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43.命名

Category『Distance from you』 本編
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「はい、荷物」
「ありがとう。重かったでしょう」
つくしが買い物袋から食材を取り出し、仕分けしながらキッチン台に並べていくと、傍でそれを見ていた類がくすっと笑った。
「すごい量だね。買い込み?」
「うん。作り置きしたり、冷凍したりするから」
今度はそれらを冷蔵庫内に納めていくのを、類が手伝ってくれる。

あっという間に作業が終わると、つくしは改めて類の体調を気遣った。
「…疲れた顔してるね。何か飲む?」
「いや、いい。大丈夫」
「今日、これからの予定は?」
時刻は午後4時半を回っており、ティータイムにしては少し遅い。
夜にも仕事があるのだろうかと思ってつくしが問うと、類は首を振る。
「明日まではオフ。…これ以上働けって言われたらストライキする」
つくしがふっと笑うのを見て、類は胸の高鳴りを覚えた。
やはり、今日の彼女の雰囲気はいつもよりずっと柔らかい。


「髪、ずいぶん短くしたんだね。どうして?」
「もともとこの長さでいることが多かったの。最近忙しすぎて美容院に行けなくて、伸ばしっぱなしにしてただけ」
「可愛いよ。よく似合ってる」
類がそう言えば、つくしは一瞬唇を引き結んで、小さく応えた。
「……どうも」
購入した調味料をシンク下に納めるために、つくしがおもむろに屈みこむと、艶やかな黒髪がサラリと前に流れた。細い項が類の目に留まる。
その髪に触れたくなる衝動を、類はかろうじてこらえた。


「そこで休んでて。私はカイの様子を見てくるから」
「今日シロンの散歩はしないの?」
「朝のうちに済ませたの。午後に出かけることが分かっていたから」
つくしが3階に上がろうとすると、類もそれに続く。休んでいるように重ねて言おうとすると、類が黙って微笑んだため、つくしは彼の好きなようにさせることにした。

類の姿を認めたシロンは、それこそ狂喜乱舞した。
「ははっ。今日も元気だね」
シロンはぴょんぴょん跳ねて喜びの感情を爆発させる。その頭をわしゃわしゃと撫でてやりながら類は笑った。

「ただいま、カイ。具合はどう?」
つくしはカイの傍に跪き、最初にシリンジで少量の水分を与えた。オムツの汚れを確認し、新しいものへと替えてやりながら、いろいろと話しかける。
作業をするつくしの背にはラムがすり寄っている。彼女の邪魔にならないようにと類が遊んでやろうとすると、ラムは警戒したのかぱっと離れて逃げていった。
「カイは?」
カイを挟んで、つくしの向かい側で類も膝を折る。老犬は横たわったまま目を閉じていて、ごくかすかな腹部の起伏が残り時間の少なさを伝えている。
「…全然つらそうにしないの。このまま…穏やかなまま、最期を迎えられたらいいと思う」
つくしの声には、やがて来る決別への覚悟が感じられた。



「…ミャウ」
小さな鳴き声がした。声のした方に類が目をやると、2匹の仔猫の姿。
先週、哺乳の手伝いをしてやった仔猫達だった。
「あれ、この子達…」
「うん…。やっぱり引き取り手が見つからなくて。いつまでも下の入院用ゲージじゃかわいそうだから、乳離れのタイミングでこっちに移してあげたの」
2匹は犬用の大きなゲージに入れられ、中に置かれた遊具で遊んでいる。体は日毎に大きくなり、ほんの数日見ないうちにもその成長ぶりが分かる。

「まだ体が小さいから、みんなの中には放してあげられない。苛められるし」
「縄張り意識のせい?」
「そう。住まいを共有できるようになるまでには時間がかかるから。…名前もそろそろ考えようかと思ってる。このまま飼ってもいいかなって」
「性別は?」
「両方とも雌だよ」
つくしはカイの元を離れ、仔猫の入ったゲージの近くに座ると、ドライフードを少量皿に置いた。まだ完全に乳離れしたわけではなく、しばらくはミルクとドライフードの併用になる。仔猫達はぱっと餌に飛びつくと、カリカリと音を立ててそれを食べた。
「可愛いね」
「うん。幼少期は一瞬だけど、本当に愛らしいの」



「…あのさ、名前はやっぱりギリシャ文字に因んだ方がいいの?」
類の問いにつくしは首を振る。
「これまでは全部祖父が命名してたから。でも、私は別にこだわってないよ」
「じゃあ、この子達には俺がつけてもいい?」
「………? いいけど」
類はそう言って、つくしの瞳を覗き込む。
大きな漆黒の瞳が瞬く。

「先生の名前が春の野草だから、ヨモギとハコベはどう?」
「…意外に、渋い命名ね」
つくしは笑う。
「そう? だめかな?」
「いいよ。どっちがどっち?」
「白が多い方をハコベにしよう」
こげ茶の毛並みに白が多く混じる方をそう決める。
「分かった。…じゃあ、あなたがヨモギで、あなたがハコベだよ」
つくしがそう言って交互に頭を撫でてやると、それに応えるようにして2匹が鳴いた。慈愛に満ちた彼女の横顔を、類はそっと見つめ続けた。





いつも拍手をありがとうございます。
結局2匹とも引き取られ、猫は全部で5匹に。
ついつい使ってしまう“ヨモギ”ちゃん(^^; 
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2 Comments

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2019/02/01 (Fri) 22:55 | REPLY |   
nainai

nainai  

h様

こんばんは。コメントありがとうございます!

命名は悩みましたが、ギリシャ文字の方ではなく、つくしに因んだ名にしました。『ヨモギ』は花男二次の世界ではお約束ネームですがいかがだったでしょうか(^_^) ミーちゃん、かわいいですね。ニャンコらしい名前です♡

連載が4ヶ月目に突入してしまいました。もう長期化は薄々感じていらっしゃることと思いますが、必ずハッピーエンドに繋げますので、どうぞ最後までよろしくお付き合いくださいませ。
次の更新は記念SSの最終話です。頑張って書き上げましたので、先にこちらでほっこりしてもらえれば嬉しいです。

2019/02/02 (Sat) 00:06 | REPLY |   

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