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63.警護

Category『Distance from you』 本編
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類の渡仏が社内に公示されると、それまでに副社長の決裁を、と望む声が多く上がり、書類は山積していった。多忙な中でも担当業務の引継ぎを順調に終え、類の渡航日は1月17日に決まった。


その前の週の1月12日土曜日、いつもの時刻に類はひかわ動物病院を訪れた。通常と異なるのは普段着でないこと、訪問が一人ではなかったことだった。
スーツに身を固めた4人は、それだけで見る者を圧倒するような威圧感があった。

「初めまして。美作あきらです」
類に紹介されたあきらはスマートに微笑んで、つくしに右手を差し出した。つくしも名乗り、その手を軽く握り返すと、相手は白い歯を覗かせて美しく笑んだ。
花沢物産と比肩する大企業の御曹司は、類とはまた異なる魅力を持つ人物だった。
「類とは幼稚舎の頃からの友人なんです」
「…お噂はかねがね」
「この二人はうちの保安部の社員で、これからあなたの警護を担当します」

あきらが振り返ると、二人のうち、男性の方から挨拶をされる。
本永もとなが圭一です。よろしくお願い致します」
年齢は40くらいだろうか。背はさほど高くないが、がっちりした体つきをしている。その表情は柔和で、いかにもいかつい顔の警護役をイメージしていたつくし達には意外な印象を与えた。
福重ふくしげこずえです。よろしくお願い致します」
続いて挨拶をしたのは女性で、こちらも本永と同程度の年齢のように見えた。
黒髪を一つに括った面長の顔立ちは冷静な印象を抱かせた。


つくし側の方も、ミチ子と由紀乃がそれぞれに自己紹介をし、お互いの名前と顔を一致させたところで、現状の把握と今後の方針が示された。警護役の二人が常に近くに待機しているという内容に、つくしは驚いて声を上げた。
「あのぅ…私の行動パターンをご覧いただいてもお分かりのように、私はほとんどの時間を病院に詰めています。そのような手厚い警護は申し訳ないですし、必要ないかと…」
「先生っ! 何言ってるのっ!?」
怒ったような声はミチ子のものだ。

「相手が誰で、何人いるのかも分からないのに、ここで遠慮してどうするの?」
「長谷さんの仰る通りです。カメラだけでは限界があります。実際に周辺の警護に当たれば、新たな発見があるかもしれません。…彼らはその道のプロです。遠慮は要りません。『餅は餅屋に』という言葉があるでしょう?」
あきらは穏やかな表情ではあったが、理路整然とつくしの言葉を退けた。
「分かりました。よろしくお願いいたします」
つくしは、改めてあきら達に深く頭を下げた。


「牧野様、お気遣いは結構です」
「精一杯、任に当たります。お気づきの点があれば、どんなことでもお知らせください」
警護の二人が口添えすると、由紀乃がふと思い出したようにつくしに言った。
「先生、書き込みの件はもう伝えましたか?」
つくしはすぐに“あっ”という顔になり、類はそれを見て表情を変えた。
「何それ? 聞いてないんだけど」
全員の視線がつくしに集中し、彼女は観念したようにため息を吐いた。

「…月曜日にホームページに変な書き込みがあったの。でも、そういう事はこれまでにも何度かあったし、また同じようなことがあれば相談しようかと…」
「なんで、すぐ知らせないの?」
類は詰問調になる。つくしは後ろめたさから目を合わせられない。
「…黙っていてごめんなさい」
謝罪はするものの、つくしはその理由には言及しなかった。

つくしから詳細を聞き出したあきら達は、書き込みに使われたIPアドレスを辿って相手を調べてみるという。つくし達は問われるままに彼らに情報を与えた。
警護の二人はさっそく今日から任に当たってくれるという。各々が連絡先を交換し合い、日常生活の注意点を確認し合ったところで、場は散会となった。



「…なんで、黙ってたの?」
2階に上がったところで、類が不機嫌そうな声でもう一度同じ問いを投げる。
つくしは類の方を振り返らずに、それを背中で受け止めた。
「それは謝っ…」
「理由は言ってない」
類はつくしの声を強く遮る。
やはり誤魔化せていなかったのだと、つくしは苦笑する。

「…書き込みがあった日の夜、電話はできたけど、あなたが大変そうで言い出せなかった。余計な心配をかけたくなかった」
「そういう気遣いは要らない」
ピシャリと切り捨てるように言われ、閉口して立ち尽くすつくしを、類の両腕が後ろから伸びて抱きすくめた。その力強さにつくしはビクリと肩を揺らし、戸惑ったようにうつむいた。

「…俺が、どれくらい不安か分かる?」
耳元で類の声がする。
先ほどとは違って、トーンを抑えた静かな彼の声。
「いろんな懸念を払拭できないまま、あんたを日本に残していかなきゃいけない、俺の気持ちが分かる?」
「…ごめんなさい。本当に」
追及されているのはつくしの方なのに、類があまりに沈痛そうで、むしろこちらが彼を責めているように錯覚してしまう。

「もう隠し事はしないから…」
「絶対に? 約束できる?」
「うん。約束する。…だから、もう離して」
それでも、つくしを抱く類の腕は少しも緩まない。
「…俺が不在の間、花沢の方から接触があるかもしれない」
「え…?」
「そのことも念頭に置いてる。だからこその警護なんだ」

―あ…っ。

自分を抱きしめる力が再び強まり、つくしは思わず息を呑んだ。
苦しくなるほどの、強い、強い抱擁。
「離れたくない」
「…類…」
これから自分達の間に生じる距離を思えば、彼のそうした反応も理解できた。
改めて、彼の情の深さに感じ入る。

「…やっぱり離して?」
つくしは言う。
言ってから笑う。
「私も、類を抱きしめたいから」





いつも拍手をありがとうございます。
警護役の二人、本永と福重はこれから度々登場するようになります。
以後、お見知りおきを…。
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4 Comments

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2019/03/14 (Thu) 07:51 | REPLY |   

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2019/03/14 (Thu) 16:19 | REPLY |   
nainai

nainai  

み様

こんばんは。コメントありがとうございます。
返信が遅くなりました~<(_ _)>

由紀乃のファインプレーでした。あのタイミングでよくぞ!
つくしの気遣いは、かえって類の不安を増長しました。つくしと離れることは、類にとっては断腸の思いです。

二人が離れている間に何が起こるのか…。薄々感じ取っていらっしゃると思いますが、紆余曲折の展開を用意しております。その苦境を乗り切るための前半部分でした。執筆&更新頑張ります!

2019/03/14 (Thu) 21:25 | REPLY |   
nainai

nainai  

ル様

こんばんは。コメントありがとうございます。
返信が遅くなりました~<(_ _)>

ル様の感想はつくし視点に立っていて、どれもご尤も!というコメントばかりでした。類と関わったことにより、穏やかだったつくしの日常はこれからどんどん変遷していきます。しかも類はフランス…💦
困ったときのあきら君、ということで、彼と彼の部下達がこれから類の代わりに活躍してくれます。

その中にあっても、つくしは自身の為すべきことを見誤らないと思います。困難に立ち向かうそれぞれの奮闘を見守ってくださいね。
更新&執筆頑張ります! まだ本編を書き終わっていないんですよ…。

2019/03/14 (Thu) 21:43 | REPLY |   

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