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forecast ~中編~

Category8万HIT記念
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その年の春、花沢類は高校を卒業して進学し、あたしは高3になった。
サンダルを履く季節になると、仲間達にはお揃いのミサンガを見つけられて散々冷やかされた。潔癖症の美作さんは、同じ紐を何ヶ月も身につけてるなんてあり得ないって大騒ぎだったけど、毎日ちゃんと洗って乾かしてるもん。

あたし達は、クイズ感覚で互いの願い事を推量し合った。
どんなことをすれば、相手が喜んでくれるのかを懸命に考えた。そうしながら、二人でたくさんの楽しい思い出を作っていった。
でも、靴下の下にミサンガが隠れる季節が再び巡ってきても、まだどちらのミサンガもしっかり足首に巻き付いたままだった。

それからいくつかの季節が通り過ぎ、ミサンガを巻いて2年目の秋の初め、類の方のミサンガがぷつりと切れた。あたしの願いが叶う予兆だと彼は嬉しそうで、あたしはそんなに都合よく行くだろうかと半信半疑だった。



…だけど、どんな魔法が働いたんだろうか。



その年の終わり、あたしの19歳の誕生日のことだ。
類があたしを旅行に誘った。…いや、その説明は正しくないな。
彼は『ちょっとそこまで』という感覚でもってあたしを言葉巧みに誘い出し、自家用ジェットに押し込むと強制的に国外に連行した。行き先は国内だとばかり思っていたあたしは、眼下に広がる太平洋を見て愕然とした。

「…あたしのパスポートはどうやって手に入れたの」
「ママさんから借りたよ。数日不在にしますって、ちゃんと説明しておいた」
と、彼はニッコリ。
「なんでママ達には説明があって、肝心のあたしにそれがないのよっ!」
「ん~。サプライズ?」
バイト先にもすでに根回しが済んでいたというから用意周到だ。
「…行き先は?」
「カナダのホワイトホース。知ってる?」
「…ごめん。聞いたことはあるけど詳しくない…」
「極寒だから、覚悟しといて」

極寒。…この時期のカナダだから、確かに寒いんだろうけど。
でも、あたしは別の意味で緊張していた。約2年前、ミサンガに託した願いが叶えられてしまうかもしれない予感でドキドキしていたんだ。

「バースデーはあっちで祝おう。とりあえず旅は始まったばかりだし、寝よ?」
現地に着くまでまだ8時間半はかかると言われ、あたしはペアシートに座る類の隣に大人しく納まった。…もうこうなったら、旅行を楽しむしかないよね?
リクライニングシートを倒し、手を繋ぎ合って毛布にくるまり、残りのフライト時間のほとんどを眠って過ごした。海面の遥か上空を飛ぶ機内は少し肌寒かったけれど、彼の体温がすぐ傍にあって温かく、すごく安らげた。



カナダ北西部に位置するホワイトホースは、ユーコン準州の州都。少し足を伸ばせばアラスカが目の前だったりする極寒地は、オーロラ鑑賞で有名な街らしい。12月の最高気温が氷点下10度、最低気温が氷点下20度という世界は想像を絶する。
ホワイトホース国際空港はあたし達が滞在する予定のダウンタウンからほど近く、着陸して入国手続きが済むと、ほんの1時間程で宿泊先のロッジに到着できた。

「すごい…可愛い…」
管理人さんに案内されて入室したロッジの内装は、とてもレトロで風情があった。まるで映画の舞台セットのようなインテリアに、思わず繋いでいた類の手を、ぎゅっと強く握りしめてしまう。
「喜んでもらえた?」
「うん!」
「オーロラ観測にはイエローナイフの街の方が向いてるけど、あっちは郊外に出ないといけないからホワイトホースにしたんだ。天候と運が良ければ、今夜、ここから見られるよ」

