させてね? 頼りにしてるから」
彼女の気丈な一面を知り、類はくくっと笑う。
「…いいよ。任せて」





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