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31.知りたい

Category『Distance from you』 本編
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つくしはシロンのリードの端を手首に巻き付け、いつもの散歩コースを類と並んで歩く。ダウンコートを着込んでいても、底冷えのするような寒さを感じた。暦では大雪であり、日を追うごとに寒さは厳しさを増すばかりだった。
「風邪が治ったばかりなのに、散歩して平気なの?」
「そうも言ってられないの。…ほら」
シロンは、つくしをぐいぐいとリードごと引っ張りながら前に進む。
早く公園に行きたい、遊びたい、という強い意志に溢れている。

シロンが散歩の主導を握るというそうした行動は、本来きちんと躾けて直してやらなければいけないことだ。だが、この数日はつくしの不調のため満足に散歩をさせてやれなかったので、不満がたまっているのも無理からぬことと今日は大目に見ている。
「今週はシロンに我慢させてばかりだったから…」
「リード貸して」
「…どうして?」
「あんたの手首に食い込んで痛そうだから。…もらうよ」
そう言って、答えを待たずに類はつくしからリードをもらい受けた。その際、二人の手が一瞬だけ触れたが、つくしは何も言わなかった。


公園に着くと、昼間にもかかわらず広場は閑散としていた。
類は短い固定リードを伸縮リードに付け替えて緩め、シロンとボール遊びを始めた。まだ体調の整わないつくしの代わりに、彼がシロンの相手を買って出てくれたので、素直に任せることにする。
類が遠くにボールを投げると、シロンは一直線にそれを追いかける。持ってきたら褒めて“待て”をかけ、ちゃんと体が静止するまでボールを投げないようにする。類は遊びながら、地道にシロンの忍耐を鍛えていた。

つくしは何とはなしに周囲の様子を窺いながら、近くをブラブラと歩き回った。
こんな日は立ち止まっている方が寒いのだ。
少なくとも視界の中に、自分達を尾行している誰かの存在を捉えることはできなかった。…そもそも不審者のことも、ミチ子の勘違いなのかもしれない。そうだったらいいのに、とつくしは思う。


つくしは白い息を吐きながら空を仰ぎ、大きく伸びをした。
鈍色の曇天を見ても気持ちは晴れそうにない。明日は雨だと聞いている。
風邪をひくのは本当に久しぶりのことだった。
年を重ねるごとに体はなまり、あちこちが錆びついて固くなってしまうようだった。
「…いよいよ、30かぁ」
じきにやってくる誕生日のことを思い出し、つくしは独りごちた。


その微かな呟きを、類に拾われるとは思っていなかった。
「…ねぇ、もしかして誕生日が近いの?」
思わぬところから質問が飛び、つくしはハッとして類を見た。
彼の立ち位置からはけっこうな距離があるのに、と驚きを隠せない。
「…耳、いいね」
「いつ?」
つくしはしぶしぶ返答をする。自分の迂闊さに舌打ちしたい気持ちで。
「…12月28日」
「すぐじゃん。早く聞いておけばよかった」
その嬉しそうな声の響きに、つくしはすぐさま釘を刺しておく。
「あの、プレゼントとか、要らないからね」
「なんでさ。彼女にプレゼントを贈るのは、男の特権なんだから」

―彼女…。

甘い響きを持つはずのそのフレーズが、ドライな自分にはあまりにしっくりこなくて、つくしは微妙な表情になる。
類がそれを見て笑った。
「…なに? なんか納得できないって顔してるけど」
「うぅん。…私達、お互いのことをほとんど知らないのに、関係性の上ではそうなんだって思うと、すごく不思議な感じがするだけ」
ま、そうだね、と同意を示しつつ、類は言う。
「なんでも答えるよ。遠慮なく聞いてよ」


つくしは問いかける。
類も答えながら、つくしにも同じように問う。


「あなたの誕生日は年度末だったよね?」
「そう。3月30日」
「趣味は何?」
「最近は時間がなくてできないけど、バイオリンと乗馬。…先生は?」
「カメラと読書。…もしかして馬を保有してるの?」
「いや、乗馬クラブに所属してた。さすがに動物ネタには反応するね」
「だって、乗馬が趣味だなんて周囲にはいないから」


「カメラが趣味っていうのは?」
「祖父が生前、愛用していた一眼レフを譲ってくれたの。ホームページの写真は、全部、私が撮影したものだよ」
「何を撮るの?」
「被写体はいろいろだけど、主に動物達とか風景とか」
「今度見せて」
「…いいけど、所詮は素人の作品だからね」


「生まれは?」
「東京。あなたもそうよね。ずっと東京だったの?」
「いや、人生の3分の1くらいは、フランスとイタリアで暮らしてた」
「じゃ、フランス語とイタリア語も話せるの?」
「うん。あんたも英語は話せるんでしょ?」
「日常会話レベルならね。専門用語は無理だよ」
「先生は千葉にも住んだことがあったよね」
「よく覚えてるね。中学入学から高校卒業までの6年間はそう。大学入学を機に戻ってきたから、出身は東京と言えるかな?」


淀みなく回答を続けていた類が言葉につまったのは、次の質問だった。
「ねぇ。…あなたの家族って、どんな人達なの?」





いつも拍手をありがとうございます。今回は珍しく会話文だらけでした(^^;
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