管理人さんは設備の説明をすると、笑顔でロッジを出ていった。
あたし達は冷蔵庫に準備された食材で一緒に料理をし、ささやかにお祝いをした。

幸運に恵まれ、その夜、ロッジの中からは本当にオーロラが観測できた。
天空に広がる光のカーテン。
波打つように動く幻想的な光景には言葉も出ないほど感動した。


それから……二人で、とびきり甘い恋人の時間を過ごした。
この頃になると、あたしにはちゃんと類への耐性がついていて、キスをしても酸欠にはならなくなっていたし、それ以上のことをしても卒倒する心配はなくなっていた。でもやっぱりドキドキして、心臓はどうにかなりそうだったけど。
あたし達は同じ体温になり、相手への想いを優しく伝えあった。


こんな素敵なバースデー、きっと一生忘れられないよ。




翌朝、目を覚ましたあたしは、寝入っている彼の腕の中からそっと抜け出した。
窓辺から見上げた空はだいぶ明るんでいたけれど、まだ陽は昇らず、星の輝きが残っていた。オーロラはもう見えなくなっていた。寝間着だけでは肌寒くて、ブランケットにくるまりながら飽きることなく上空を眺める。
あたしは陽が昇る前のこの藍色が好き。…今日はきっと快晴になる。

「…何してんの」
ふんわりと後ろから抱きすくめられ、あたしは彼の匂いに包まれた。
少しだけぼぅっとしていて、起き出した類の気配に気づかなかった。
「ひゃっ、お、起きたの?」
「寒くて目が覚めた。…もうちょっと寝よ?」
そのままあたしをかかえてベッドに戻りそうな彼を制して、窓の外を示す。
「ね、もうすぐ朝日が昇るの。その瞬間だけ一緒に見たいな」
「…いいよ」


あたし達は寄り添い、その瞬間を静かに待った。
やがて、一面の銀世界に払暁が訪れ、朱色の光が差し込んだ。
新雪の上で、キラキラと金色の細氷が舞い始める。
「あぁ、ダイヤモンドダストだ…」
彼の呟きを、あたしは夢を見ているような気持ちで聞いていた。



これだよ、類。
あたしがミサンガに託した願いは。

あの冬の日の朝、北海道で観測されたダイヤモンドダストをテレビで観て、いつかこんな綺麗な光景を二人で見に行けたらって願ったんだよ。



今、この瞬間に願いが叶ったことを報告すると、彼はこう言った。
「オーロラじゃなかったんだ。…惜しかったな」
と、ちょっと悔しそう。
「って、何で? 当たりをつけてたの?」
あたしがビックリしてそう問えば、彼は笑う。
「あんたって人工的な美しさより、自然の美しさを好むよね。風光明媚を愛するっていうのかな。…だから、あんたが願ったのはそうした自然美を見ることなんじゃないかって、薄々感じてたんだ」
その洞察力に脱帽だ。
「夏に流星群を見に行ったとき、すごく喜んでくれたろ。夜空を見上げながらオーロラの話をしたよね。…観に行きたいんじゃないかと思ってここを予約したら、タイミングよくミサンガが切れたから、てっきりそうなんだと…」


この人ってば、本当によく憶えてる。
確かに、あのとき、あたし達は星の煌めきを見つめながらオーロラの話をした。
あんな他愛もない話を憶えていて、こうして叶えてくれようとしたなんて。
…胸が熱くなるじゃない。


「ありがとう。…本当に嬉しい」
「感動した?」
「したよ。すっごく」
「俺のも一緒に叶えてね」
「うん。…約束」


滲んだ涙を瞬きで散らしていると、類はあたしを抱き寄せ、もう一度ベッドに誘った。じゃれるようにして冷えた体を温め合っているうちに、あたし達は眠りに落ちていて、再び目を覚ました時には日は高く昇っていた。


ホワイトホースには4日間滞在した。
市内観光は寒さがあまりに厳しいために、早々に諦めることにした。
雪に埋もれたロッジの周囲をゆっくりと散策し、ユーコン川の畔を手を繋いで歩くのがあたし達の日課になった。
夜になれば、宝石を散りばめたような星々と鮮やかなオーロラを一緒に眺め、未来の展望を語りあった。





いつも拍手をありがとうございます。
前編から2年が経過しているので、二人の雰囲気も落ち着きました。原作から分岐しているので、二人は高校の時にカナダには行っていない設定です。

さて、類の方の願いは?
後編は明後日の更新です。
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