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5分だけのわがまま(星香様より)

Category5分だけのわがまま(星香様より)
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こちらのお話は、『駄文置き場のブログ』の星香様よりいただいたものです。
サイトオープンに際し、お祝いにということで有り難く頂戴しました。
星香様、本当にありがとうございました。ただただ嬉しいです。

『樹海の糸』の本編よりずっと先の、素敵な素敵なお話です。
それでは、どうぞ。






『今日は遅くなるから先にご飯を食べていてね』

次のコンサートの打ち合わせを終え、帰宅間際の類のもとに入ったLINEメッセージ。
『了解』と送信し家に戻ると、三人の子供たちが出迎えてくれる。
つくしからの連絡は入っていたのだろう。既に食卓の用意は出来上がっていた。

いつもと異なる、一人欠けた夕食後。
「パパはお仕事してきたのだから座っていて」という愛娘の言葉に甘え、食後の珈琲を飲んでいた類だが、台所の片付けが終わる頃、不意に立ち上がった。

「どうしたの? パパ」
「…ん…」

曖昧に返事をし、キッチンへと向かう。
つくしの身長に合わせて作られているそれは、類には少しばかり低い。
片付けたばかりの鍋を取り出し、水を入れると火をかけた。

類の謎の行動を不思議に感じた娘だが、テーブルの上に置かれた類のスマートフォンを見て納得する。
画面に表示されたままのLINEトーク。類が送った『了解』の文字は、未だ既読マークが付いていない。
慌てて食器を片付ける二人の弟に声を掛けた。

「もうお手伝いは良いから、お風呂入っちゃいなさい」
「えーでもまだそんな時間じゃ…」「いいから! 早く入る!」

わいわいと賑やかに騒ぎ立て男二人をバスルームへ押しやると、自らは「宿題やってくるねー」と、類の返事も待たず自室に引っ込む。
静かになったキッチンにひとり。類が器用に手を動かす。

カップ一杯分入れた米は、つくしに言わせると“贅沢なブランド米”。通常であればまず買わない代物なのだが、食に興味のない類が珍しく好んだものだから…と、奮発したもの。
冷蔵庫を開けると、行儀良く3パック並んだ玉子。今朝つくしに厳命された子供達が、スーパーのセールで購入してきた『おひとりさま1パック39円』の戦利品。安い分、大きさが不揃いのため、ざっと見て一番大きいものを手に取る。
調味料入れから取り出した、塩と醤油をほんの少々。
それに、愛情を沢山。

ことことこと…。
火にかけた鍋が小さな音を立てる。

キッチンで味見をする類に、いつの間にかシャワーを終えた娘から「もう寝るね。二人とも寝たから」と声が掛かる。
類がその頬にキスを落とすと、意味深な笑顔を向けられた。

「おやすみ」
「ごゆっくり~」

いつの間にか“カンのいい人”に育った愛娘。
元々容姿は類に酷似していたのだが、中身まで自分に似たのだろうか…?
嬉しいような、こそばゆいような気持ちに、知らず笑みが浮かぶ。

鍋の火を止めリビングの時計を見れば、時刻は既に23時をまわっていた。
丁度そのとき、スマートフォンが振動し、待っていたメッセージが映し出される。

『今から職場を出ます』
-今から…? 迎えに行かないと…。

僅かに寄る眉間の皺。
即座に考えた類の先を行くように、もう一度振動するスマートフォン。

『タクシーに乗ったので大丈夫』

タクシーも心配だが、夜遅くの一人歩きよりはマシかと、軽く息をつく。

数時間前までの賑やかな食卓が嘘のように、静まり返った室内。
ソファーに座り譜面のチェックをしていた類が、『そろそろか…』とそれを片付け終えた頃。タイミング良く玄関の扉が開く音がした。

「ただいま。ごめんね、遅くなっちゃった…」

頻りに謝りながら、慌ただしく靴を脱ぎリビングへ入ろうとする。そんなつくしの腕を掴むと、自らの胸元に抱き寄せた。
類の突然の行動に驚き、両手をばたつかせそれから逃れようともがく。

「ちょ…ちょっと…! なに…」
「………充電………」

つくしの耳に届く、穏やかな声。
ワタワタと慌てふためいていた動きがぴたりと止まる。

理想を掲げ、やっとの思いでなった弁護士。
『弱者の味方になりたい』
その考えは変わらないのだが、現実はそんなに甘くない。

自分が“強者”の立場に立つこともある。
そもそも、善悪が明確にされる事例など稀で、それぞれがそれぞれの“立場”から“正義”を掲げているのが常。
そう。“正義”など、本当はこの世に存在しない。あるのは、混沌と妥協の間にある調和だけ。
そんなことを考えたのも、一度二度のことではない。

この仕事に就きそれなりの年数を重ねてはいたが、今のつくしは業界の中ではまだまだ“若造”の部類に入る。
余程のことがない限り、仕事を選り好みする余裕などない。
ならば、“仕事”と割りきってしまえばいい。大抵の同業者はそうしているのだから。

