FC2ブログ

70.決裂

Category『Distance from you』 本編
 6
「今、私には結婚を考えている女性がいます。人生の伴侶には彼女しか考えられません」
「過去、中條家との婚約解消に至った経緯については、今でも大変申し訳なく思っています」
「会社へはこれまで以上の、…いえ、倍以上の実益をお約束します。ですから、結婚だけは自分の意志で決めさせていただけませんか」

類は、商談のためにドイツに渡っている父を、滞在先のホテルまで追いかけた。
メイヤー財閥との共同事業は着実に進捗しんちょくさせてはいたが、セシリアからのアピールも日毎に強まっており、相手に深入りさせる前にできるだけ早く手を打つ必要があった。フランス赴任の際に同行させていた秘書の田村とは、すでに引き離されている。渡仏後わずか10日で田村は帰国を命じられた。これもまた、至上命令だった。


ありったけの懇願を込めて発された類の言葉は、統によって容赦なく切り捨てられた。統ももう本心を隠さなかった。
「その女性のことは報告が上がっている。彼女とは別れなさい」
「お前には、どうあってもメイヤーの娘と結婚してもらう」

類は猛然と抗議した。
統の指示に真っ向から逆らうのは初めてのことだった。
「いずれも承服できかねます」
「関係強化だけが狙いの結婚は後進的な手法です。そのようなことをしなくとも事業は成功させますし、提携も継続させていきます」

統はそれを鼻であしらう。例の薄笑いを浮かべて。
「会社のために個は打ち消せ。ずっとそう教えてきたはずだ」
「私もそうしてきた。耀でさえもその宿命を受け入れている」
「…お前はなぜ、肝心要の部分で、物事の倣いに従えないんだ!」

類は言い募る。
「駒は駒なりに感情も意志もあります。愛のない結婚は、私にはできません」
「会社や父へ貢献したいという思いは、私よりも耀の方がずっと強いです。後継には彼を推してください。それがあなたの妻の願いでもあるはずでしょう」

統は酷薄そうに笑むと、こう言った。
「お前はあらゆる情報を統括し、俯瞰ふかんする力に長ける。功を焦る耀には欠ける資質だ」
「私が、多津子や耀の言いなりになるわけがないだろう。これまで経営方針に口出しさせたことはない。…選ばれないのにもそれなりの理由がある」


統の言わんとすることが分からない類でもない。
だが―。


自分を睨み据えて一向に引く気のない類に、このままでは埒が明かないと思ったのか、統は冷たい笑みを消して高圧的に言い放った。
「その女性との結婚は認めない。お前がそういう態度なら、相手の方に納得してもらうだけだ」
「お前の友人達がどんな画策をしようが、つけ入る隙は必ずある。守るだけでは限界もあるだろう。……相手を傷つけたくないなら、一刻も早く別れることだ」
統は、類に部屋を出ていくように指を振った。
話は終わりだ、と言外に告げている。
「…どうしても、ご理解いただけませんか?」
統は無言を貫く。もう類とは話すつもりがないようだった。




ドイツの空港を発ち、フランスに戻る機内で類は考えを巡らせる。
統は予想通りの反応を示した。
つくしへの直接の干渉についても匂わせて。

―分かっていた。あれが花沢統だ。

願いが届くとは最初から思っていなかった。
親だからと、相手に甘い期待などはしない。だから失意は感じない。
交渉の余地があるのか、ただ、それが知りたかっただけだ。
どんな難題でもいい。クリアすべき条件と引き換えに、つくしとの婚姻を認めてもらえさえするのなら、どのような労苦も厭わない覚悟が類にはあった。
だが、結果はこうだ。
統の意向がはっきりと確認できた今、類の選ぶ道は一つだ。



空港に降り立ち、スマートフォンの電源を入れると、つくしからの数件の不在着信とそれに続く1通の短いメールに気付く。統の第一秘書だった酒本が、つくしにコンタクトを図ってきたというその内容に、類は激昂した。
彼は今、本社で耀のサポートにあたっているはずではなかったか。
最初からそのつもりでの帰国だったのか。
口火はすでに切られている。
そう理解した。
相手がそのつもりなら、こちらも徹底的に抗戦するまでだ。



