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48.カイとの別れ

Category『Distance from you』 本編
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優紀から近況を確認する電話がかかってきたのは、休診日の午後。
つくしはサンルームでカイの様子を見ているところだった。
「ようやく自覚できたの? 花沢さんのことが好きだって」
「……うん」
つくしが返した控えめな肯定に、優紀は、あぁ、と歓喜の声を上げた。
「順調そうでよかった! あれからどうしてるのか心配はしてたんだけど、麻帆が風邪ひいたりしてバタバタしてたから」
「もうよくなった?」
「うん。私達にもうつって一家全滅だったわよ。も、最悪」
そう言いながらも優紀の声は明るい。


だが、次の瞬間にはその声音を抑え、そっと気遣うように問うてきた。
「…花沢さんに対しては平気? …その…触れられることとか」
「手は繋いでみた。…大丈夫だった」
「そうなんだ。良かった…」
彼女はつくしの過去を詳細に覚えている。優紀は唯一、つくしの苦悩にずっと寄り添い続けてきた親友だ。その苦悩の深さを十分すぎるほど理解している。

だけど、と優紀は言葉を継いだ。
「問題はそこから先よね。…前の彼とも、その先に進めなかったんでしょう?」
「…うん。…次はハグするからって予約された」
「へ? 予約?」
「手を繋げたから、次はそうだって…」
あはっと優紀は笑い、つくしもつられて笑う。
「それって予約制だっけ?」
「違うと思うけど、あの人らしいっていうか…」

一頻り笑い合って、
「つくしはクリアできると思う?」
「分からない。…でも、あの人の気持ちに応えたいって思う」
「…うん。その気持ち、大事だよね」
優紀はしんみりと言う。
「すごく硬そうに見えたけど、なんか可愛い人だね。花沢さんって」
「うん…。ちょっと子供っぽいところがある」
「母性本能をくすぐられる?」
つくしは一拍の間を置いて問う。
「…母性ってよく分からない。…そういう感じなのかな」
「つくしはカイ達がいるから、ある意味、母性本能には溢れてると思うけどな」


そう言えば、と優紀は言葉を切り、
「…カイは? もうだいぶ悪いの?」
「うん…」
「そっか…」
「今もサンルームで電話してる。…こうして私が話してても、もうほとんど反応しない」
「…あまり気を落とさないようにね。あんたって思いつめちゃうから心配だよ」
母性の象徴は、つくしにとっては実母よりも優紀だった。
旧知の友はこちらからはあまり連絡できていないにもかかわらず、折に触れては連絡をくれ、あれこれと自分を気遣ってくれる。

「年末年始はどうするの? 実家に帰るの?」
「カイ達の状況によるけど、帰っても日帰りになると思う。優紀は?」
「こっちは旦那の実家に呼ばれてる。…嫁としての苦行が待ってるのよ~」
優紀の夫の実家は群馬だったことを思い出す。
「じゃ、正月はみんなで温泉?」
「…かもねぇ。でも麻帆に温泉はまだ早いかな」
その後も数分ほど他愛のない雑談を続け、最後に優紀はこう言った。
「また連絡する。でも、悩んだり困ったりすることがあったら、いつでも連絡して? すぐ駆けつけるから」
「…うん。…いつもありがとう。頼りにしてる」



優紀との通話を終えると、つくしはもう一度カイを撫で、変調がないことを確かめてから、入院部屋で預かっている動物達の様子を見るために階下へ下りた。
散歩の時間になり、シロンを連れ出すためにサンルームに戻ってきた際も、カイの様子に変化はないように見えた。
シロンを公園に連れ出し、1時間ほどで帰宅してサンルームに入ったとき、つくしは違和感に気付いた。ファイとラムの2匹が、カイに寄り添っていたのだ。

…ざわりと、心が波立つ。

「どうしたの?」
愛猫達はつくしが近づいてもカイの傍を離れない。
ニャーンと鳴き、ラムがカイにその身を摺り寄せた。
「あ…っ」
わずかにあったはずの腹部の動きが見られない。伏したカイの口は半開きになり、その舌はだらりと外に垂れていた。目は閉じたままだ。
触れずとも分かった。
彼の心がもうそこにはないことが。


カイはつくしに最期の瞬間を見せなかった。
仲間達に見送られながら、苦しみも少なく、静かに旅立ってしまった。


「…カイ…っ」
覚悟はしていた。もう十分すぎるほど。
だが、いざこの瞬間が訪れれば、どうしようもない悲しみがつくしの心を満たす。
愛猫が鳴く。
それがまるでカイへの惜別のようで、つくしの涙を誘った。



つくしは、千葉の実家にいる祖母の敏子に、カイが亡くなったことを電話で知らせた。敏子は、カイとの最後のお別れに来たいと言い、父の晴男が祖母を車で連れてきてくれることになった。

次に、つくしは田辺ペット葬儀社に連絡をした。田辺社長の配慮により、カイの火葬は明日、病院の昼休みに合わせて実施されることになった。敏子達の到着よりも早く、カイの棺となる木箱が葬儀社のスタッフから届けられた。

スタッフのミチ子と由紀乃にも、カイの死と敏子の来訪を伝えた。
由紀乃は所用で遠方にいるため今夜は来られないとの返答で、ミチ子からはすぐにこちらに向かうと返答があった。





いつも拍手をありがとうございます。カイを見送る日が来てしまいました。
どんなシーンでも別れを書くのは寂しいものです…。
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2 Comments

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2019/02/16 (Sat) 20:06 | REPLY |   
nainai

nainai  

m様

こんばんは。コメント嬉しいです。
いつもありがとうございます!

優紀には『質疑応答』の際の類が印象的で、つくしが類に惹かれていくことは想定内の出来事だったでしょうね。優紀の前でも、類は臆面もなく愛を告白していましたしw
類がつくしの心の支えとなれる段階で、カイとの別れを迎えられたことはある意味で意義深いことでした。カイの方も心残りなく旅立って行けたのではないかと思います。

この回は書きながら、しんみりしてしまいました。

2019/02/16 (Sat) 23:51 | REPLY |   

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