FC2ブログ

Scarlet ~4~

Category『Scarlet』
 0
《つくしSide》


海岸端でお昼を食べてから、あたし達は鎌倉市内の散策に出掛けた。
最初に、竹寺として有名な報国寺に向かう。
アプローチとなっている枯山水庭園をゆっくり鑑賞してから、奥にある竹林へと足を運ぶ。
約2000本の孟宗竹が彩る深緑に彩られた空間は、外界の喧騒と切り離され、あたし達に時の流れを忘れさせた。
カサカサカサ… サラサラサラ…
風が吹き抜けるたびに、竹の葉擦れ音だけがそこには満ちていく。
そんなとき、あたし達の間に言葉は要らない。
同じものを見て、感じて、それを愛でることができる
隣にいる花沢類をそっと見上げると、彼もその目線に気づいて優しく笑い返してくれる。

――やっぱり、好きだなぁ。
何気ない一コマに、彼への想いを再認識する。
そして、改めて自分の心にブレーキをかける。
――でも、ダメなんだよね。
今日を最後と思うから、より一層その落差がつらい。


次に向かったのは、言わずと知れた鶴岡八幡宮。通称、八幡様だ。
鎌倉を代表する神社は報国寺から近く、多くの参拝客で賑わっていて、駐車場を探すのには一苦労だった。
鎌倉幕府初代将軍、源頼朝公ゆかりの神社は勝運や仕事運をアップさせるためのパワースポットとしても有名だ。
「あの…花沢類は人混み平気?」
「…ん?」
目の前の参道にも、それに続く大石段にも人が溢れかえっているのが見え、あたしは彼を気遣う。
「えっと、…前に混雑してるところは好きじゃないって聞いた覚えが…」
耳がいいから、と言っていたのを記憶している。
聴こえすぎるから、賑やかな場所ではノイズがつらいのだと。
「まぁ、好きじゃないけど、…今日はいいよ」
そう? と目線だけで問うと、花沢類はおもむろにあたしの右手を取った。

――え?
驚いて硬直している間にそっと指先を絡められ、恋人繋ぎにされる。
「はぐれないように…ね?」
「あの、…えっと」
「俺、どうしても八幡様にお願いしたいことがあるんだ」
手を繋いでいることには意識を振らせずに、彼はあたしの手を引いて先に進もうとする。

これまでもつらいとき、悲しいときに、花沢類はあたしと手を繋いでくれた。
そこに言葉がなくても、彼の優しさと労りとにいつも励まされ、癒されてきた。
彼にどれほど感謝してきたか分からないほどだ。
――でも、これはそうじゃないよね。
あたしは繋がれた手の仄温かさに惑う。
この温もりを手離したくなくなるから、こんなことはしないでほしいと思うのに、最後だからいいじゃないかと、心のどこかであたしを宥める声がする。
――忘れないでいよう。彼を大好きだったこと。
道明寺への想いも昇華できたのだから、花沢類へのそれもいつか同じように薄らいでいくはずだ。
きっと、時間が、薬になる。



≪類Side≫


鶴岡八幡宮は、仕事や人生の転換期に訪れれば、決断力、行動力を授けてもらえるという。
牧野との関係をいまよりも前に進め、そして長く続けていきたいから、そのご利益にあやかりたい。
人混みの中を、牧野と手を繋いで歩いて朱色の楼門をくぐり、本宮を目指す。
牧野の手は俺よりちょっとだけ温かい。
強引にその手を取ったとき、彼女がそれを拒まなかったことにホッと息を吐く。
だけど、ちらりと振り返ったときに見えた彼女の表情はひどく物憂げで、牧野の心を占めている感情は何なのかを図りかねた。

――だって、あんた、俺のことが好きだよね?
俺を見上げる瞳が、俺を気遣う優しい声が、彼女から送られるサインの何もかもがそうだと告げている。
あんたほど分かりやすい人間はいないよ。
隠し事ができないそういうところさえ愛くるしいと、俺は思ってるんだからさ。

参拝が済み、いったん離れてしまった手をもう一度繋ぎ直そうと差し出せば、一瞬の躊躇の後で牧野はおずおずと右手を伸ばしてきた。
もと来た道を戻りながら、彼女の心中が知りたくて俺はトラップを仕掛ける。
「…次は春にも来たいね。若宮大路は桜の名所としても有名なんだよ」
瞬間、俺をはたと凝視した彼女の反応から、俺は察した。
――次はない、ってことか。
よく知ってるね、と呟きながら、空いている左手で髪をいじる仕草が、彼女の動揺を表している。


言葉少なになってしまった牧野を乗せて、俺は七里ヶ浜に向けてハンドルを切る。
本当は鶴岡八幡宮の次は参道に連なる店を冷やかしながら戻り、彼女が好きな甘いものを食べ歩きしてもらおうと思っていた。
でも、俺が発した言葉で彼女はすっかり元気をなくし、もうそんな雰囲気でもなくなってしまった。
潮時だと思う。俺は、彼女と、話をするべきだ。

関連記事
スポンサーサイト



0 Comments

Post a comment