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51.元日

Category『Distance from you』 本編
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後々になって分かったことだが、類の滞在先はイタリアだった。
イヴの翌日、急遽渡航することになったという。
カイが亡くなったあの日、相手の状況など考えずに連絡してしまったが、彼の行動範囲が国内だけに留まらないことを、つくしは初めて実感することになった。
会社の事業拠点が欧州にもあることは知識として知ってはいたが、それを仕事と結び付けることができていなかった。
副社長としての類がどのような仕事に携わり、どんなふうに会社に貢献しているのか、つくしはほとんど知らないままだ。類が仕事の話をあまりしたがらないせいもあるが、今度会うときにはそれを詳しく訊ねてみようと思っている。


彼の滞在は予定よりも延び、結局は年末の帰国になった。類はつくしの30歳の誕生日を一緒に過ごしたがっていたが、結局それは叶わなかった。
彼は会えない代わりに、美しい花束を贈ってくれた。
そうした細やかな気遣いが実に彼らしい、とつくしは思った。



類との年内の再会は実現しないままに元日を迎え、つくしは日帰りのつもりで実家に顔を出した。弟夫婦の車が家の前に停まっているのを見て、つくしはホッとした。彼らより前に家に到着したくなかったのだ。
「明けましておめでとうございます」
「姉ちゃん、ひさしぶり!」
「ご無沙汰しています。お義姉さん」
リビングに入ると、進と妻の亜友美が笑顔で出迎えてくれた。
亜友美は妊娠8ヶ月だ。お腹の子供は、男の子だと聞いている。

つくしは二人に手土産を渡し、亜友美の傍に座った。
彼女に促されて、ふっくらとした腹部にそっと触れる。
「わぁ。だいぶ大きくなったねぇ」
「えぇ。でもまだまだ大きくなるって。もう毎日しんどくって…」
「進は家事を手伝ってくれる?」
「うふふっ。お義姉さん直伝なので、すごーく助かってますよ」
つくしは亜友美と仲がいい。最初の顔合わせのときから妙に気が合った。二人がタッグを組むのを進はいつも嫌がるが、その嫌がる様を見るのがまた楽しい。


2階で休んでいた敏子、キッチンに籠っていた晴男と千恵子がリビングに揃った。
昼食会ならぬ新年会は和やかに進み、皆が近況を話し終えてしまうと、千恵子が急につくしを名指しした。
「つくし!」
この流れなら、次に飛び出てくる言葉は分かっている。
「あんた、もう30よ! どこかにいい人いないの?」

―ほら、来た来た…。

つくしは母から目をそらし、首をすくめる。
千恵子にはまったく悪気がない。長い間離れて暮らしているから、彼女はつくしの男性への忌避感について一切を知らないのだ。
つくしも、母に過去のあれこれを話す気はないから、顔を合わせる度にこうしたお小言が続く。それは実家から足が遠のく原因にもなっていた。

「…いないけど、別にいいの」
類のことを話すのは時期尚早に思われたため、つくしが消極的な姿勢でそう返答すると、千恵子が大仰なため息を吐く。
晴男は申し訳なさそうにこちらを見るだけだ。妻を宥めるでも諭すでもない。
「まったくこの子は…。ねぇ、進。あんたの同僚に適当な人いないの?」
「昨年もそれ言われたけど、いないから。…ってか、姉ちゃんだって適当な相手じゃ嫌だろ? 今の仕事に理解のある相手じゃなきゃ…」
自分の苦手意識について、進はなんとなく察してくれているだろうとつくしは思っている。ちらりと交わした視線の中に、彼の同情の色を認める。

「いっそ、お見合いでもどう? こっちで相手を探してみようか?」
「やだ…。そんなの、いい」
「いやいや言わずに、会うだけ会ってみない?」
「ホント、無理だから…」
「…千恵子、結婚することだけが女の幸せじゃないよ。今はいろいろな生き方があるんだから」

この中にあって革新的なのは、実は敏子なのかもしれない。
母親の反対意見に、千恵子は言いかけた言葉をぐっと飲み込む。
祖母からの援護射撃に力を得て、つくしも同調する。
「ママ、今、30歳独身は珍しくないの。一生結婚しないって言ってるわけじゃない。……だから、もう少しだけ見守ってて?」
「…去年もそう言わなかったかしら?」
「母さん、姉ちゃんには姉ちゃんの生き方があるんだから、押し付けはやめろよ」
見かねた進が助け舟を出してくれる。
そうですよ、お義母さん、と続く亜友美の声。
結局は、皆で千恵子を宥める形で場は収まった。


昼食後は皆で近くの神社を参拝した。
参拝客の中に地元を離れていた同級生達の姿を見つけ、しばし話し込む一幕もあり、元日の午後はあっという間に過ぎていった。
夕刻が近づいてくると、つくしは家に残してきたシロン達のことが気にかかり、ソワソワし始めた。夕食を食べていくように言う家族の誘いを断り、つくしは自宅に戻ることにした。

「赤ちゃんが生まれたら知らせてね。お祝い持っていくから」
「えぇ、楽しみにしててくださいね」
亜友美と握手を交わして別れる。進の相手が亜友美でよかったと心から思う。
「ほら、これ。持って帰りなさい」
千恵子は、夕食用のおかずをタッパーに入れて娘に持たせる。
「ありがとう。…心配ばかりかけてごめんね、ママ」
「まったくよ」
そう言った千恵子だったが、最後にはしんみりとした表情になる。
つくしとて、母親としての彼女の想いが分からないわけではない。
「体に気をつけて頑張りなさい」
「…うん。それじゃ」
玄関先に並んだ皆に送り出されて、つくしは実家を後にした。




類から連絡があったのは、自宅に帰ってしばらく経ってから。つくしは、千恵子の持たせてくれたおかずと常備菜で、軽めの夕食を摂っているところだった。
類は昨日遅く、東京に戻ってきたらしい。

「明日、遠出しない?」
類はつくしをドライブに誘う。
「どこまで行くの?」
「俺のお気に入りの場所。…行き先は内緒にしておきたいけどいい?」
片道1時間半ほどのドライブになるという。
「シロンを連れて行けるよ。あっちで走り回れるから」
「分かった。何時に来る?」
「午後1時でどう? 夕方までには帰るから、ファイ達の食事は心配いらないよ」
しっかりとした防寒着と動きやすい服を準備しておくように言われたので、どうやら行き先は屋外になるようだ。


類と会うのは、クリスマスイヴの夜以来になる。
つくしは先日の電話で、類に会いたいという気持ちを伝えていた。
それ以降の電話やメールで、彼がそのことを話題に持ち出すことはなかったが、忘れるようなことはしないだろうと思う。
…両手で包んだ頬が熱い。

―明日、花沢さんに、どんな顔をして会えばいいかな…。





いつも拍手をありがとうございます。
残念ながら、二人はつくしのBDを一緒に過ごすことはできませんでした。
本編はやっとこさ年越しです。
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2 Comments

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2019/02/18 (Mon) 20:27 | REPLY |   
nainai

nainai  

m様

こんばんは。コメントありがとうございます。
いつも励まされています~('ω')♪

仲の良い牧野一家ですが、つくしが妙齢にもなると、やはり千恵子は黙っていないだろうとあの一幕に。進は結婚していますしね。個人的には進が好きでして、隙あらば姉思いの弟をこうして描いてしまいます。そして、こういう時は役に立たないパパさんw

類がつくしを連れていきたい場所はどこでしょうね。二人+シロンのデートをじっくり楽しんでもらえたらと思います。

2019/02/18 (Mon) 23:44 | REPLY |   

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