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74.次なる訪問者

Category『Distance from you』 本編
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これ以上の話し合いは無用とばかりに、統はつくしに背を向けた。
足早に立ち去るその背に、つくしはもう何も言い募ることができなかった。

『父親とは解り合えない』
そう言った類の気持ちが痛いほどに分かった。


花沢統には確固たる信念がある。
企業のトップたる者、このようでなくてはならないという絶対的な戒律の下に彼は生きている。そこに他の意見が入り込む余地はない。
だが、その戒律が正しいという保証はどこにもない。
類は統の所有物ではない。会社の保有物でもない。

今でこそ様々な主義主張が浮かんでくるのに、先ほどはあのように述べるだけで精いっぱいだった。結局のところ、話は平行線をたどって終了した。
それをひどく歯痒く思う。



「牧野様、大丈夫ですか」
統と話をする間、ずっと傍に控えていた本永が、無言のまま立ち尽くすつくしに声をかける。統の後ろ姿は疾うに見えなくなっていた。シロンは場の雰囲気が怖かったのか、ずっと地面に伏せ、声も発さずに大人しくしていた。
「…気圧されてしまいました」
つくしの浮かべた寂しそうな微笑を見て、本永は柔らかい表情を作る。
「いえ、ご立派でしたよ。この場に花沢様がいらっしゃったら、牧野様の言葉をとても喜ばれただろうと思います」
「…そうでしょうか」

「花沢統氏に対峙するだけでも気力を使います。…実を言えば、私も怖かったですから」
本永の言葉に、つくしは軽く目を見開く。
「…本永さんが、ですか?」
「えぇ、下がっていろと一喝されたときは、どうしようかと思いましたよ」
本永の珍しい軽口にふっと笑んだ途端、緊張が解けたのか視界がぼやけた。
涙を見せたくなくて思わずしゃがみ込み、自分を見上げるシロンのつぶらな瞳と出会って、また泣きたい気持ちになる。キュウン、と甘えたように鳴くシロンを抱きしめ、つくしは必死に気持ちを落ち着かせようとした。



『だからこそ、あなたは息子をスポイルする存在なのでしょう』

統の最後の言葉が甦る。
Spoilとは、甘やかすことで本来の性質を損なってしまうことだ。
冷たい人間関係の中に育ち、家庭的な温かさに飢える彼には、惜しみなく愛情を注ぐことが大事なのだと思った。でも、それでは類の本質が損なわれると彼の父は言う。

―それは、どうして?



「…照会済みか? 仕方ないな。お連れしろ」
本永が、福重と通信している。
小さな声でのやり取りの中に、彼の困惑を感じ取った。
「本永さん…?」
滲んだ涙をさっと拭ってつくしが立ち上がると、本永は一瞬言いにくそうにした後で、このように述べた。
「牧野様に会いたいと仰る女性がいらしています。今は福重と一緒にいるようです。花沢様のご指示もあり、一旦はお断り申し上げたのですが、どうしてもと仰られるのでご自宅の方にお連れするように言いました」
「それは、どなたですか?」

類のメールの追伸文が、つくしの脳裏に甦る。
『親友の妻が、アポなしで自宅を訪問するかもしれない。』

「牧野様は面識がないと伺っております。道明寺滋様です」



シロンを連れていつもの散歩道を急いで戻ると、自宅前に福重と一人の女性が並んで立っているのが遠目に見えた。つくしとシロンは二人の元へと駆け寄った。
福重の目線を追ってこちらを振り向いた女性は、つくしの姿を認めると、大きな瞳をこれ以上はないほどに見開き、やがては破顔した。
ショートカットの美人で、溌溂とした笑顔が印象的だ。

「あのっ…お待たせしてすみません」
息を切らしながらのつくしの謝罪に、女性は顔の前でぶんぶんと手を振る。
「いいの、いいの! 勝手に訪ねてきたのは私の方だもの」
そういうと、彼女は改まってつくしに挨拶をした。
「道明寺滋です。類君とは夫を通じて、友人付き合いさせてもらっています」
ニコッと微笑んだ滋の表情は愛らしく、どこか憎めない感じがする。

「牧野つくしです。それで、あの、道明寺さんはどういったご用件で…」
つくしが用件を問おうとすると、滋は手を前にかざしてストップをかけた。
「話したいのはやまやまなんだけどさぁ、とりあえず家の中に入れてもらえるかな? 実は、寒くて凍えそうなんだよね…」
暖かそうな防寒着に身を包んだ滋は、それでも寒さを堪えられないといった感じに自身の両腕を抱き込み、もう一度人懐っこい笑顔を見せた。





いつも拍手をありがとうございます。滋の登場です! 
実は書き慣れていないキャラです。よろしくお願いします(;^_^A
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