FC2ブログ

38.プラトニック

Category『Distance from you』 本編
 2
その日の午後、類は自ら美作商事へ出向いた。
これまでにも事業でタッグを組むことが多かった先方とは、副社長同士の裁量にすべてを任されており、あきらとの条件の擦り合わせだけで片付くので話が早い。
親友の執務室で、ローテーブルを挟んであきらと向かい合い、類は手早く案件を片付けていった。


「…それで、その後どうなんだよ」
早々に仕事の話を終えると、あきらはさっそく話題を振ってきた。
彼が何の話を持ち出しているのか、分からない類ではない。
「ぼちぼち」
「無視はされなくなったか?」
「一応、彼氏というものに昇格したよ」
「…なんだ、その“一応”って」
類は曖昧に笑む。
今のその立場には、世間一般でいうほどの甘さも優越も存在しないからだ。
「まだまだ見えない壁がある。…覚悟の上だけど」
類は温んだ紅茶を一口だけ含んで喉を潤し、カップを戻した。


「お前の過去は?」
「話したよ。ほぼ全部」
あきらは片眉を上げる。
「それでも構わないって?」
「他人の過去を非難できるような人間じゃないからって言われた」
「…あっちの過去も重いんだな」
類としても、つくしの過去に関してそれ以上を明かす気はなかったが、人の心の機微に敏いあきらは、その一言だけで事情を察したらしい。
「俺は問題視してない。いつか克服できると思ってる」


「お前自身の問題はどうなんだよ」
「…俺の?」
あきらが何を指しているのか、類にはもちろん分かっていたが、あえてとぼけて見せるとワントーン低い声が返った。
「…言わせんな。察しろよ」
「俺さ、彼女と付き合いたいんじゃなくて、結婚したいんだ」
類が含み笑う。
「ずっと一緒にいたい。当然、子供だってほしい。…要はそういうこと」
そうか、という小さな声が返る。


「…で、実際のところは?」
「ん?」
「まさか、まだ何もないとか?」
「昨日、初めてハグを許してもらえた。成り行きで」
「それで?」
「そこまで。…実は、まともに手を繋いだこともないんだよね」
あきらが軽く目を剥く。
「この齢でプラトニックしてんじゃねぇよ!」
「羨ましい? あきらには無縁の概念だろ?」
類は笑う。
言ってろ、とあきらは呆れ顔だ。



「…その後の不審者情報は?」
すっと表情を無にして、類はあきらに問う。
つくしの自宅に防犯カメラを設置する際には、美作商事の系列の警備会社を頼った。自社の関係者は頼りたくなかったのだ。
「顔認証システムでは頻繁にヒットする人物はいない、と報告が上がっている。…ただ設置して間もないし、まだ何とも言えない状況だな」
「引き続きよろしく。何か不審な動きがあったら、すぐ俺に知らせるよう言っといて」

類はそう言って、タイムリミットとばかりに引き揚げ準備を始めた。その動きには機敏さがあり、これまでの彼とはどこか違って見える。
それを見つめるあきらの瞳の色が濃くなった。
「……興味あるな。お前にそこまでさせる、その女医に」
「いつか会わせたいけど、今はダメ」
書類を仕舞い終え、類はシニカルに笑った。
「会わせたら、お前達の心証だけで、俺がマイナス査定されそうだから」
「ほぉ。どの口がそんなことを言うんだ?」
追及から逃れるようにして、類はドアの向こうへと消える。
それを見送るあきらの顔には微笑が浮かんだ。


―男は、女の存在で良くも悪くも変わるよな。
―今のお前は嫌いじゃないぜ、類。




待機させていた車に乗りこみ、美作商事を出る頃には、類から微笑は消え失せていた。自分を尾行する可能性のある人間について、考えを巡らせていたのだ。


一番疑わしいのは、花沢の関係者だろう。
まだ向こうから何もアクションはないが、父にはつくしに関しての報告書が上がっているかもしれない。それは継母の多津子や、異母弟の耀についても同様だった。

次に考えられるのは、ゴシップ狙いの報道関係者だ。
一時期、類達4人は私生活をひどく侵害されるレベルで、報道関係者に追い回されていた。最終的に、類の婚約が破談になった際、悪意に満ちた記事を目にした司が激昂し、報道各社に脅迫まがいの通達を出すに至った。道明寺財閥の権勢に立てつこうという輩はさすがに現れず、結果として過熱報道は沈静化された。
しかし、だからと言って、彼らのマークから完全に外れたとも考えにくい。

そして、可能性として無視できないのが、つくし個人への追尾者の存在だ。
カメラを設置する際に、彼女の自宅で警備上の不安が残る箇所には、すべて防犯対策を施してもらった。つくしは終始苦笑いだったが、彼女が独り暮らしであることは事実で、だからこそ万全の備えが必要だと彼女を諭した。


自分が関わったことで、つくしに迷惑をかけている可能性の方が断然高いことは承知している。類が自身の恋情を抑えこめば、彼女にはこれまで通りの平穏な生活が戻ってくるかもしれない。

…だが、それはできない。
彼女という存在を知り、その優しさに、生き方に、笑顔に触れることができる喜びを知ってしまった今では。





いつも拍手をありがとうございます。
まだまだ修正箇所を残しつつも、7万HIT記念の中編が出来上がりました(^^♪
全6話です。明日1/23より奇数日の定時に更新します。
お楽しみいただければ幸いです。
関連記事
スポンサーサイト



2 Comments

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/01/24 (Thu) 22:02 | REPLY |   
nainai

nainai  

m様

こんばんは。いつもコメントをありがとうございます。

あきらには、裏仕事ありの何でも屋とばかりに色々と活躍してもらってます。今作、前作ともに頼りになる男です。これから先に総二郎と司も登場して活躍する予定なので、二人の出番も気長に待っていてくださいね。

さて、作中ではクリスマスが近づいてきています。
現実世界とのタイムラグが広がりつつありますが、更新頑張っていきます💦

今夜は記念SSの第2話です。ぜひそちらもお楽しみくださいませ。

2019/01/25 (Fri) 00:44 | REPLY |   

Post a comment