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Indigo in ice ~2~

Category7万HIT記念
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「…やっぱり六本木だ」
結局、GPSでの追跡に承諾してくれたあきらに調査を頼んで待っていると、牧野の現在地が俺のスマートフォンの画面に示された。それは彼女のアパートがある地区ではなく、あきらが今朝早く彼女を見かけたという場所からほど近いオフィス街。
心臓がドクンと嫌な音を立てて跳ね上がった。

どうして、家にいないの?
体調が悪くて、大学を休んだんじゃなかったの?

胸の中に渦巻くのは数々の疑念と、彼女を信じたいと思う気持ち。
それらが激しくぶつかり合い、気分が悪かった。
少なくとも、牧野は俺に何らかの嘘をついている。それは間違いないんだ…。


「類…大丈夫か?」
あきらが俺を気遣う。俺は立ち上がった。
「…行ってくる」
「おいおい」
「もし浮気現場を押さえちまったら、お前、どーするよ?」
総二郎が問う。
この期に及んで、なんでお前はそんなに楽しそうなのさ…。
「相手をシメる? 牧野を責める?」
「まだ浮気って決まったわけじゃない。…煽んないで」


もし本当にそうだったら、正気でいられる自信なんかもちろんない。
だけど、信じてる。
牧野がそんなことをするはずがない。
俺は、何が事実かを確かめに行くんだから…。




それから30分後、俺は牧野の携帯電話のGPSが示す場所に来ていた。
あきらと総二郎には同行を断った。
ビルは3階建てで、大通りからは少し外れた場所に建っていた。この中に牧野が本当にいるのかと、妙に信じがたい気持ちで建物を見上げる。

ビルは作業場兼自宅のようで、入口が二つあった。表札には『幸野谷こうのや』の文字。
玄関脇に掲げられた看板には、ドイツ語でこう書かれていた。
Atelierアトリエein Tropfenひとしずく
今日は定休日なのか、アトリエの入口は閉ざされたままだ。だが、カーテンを引かれた室内からは電灯の光が洩れ、中で作業が行われているのは明らかだった。
俺は迷わずベルを鳴らした。


「はい。どちら様ですか?」
インターホンから聴こえてきたのはハスキーヴォイス。
一度聴いたら忘れられない、印象的な声だ。
「突然すみません。花沢と申します。…こちらに牧野つくしさんがお邪魔していないでしょうか?」
「え? ハナザワさん…?」
相手の声が怪訝そうに俺の名を復唱する。続く声はトーンダウンしていた。
「少々お待ちください」

ぷつりとインターホンを切られて間もなく、アトリエの方の入口が内側から大きく開かれた。そこから姿を見せた長身の人物に、俺は思わず身を固くした。
相手は少年のような涼し気な顔立ちをしている。俺より目線が少し下だ。職人がするような防水エプロンを掛け、シャツもジーンズもところどころを水で濡らしていた。
総二郎達が見たのは彼だったのだろうか。全体的に俺よりも線が細いが、後ろ姿を見た二人が俺と見誤ったのも頷けるような気がした。


「初めまして。幸野谷です」
一重瞼の瞳がじっと俺を見つめていた。
その口元には笑みが浮かび、余裕の表情に見える。
「それで、うちに何の用ですか?」
問いかける低音のハスキーヴォイスが耳に障る。
「…ここに牧野が来てるよね?」
俺が単刀直入に問うと、幸野谷は顔色一つ変えずに答えた。
「えぇ。今、着替えてるところです。今日はもう帰すつもりだったので。…迎えに来たんですか?」

着替え?
今日は帰す?

意味深な言葉の羅列に気持ちが乱高下しそうになるのを堪える。
大学を休んでまで、牧野は今日ここにいた。それは今ので確認できた。

「牧野とはどういう関係?」
「彼女は後輩です。中学が一緒でした。先日、数年ぶりに再会したんです」
牧野のメールの相手は幸野谷だった。それも確認できた。

「一昨日の夜11時頃と、今朝5時頃、二人でこの近辺を出歩いてない? 友人があんた達を見たと言ってる」
続けてもう少し詳細を明らかにすると、幸野谷はちょっと考え込む表情を見せた後、素直に頷いた。
「偶然とは言え、すごいですね…。一昨日は彼女の迎えついでに取引先に寄りましたし、今朝はコンビニに行ったのがそのくらいの時刻でした」
二人が見たのはやはり牧野と幸野谷だった。それも確認できた…。



