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60.予定外

Category『Distance from you』 本編
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金曜日の夜遅く、田村から持ち込まれた出張の件で、類の機嫌はすこぶる悪かった。
乗り込んだ新幹線の目的地は大阪。同行者は田村一人だ。
手渡されたすべての書類に目を通し、類は改めて現地でのスケジュールを確認した。日曜の夕方まで、息をつく間もないほど過密な日程が組まれている。

「…田村、これ…」
「仰りたいことは重々承知です。…ですが、先方が副社長をご指名なのです」
「この件は専務の担当だろ? どうしてそうなる訳?」
田村は言いにくそうにした後で、知り得る限りの情報を類に伝えた。要は、先方が専務の交渉にダメ出しをしたというその内容に、類のため息が深くなる。

これまで何度も異母弟である耀の業務上の不手際を尻拭いしてきた。
類が上手く立ち回ったとて、その結果に対し、彼は決して礼など述べない。

―自分とはまったく相容れない存在。

もう慣れたこととはいえ、不快さを感じないわけではない。
「…もういいよ」
田村の説明を途中で遮り、類は倒した座席に深く身を沈めた。
ここで田村に苛立ちをぶつけても仕方がない。
「寝る。…10分前に起こして」
「承知いたしました」


いつものように、今日の午後はつくしに会いに行くつもりでいた。
彼女とはほんの3日前に遠出したばかりだ。
だが、もう会いたくて仕方なかった。
年始の業務を計画通りにこなし、自由時間を確保できたものと思っていた。
だが、そこへ予定外の大阪出張をねじ込まれた上に、訪問の延期を余儀なくされた。来週も恐ろしくスケジュールが詰まっている。
次にいつ会いに行けるかは、類にも分からなかった。


―それに、気になっていることが一つ。


年始に出社してみると、類の預かり知らぬ間に、フランスへの長期出張が月末から組んであった。帰国時期は未定になっている。
田村に確認すると、彼自身も困惑気味に新規の共同事業に関する仕事だと答えた。
社長命令だという。新規の案件には必ず社長である父が関わっている。


―いよいよ動き出したのか?


類が警戒していた、つくしとの関係に対する花沢家の介入。
妨害に動く者がいるとしたら、父本人か、父の差し金だろうと踏んでいた。
継母と異母弟の思惑は分からないが、類の今後の動向によっては、彼らは擁護派にも反対派にも転じ得る気がする。



ミチ子が訴えた尾行に関する調査は、今も秘密裏に続けていた。
あきらの部下からは定期的に報告を受けているが、12月上旬に取り付けたつくしの自宅の防犯カメラには、表立った動きはないと聞いていた。
だが12月下旬になると、尾行者と疑わしき人物が2名ほど挙げられた。つくしの自宅と、その周囲に設置された定点カメラの映像を比較してあぶり出した結果だった。

それがミチ子の訴えた人物と同一であるかは分からないが、彼女の声があったからこそ、不審者の検知に至ったと言える。
一人目は報道関係者であることを突き止め、データを消去させた上で、十分な脅しをかけておいた。いずれにしても、司による恫喝に近い牽制を覚えているマスコミなら下手な出方はするまいと思う。
もう一人については現在も調査中だが、どうもこれが花沢の関係者ではないかと目されている。


つくし本人へは、夜間の開院や外出、戸締りに重々気をつけるよう注意はしている。不審を感じればすぐに連絡するように、とも。
しかし、彼女自身からはまだそのような訴えがなかった。
自分が長く東京を離れることになるなら、本人の意思にかかわらず、信頼の置けるボディーガードを彼女につける必要があるかもしれない。


『頼みがある。』
タクシーでの移動の合間に、類はあきらにメールを送る。
『彼女絡みで?』
幸いにもすぐに応答がある。
『月末から、期間未定でフランス出張がある。不在の間、彼女に警護をつけたい。』
『男がいい? 女がいい?』
『屈強な女性を希望。』
すぐには返信が来ず、ややあってこう返る。
『男女のペアで妥協してくれ。』
『恩に着る。また連絡する。』


「副社長、もうじき到着します」
あきらとのやり取りを終える直前、下車の準備を促す田村の声がした。
類はスマートフォンを鞄に仕舞うと、脳内のスイッチを切り替え、これからの商談に向けて気持ちを引き締めた。まずは、前任者である異母弟の不手際を謝罪するところから、交渉を始めなければならない。





いつも拍手をありがとうございます。久々に仕事モードの類でした。
いよいよ物語が流転していきます。最後までよろしくお付き合いくださいませ。
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2 Comments

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2019/03/07 (Thu) 23:10 | REPLY |   
nainai

nainai  

ル様

こんばんは。コメントありがとうございます。
嬉しいです(*´ω`*)

そうそう、ここからが二人にとって本当の試練になるのです。章構成ではありませんが、今作の『起』『承』の部分では、類の真摯な愛情とつくしの心情変化を中心に、二人を取り巻く環境と問題点を挙げてきました。類の家族はとにかく曲者揃い…💦

不穏さと得体の知れなさとを醸し出せているのなら、作者冥利につきます。ハッピーエンドをお約束しますので、どうぞ最後までよろしくお付き合いくださいませ。

2019/03/08 (Fri) 00:29 | REPLY |   

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