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Indigo in ice ~4~

Category7万HIT記念
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類の歩みが遅くなる。あたしはまだ顔を上げることはできずに、繋いだ手の温もりを申し訳なく思いながら、素直に心情を吐露する。
「類には本当に良くしてもらってると思う。美作さんや、西門さんや、桜子にも。…でも高校の時と同じで、大学で信頼できる人っていうのが本当に少なくて…」


並み居る良家の子息・子女。
庶民と知れば、無価値のものとして顧みられることがなかった。
F4と親しいと知れば、橋渡しを期待され、下心ありきで近づいてきた。
“花沢類の彼女”。
それが、今のあたしの代名詞だ。
純粋に自分と親しくしたい、という相手を見極めることはできず、必然的に周囲との接触を避けるようになった。

講義室で、集団から離れて座ること。
一人で昼食を食べること。
サークルにも属さず、いかなる集まりにも顔を出さないこと。

そうした孤独にはもう慣れている。英徳高校に入学したときからずっとそうだった。
今更それを寂しいと感じることはなかった。
だけど…。



「久しぶりに真さんと璃子に会って、昔の感覚っていうのかなぁ…。中学の時みたいな裏表のない信頼関係に触れて、懐かしさや嬉しさがこみ上げたの。…そうしたらさ、なんか無性に泣けてきて。…あぁ、あたしってば、今の自分の状況を、実は寂しいと感じていたんだなって…」

再会の夜、真さんに誘われて自宅にお邪魔した。璃子とも数年ぶりの再会を抱き合って喜んだ。真さんには私達二人がこの1月で成人式を迎えたことを祝ってもらった。
あとで家まで送るから、と真さんは飲まなかったが、ほんの少量のお酒を璃子と2人で楽しんだ。互いの近況をたくさん話した。
…思い出話に花を咲かせるうち、楽しいはずなのになぜか涙がこぼれてきた。



「…俺がいるよ。それじゃ、だめ?」
類ならそう言うだろうと思っていた。
…だから、余計に話せなかった。

「うぅん。だめじゃない。あたしも類がいてくれるなら何でも頑張れるよ。…でも、今回お手伝いを申し出て、真さん達一家と目的を共有するのが本当に楽しくて…。この限られた時間を、誰にも、…類にも、邪魔されたくないって思っちゃった…」
あたしは立ち止まる。
そのあたしの手に引き留められるようにして、類も立ち止まる。
「花氷を類に見せたいって思ったのは本当だよ。制作も一生懸命やったの。…でもそれを内緒にしておきたいって思った理由は、類を驚かせたいからだけじゃない。自分勝手な都合があったの。…だから…不安にさせてごめんね……」



心の中には、類だけが満たせる部分と、彼でも満たせない部分がある。
要はそういうことなんだろうと思う。

でも、それって欲張りだよね。
贅沢な悩みだよね。
誰もが羨むような彼がいて、友人がいて、彼らに過分なまでの気遣いを得ているのに、その上、親しい友達が欲しいなんて…。

でも、真さんに『頑張ったんだね』って言われて。
璃子に『牧野が全然変わってないから安心した』って言われて。
二人に今の自分の寂しさを解ってもらえて、あたしの中で何かが緩んだ。

かつての穏やかだった日常を思い出すと、欲が顔を出す。
楽しかった中学生時代。
昔に戻りたいわけじゃない。もう戻れないことも分かってる。
類のことが大好きで、その彼にも大事にされて、本当に幸せだと思うのに。
…だけど、寂しい。



類は、おもむろにあたしを抱き寄せた。それがふんわりと優しく、あたしを労わるような抱きしめ方だったので、思わず涙腺が緩みそうになるのを必死に堪えた。
ここで泣くのは狡いから。
涙は、きっと、類を黙らせてしまう。

「とりあえず、今日はゆっくり休んで。…あんた、すごく疲れた顔してる。あまり寝てないんだろ?」
「…うん」
夜通しの作業は、真さんが説明した通り、過酷なものだった。昨夜は璃子がいなかったから特に。先ほどから、体が鉛のように重く感じられてもいた。
類はあたしの髪を撫で梳き、額に触れるだけのキスを落とした。
「…うちの車を呼んでる。送らせるから」
あたしは小さく頷くと、彼の手に背を押されて近くに停車していた車の中に入った。
「類……怒ってる?」
一緒には乗り込んでくれない彼を見上げて問いかけた声が、少し震えていた。
包み隠さず心情を吐露したが、正直に話しすぎてしまっただろうかという後悔も頭をもたげる。


幼稚なことを言うって呆れた?
自分勝手だって思った?
…あたしのこと、嫌いになった?


「嫌いになったりしないよ。それにもう怒ってない」
心の中の問いかけが伝わったかのような言葉だった。
類の手があたしの頬を優しく撫でる。
「これまでの自分を悔いてるだけ。…牧野の寂しさに気付いてやれなかった」
「うぅん、それはあたしの…」
我儘だから、と言おうとした唇を人差し指でそっと封じられる。
「幸野谷さんから連絡があったら、一緒に受け取りに行こう?」
類はあたしに言う。
「約束」
「…うん」

そう言って類はドアを閉め、すぐに背を向けて歩き出した。
―あたしを見送ることなく。




**************




俺はベルを鳴らす。今日、二度目の。
インターホンは応答なしでそのまま切れたが、すぐにアトリエのドアが開く。
「…今度は、どういう用件で?」
先ほどと同じ格好で、幸野谷がドア枠に凭れかかって俺を見ている。
一つ年上だから、という理由だけでは説明できないような達観した表情で。
これまでに出会ったことのない雰囲気を纏ったhandsome woman。

牧野のことがもっと知りたいと思うなら、俺は彼女に訊くべきだ。
恥やプライドなんか、かき捨ててやる。

「もう少し話を聞かせてほしい」
「…なんとなく、再訪するんじゃないかと思ってたよ」
彼女は微笑う。その口調は砕けていた。
「どうぞ? 作業があるから、お構いはできないけど」
そうして、俺は大きく開かれたドアをくぐった。





いつも拍手をありがとうございます。
昔からの友人との再会は、隔てられていた時間を容易に飛び越しますよね。昨日まで一緒にいたかのような感覚は、いくつになっても変わりません。

原作ではつくしの学年に青池和也くんがいますが、今回そこはスルーで(;^_^A 
学年や学部が違うとタイムスケジュールが異なるので、類や桜子がいつもフォローできるわけではないと考えました。
さて、類と真は何を話すのか? 続きをお楽しみに。
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