だがそれでも、つくしは依頼人に寄り添おうとする。
すればするほど矛盾を抱え、葛藤を繰り返す。

最近はどうにか、それを昇華する術を身につけた。
家庭に仕事は持ち込まない、引きずらない。
そのお蔭か、最初の頃より落ち込むことは減った。
だからといって、辛いと感じない訳ではない。

そんなとき、類は静かにつくしを癒す。
ヴァイオリンを奏でたり、頭や頬を撫でたり。今日のように『充電させて』と言って、突然抱きしめたり…。

『仕事を辞めろ』とは言わない。つくしがどれだけこの仕事に心血注いでいるのかを知っているから。
『頑張れ』とも言わない。頑張っているときにそう言われると、かえって辛いことを知っているから。
只、黙ってつくしの話を聞き、つくしの心に寄り添うだけ。

柔らかなコロンの香り。
とくとくと規則正しい鼓動の音。
ひんやりとした手とは異なる、暖かな身体の温もり。
それらすべてが、ささくれ立ったつくしの心を癒していく。

つくしの手が、ゆっくりと類の背中にかかろうとした刹那、鳴り出すのは腹の虫。
一瞬の間。唖然とする眼。つくしの身体に回されていた腕が、ふるふると震える。

「もう! 仕方ないでしょ! お昼から何も食べていないんだから…!」

赤くなりながら拗ねたように告げるつくしからそっと身体を離すと「お粥、出来てるよ」と微笑む。
幾つになっても変わらない、つくしが弱い、大好きな類の笑顔。
今はまだ笑いが治まらないのだろう。思い出したようにククッと喉を鳴らしながら「行こ」と促す。
そんな類につくしが一瞬考え、身体に手を回した。
突飛なその行動に、今度は類の方が戸惑いを見せる。

「…つくし…?」
「………あと………五分だけ………」

ぎゅう。
回された手に力が入る。
滅多にない可愛らしい我儘に、再びつくしの方へ向き直ると、先程より少しばかり腕に力を込める。

ぱたん。

薄く開いていた子供部屋のドアが、小さく閉まる気配。
類は一瞬そちらに意識を向けたのだが、腕の中のつくしはそれに気付かない。

-ホント…いい娘に育ったな…。

思いがけず娘がくれた“二人だけの時間”に感謝をしつつ、ふっと口許を緩めつくしの髪にキスを落とす。

「五分と言わず…幾らでも…」
「…うん…」

穏やかな夜が、二人を包んでいった。


-fin-



イメージソング『5分だけのわがまま』
http://www.kasi-time.com/item-1319.html




この作品に関する権利は、作者である星香様にございます。
無断転記・配布・加工などの行為は禁止しております。

星香様宛てのコメントがございましたらお届けいたします。
どうぞお気を楽に書き込みくださいませ。


星香様、本当にありがとうございました!


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6 Comments

nainai  

M.W.様

拍手コメントをいただきました。
ご訪問&コメントありがとうございます。

素敵なお話でうっとりしますよね。
メッセージは星香様へお伝えしておきますね。

2018/05/01 (Tue) 08:09 | EDIT | REPLY |   

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管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/05/01 (Tue) 20:33 | REPLY |   
nainai

nainai  

”木の”様

コメントありがとうございます。

『ぎゅう』ってトコいいですよね。つくし可愛い♡
メッセージは星香様へお伝えしておきますね。

2018/05/01 (Tue) 20:52 | REPLY |   

星香  

鍵コメ「ma」様

コメントありがとうございます♪
nainaiさまより頂戴致しました。<(_ _)>

このお話が出来たきっかけ、実はちょこっとだけ実話(っぽいもの?)が入っております。
あ、でも色っぽい話題ではありませんよー(^^;)
無理矢理押し付けちゃったものですが、そう言って頂けて嬉しいです(^^)

お目汚し、失礼致しました。<(_ _)>

2018/05/02 (Wed) 09:52 | REPLY |   

星香  

鍵コメ「木の」様

コメントありがとうございます♪
nainaiさまより頂戴致しました。<(_ _)>

そう『ぎゅう』です。
類にぎゅうっとしてもらって癒されたいなぁ
…というワタクシの願望から、思わずつくしちゃんを抱きつかせてしまいました(^^;)
未来設定はご本人事後承諾だったりします…。←オイ!

お目汚し、失礼致しました。<(_ _)>

2018/05/02 (Wed) 09:55 | REPLY |   

星香  

nainaiさま

この度は駄文がお邪魔致しました。<(_ _)>
nainaiさまのお話に勝手にリスペクトし押し付けたものでしたが、オープンに載せて頂き感謝です。
これからのお話、楽しみにしております~(^^)♪

…あ、お話はいつでも、年中無休で受付致しております~( ̄ー ̄)ニヤリ

2018/05/02 (Wed) 10:03 | REPLY |   

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