「もしかして怒ってますか? 彼女をここに泊めたこと」
相手がストレートに聞いてくる。
「…怒らないわけがないと思わない?」
むしろ、どうしてそんなに悪びれないのか、こっちが訊きたいくらいだ。
もしかして、俺と牧野が付き合ってるのを知らないんだろうか。
俺の質問返しに対して、
「牧野の話とだいぶイメージが違うなぁ。…それじゃ、彼女が窮屈に感じますよ」
そう言って、幸野谷はとてもスマートに笑う。
「ちょっとくらいの嘘は目をつぶってあげてください。牧野は自分なりに考えて行動してますから」


何だよ、それ…!


俺よりも彼女のことを理解しているかのような口ぶりに、さすがに苛立ちを隠せなくなってきたとき、閉められていたアトリエのドアが再び開いた。
「真さん? ここに……あっ」
「牧野!!」
ドアの内側からひょっこり顔を覗かせたのは彼女で。
俺と目が合った途端、大きな瞳をこれ以上ないくらい見開き、牧野は狼狽えた。
「類!? な、な、なんで、ここに?」
牧野は俺を凝視した後で、助けを求めるように幸野谷に視線を振った。それが疚しさを隠すような行動のように見えて胸が塞ぐ。


「…ちゃんと事情を説明して」
「事情?」
要領を得ない様子の牧野に、自然と声が冷たくなる。
それでいて心は燃えるように熱かった。
「どうして、俺に嘘をついてまで、ここにいたかったのか」
「それは…その…」
牧野はまごついて答えようとしない。チラチラと幸野谷の方を窺い、目だけで会話するような二人の親密さに、カッとなってつい叫ぶように言っていた。普段の冷静さなど吹き飛んでいた。
「俺と別れてそいつと付き合いたいなら、はっきり言えばいいだろ!」
「えっ!?」
牧野の顔に驚愕が走る。

すると唐突に、幸野谷が笑い出した。
緊迫した場に、不釣り合いなほど明るい声が響く。

「…やっと分かりました。花沢さんが不機嫌な理由」
そう言って、幸野谷は牧野を小突く。
「あんた、浮気を疑われてる」
「…そうみたいですね」
牧野は幸野谷に申し訳なさそうな顔をしながら、おずおずとこう言った。
「類、あのね…。勘違いしてるみたいだけど、真さんは、女性なの…」


…はっ!?


声には出さなかったが、俺は心底驚いていた。
初見のときから、幸野谷をずっと男だと思い込んで話をしていたからだ。
よくよく思い出してみたら、総二郎も、あきらも、牧野の姿は見ていても、一緒にいた相手が男であることを断定できるほどの情報を持っていなかった。
二人が見たのは、“背の高い誰か”の後ろ姿―。

「見かけも声もこんなでよく間違われますけど、一応女です。…だから、心配はご無用ですよ?」
幸野谷は楽しそうな表情で、唖然としたままの俺を見ていた。
揶揄うようなその瞳の色は、確信犯じゃないのかと疑いたくなるほどだった。





いつも拍手をありがとうございます。
幸野谷こうのやまことはいわゆる“ハンサムな女性”でした。第1話では、真は男性だと連想するように読み手を誘導していますが、それを明記している箇所はないので、改めて読み返していただければ、また違った印象を受けるのではないかと思います。
誘導が上手くいっていないとしたら、それはひとえに私の技量不足です…💦
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2 Comments

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2019/01/25 (Fri) 22:51 | REPLY |   
nainai

nainai  

h様

こんばんは。初コメントとても嬉しいです(*´ω`*)

うまく騙されてくれましたか? ありがとうございます♪
つくしの浮気!?と思わせるためには、真を男性っぽく描かねばならず、悩むこと数日…。類の顔はよく中性的な美しさだと表現されるので、じゃ、真の顔も中性的にしちゃえ、と。

メインのタネは明かされたところで、これからいろいろな事が明らかになっていきます。続きも楽しんでいただければ嬉しいです。これからも地道に頑張っていきます!

2019/01/26 (Sat) 00:14 | REPLY |   

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