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50.コール

Category『Distance from you』 本編
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つくしは、類にカイのことを伝えようと思った。
メールと電話のどちらがいいかを考え、相手の都合を考慮し、前者を選んだ。
つくしから連絡をするのは初めてのことだった。

『お仕事、お疲れ様です。
 今日の夕方、カイが亡くなりました。
 祖母が泊まりに来ていて、明日の火葬にも立ち会うと言っています。
 支えてくれる皆がいるので、私は大丈夫です。
 心配しないでください。』

読み返してみて、少し素っ気ない文章のような気もしたけれど、伝える言葉は簡潔な方がいいだろう、とつくしは思った。
メールを送信し終えると、ものの1分も経たないうちに着信がある。
類からだった。


「…早いね」
苦笑まじりのつくしの言葉には取り合わず、類は口早に問う。
「本当に大丈夫? 心配なんだけど…」
電話の声は少し遠いような気がした。だが、その声は心配と労りに満ちて耳の奥で響き、つくしの涙腺を刺激する。
「…うん…」
「おばあさんが来てるんだね」
「うん。…だから、大丈夫だよ」
類が小さく笑う。
「なんで? 挨拶しに行こうと思ったのに」
「…えっ」
「でも残念。今、仕事で東京を離れてる。そっちへはすぐ行けそうにない」
つくしは、類の仕事の日程までは把握していない。遠方にいると聞き、彼に負担をかけずに済むという安堵を感じたのは確かだった。


「カイに、最後のお別れがしたかった」
「…うん…」
「俺の気持ちは先生に託す。…カイのこと、忘れないから」
「…うん…ありがとう」
「東京に戻ったら、すぐ会いに行くよ」
「無理しないでいいからね」
類が自由時間を確保するために、いろいろと無理をしていることは分かっていた。
彼は小さな笑い声を洩らし、こう言った。
「会いたいな」
「…え」
「すごく会いたいのを我慢して仕事してるんだから、あんたに会いに行くのは俺にとってはご褒美のようなものだよ。…全然、無理なことじゃない」

顔が見えなくても分かる。
彼が今、どんな表情を浮かべているのか。


つくしは思わず言葉を継いでいた。
…無意識のうちに。
「…私も…」
「えっ?」
類の驚いた反応に、つくしはハッとした。

―私、今、何を言おうとしてた?

「“私も”の後には、何が続くの?」
類はその答えを分かっているだろうに、敢えて確認をする。
つくしは心の中で自分の言を猛省した。
顔がひどく火照って熱い。
だが、飛び出してしまった言葉は、真実、つくしの心の声だった。
「…先生?」
「……私も……会いたい」


―あなたに、会いたい。


その言葉を口にするには、勇気が必要だった。消え入りそうに小さな声でつくしがそう言えば、類からはしばらく応答がなかった。
いっそ聞こえていなければいいと思うのに、もちろんそのようなことはなく、類はしっかりとその言葉を受け止めていた。
「そう言ってもらえて、すごく嬉しい」
ややあって発された類の嬉しそうな声に、つくしの胸はいっぱいになる。
「自分達が、ちゃんと前に進めているんだって思えるから」
「……うん」



類との通話を終えても、敏子はまだ入浴中だった。浴室内から物音がしている。
つくしは一人、階下へ下りた。
入院部屋にいる犬達の容態が問題ないことを確認してから、もう一度カイの元へと足を運ぶ。閉じられた棺の蓋を開けると、カイは最後に見たときの姿のままで、もうその瞳でつくしを見つめてはくれない。
「カイ…どうしよう…」
屈みこんで棺の縁に額をつけ、つくしは呟くように言った。
「あの人のこと…どんどん好きになってしまう…」
クリスマスイヴの夜、類への恋情を自覚してから、つくしは自分では制御できないほどの感情の揺らぎを感じていた。
「…自分を見失ってしまいそうで、怖いんだよ…」


かつて志摩を想っていたときもそうだった気がする。自分のことを恋愛体質だとは思わない。だが、今、類とのやり取りに意識のすべてを持っていかれそうになる。
恋を失ったときには、それが恐ろしい反動をもって自分に返ってくることを、過去には痛感させられた。だからこそ、余計に怖くなる。

誰にでも、永遠を信じる一瞬があるのだと思う。この手の中にある幸福感がずっと終わることなく、連綿と続いていくものだと信じられる瞬間が。
現実は甘くない。
時間は止まることなく流れ、それとともに人の気持ちも移ろいゆく。


―でも、私は、信じたいんだ。
―彼が思い描いている未来を。





いつも拍手をありがとうございます。
つくしの恋心、加速度を増して育っていきます。
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4 Comments

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2019/02/16 (Sat) 19:21 | REPLY |   

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2019/02/16 (Sat) 20:19 | REPLY |   
nainai

nainai  

mizu様

こんばんは~(*´ω`*) コメント嬉しいです。
いつもお話を読んでくださり、こちらこそありがとうございます!

『発露』『自覚』に続き、『コール』でもつくしの大きな心情変化がありました。類への気持ちが高まり、自分でもどうしていいのか分からなくなるんですね。類は一貫してブレないので、つくしがどう変わっていくのかが今作の醍醐味であります。

私自身、“二人とも頑張れ~”と応援しながら執筆を続けております。まだまだ連載は続きますが、ハッピーエンドをお約束しますので気長にお付き合いくださいね。

2019/02/16 (Sat) 23:39 | REPLY |   
nainai

nainai  

m様

こんばんは。連投のコメントありがとうございます(^_^)

つくしとしても類に知らせたかったのですが、元々の飼い主である敏子やこれまで面倒を見てもらってきたミチ子や由紀乃への恩義を優先しました。彼に負担をかけたくないという気持ちも並行して存在します。
この頃になると、つくしは類との未来を意識するようになっていて、彼の自分への気持ちやカイ達への心配りを疑う様子はありません。

m様の仰る通り、これから起きる様々な障壁を前に、二人が互いを信じる気持ちを強く築いていく過程がとても重要なのでした。

2019/02/17 (Sun) 00:04 | REPLY |   

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