類は迎えの車に乗る。そのまま仕事先に向かう予定だ。
つくしに連絡するよりも先に、類は友人へとメッセージを送る。
R『交渉決裂 Bで行く』
今後のやり取りのために設けたグループ掲示板に、自分を示す“R”の文字に続いてメッセージが書き込まれる。
A『了解 向こうが接触を図った 早い方がいい』
すぐに了承を返したのは“A”、あきらだ。
A『週刊誌に記事が出た フォローを』

あきらに状況を確認しているうちに別の書き込みが入る。
発信者は“S”、総二郎だ。
S『Cに移行する可能性は?』
R『時機見て判断』

T『最初からCにしろ』
珍しく“T”からの発言。司だ。
T『回りくどい』
R『皆の負担が大きくなる Bでいく 協力頼む』
S『Rに同意 心づもりだけしておく』
A『同じく』
T『了解』
やがて揃う了承の文字。
そのまま、場は散開するはずだった。


T『妻がMに会いたがってる』
司の書き込みに類は目を見開く。“M”は牧野、つまりつくしのことだ。
R『なぜ?』
T『興味を持ってる 所用で帰国する 突然会いに行くかもしれない』
司の妻は、大河原財閥の一人娘、滋だ。
二人は親同士の決めた結婚ではあったが、滋の明るくサバサバした性格は、司とは予想に反して相性がよく、夫婦関係は至極良好だった。二人の間には一男一女がいる。

滋の性格をよく知る類は、“さも有りなん”とため息を吐く。
T『止めて聞くような女じゃない』
R『分かってる できるだけ自重させて』


皆とのやり取りを終えると、類はつくしに向けて長いメールを書いた。計画の成功を確実なものにするためには、今後は盗聴の可能性を考慮した方がいい。
すべては、自分達の未来のためだ。





いつも拍手をありがとうございます。もちろん類は徹底抗戦の構えです!

さて、カウンターにお気づきでしょうか? もうすぐ90,000HITです(*'▽')
今回は類のBDも近い。…と、いうことで、恒例のSSをUPしたいと思います。
(予想では、明日の夜までに超える…かな?)
関連記事
スポンサーサイト



6 Comments

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/03/27 (Wed) 23:43 | REPLY |   
nainai

nainai  

ま様

おはようございます。昨日は寝落ちしてしまいました~(;^ω^)
応援コメントありがとうございます。嬉しいです!

日本~パリ~ニューヨークを繋ぐチャットでした。類を筆頭にF3も様々な画策をします。彼らの奮闘を見守っていてくださいね。
当然ながら、統はつくしの存在を把握していました。類と統の折衝が物別れに終わった直後、日本にいるつくしは酒本と対峙しています。あれは統の宣戦布告というわけでした。

今夜からは息抜きのごとくHIT記念ssを予定しています。類のBDと重なってしまいました💦 よかったら遊びに来てくださいね(^^♪

2019/03/28 (Thu) 06:56 | REPLY |   

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/03/28 (Thu) 08:54 | REPLY |   

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/03/28 (Thu) 11:58 | REPLY |   
nainai

nainai  

ゆ様

こんばんは。今日もコメントありがとうございます。
とても嬉しいです~(*^^)v

いよいよ対立の図式が明らかになってきました。類の方も闘争を回避すべく努力はしたのですが、統は頑なでした。
つくしの方にもいろいろと動きがあります。私の書く話にはあまり登場させたことのない滋も今後出てきます。どのタイミングで登場するかは、どうぞお楽しみに。

予想通り、本日90,00HITを迎えました! 今夜は記念SSですので、そちらもよろしくお願いいたします<(_ _)>

2019/03/28 (Thu) 20:27 | REPLY |   
nainai

nainai  

ふ様

こんばんは。今日もコメントありがとうございます。
とても嬉しいです~(*^^)v

…対立の構図、ドキドキしますよね。実は、私もこれからの話のUPにドキドキしています💦
つくしには、これからもいろんなことが待ち受けています。彼らの世界にあっては弱い立場になってしまうつくしを類達がどう守るのか、まだまだハラハラさせてしまうと思いますが、最後までよろしくお願いします。

本日90,000HITを迎えました。いや~、ありがたいことです。今夜は記念SSです。どうぞお楽しみください。

2019/03/28 (Thu) 20:40 | REPLY |   

Post a comment