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85.愛を紡いで

Category『Distance from you』 本編
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小さなテーブルランプの淡い光だけが灯る。ベッドの上に向かい合って座ると、二人分の重みに耐えかねたのか、軽い軋みが上がった。
手と手を繋ぎ、見つめ合って数秒間。
すぐに唇を寄せ、啄ばむようなキスを繰り返す。


「怖くない?」
唇の離れるわずかな間に、類が問えば、
「…うん…」
つくしが頷き、キスに応じた。


その声音に、瞳に、表情に翳りがないことを慎重に探って、類は優しく笑む。
類が微笑むと、つくしも微笑みを返した。


「…脱がせていい?」
類が問えば、小さい頷きが返った。それでも、首元まで留められた寝間着のボタンに類の指先が触れると、つくしはわずかに身じろいだ。
動きを止め、もう一度、彼女の真意を確かめるように目だけで問えば、
「大丈夫。…続けて」
と返され、類は片手の指でそっと、一つ目のボタンを外した。


寝間着の上衣の前を開き、細い両肩からするりと落とす。キャミソール姿のつくしは寄る辺なく頼りなげで、類の庇護欲を一層強く掻き立てた。
「俺は自分で脱ごうか?」
「…うぅん、私が」
つくしの白い指先が滑り上がって、類のワイシャツのボタンに触れる。


「…あなたのシャツ、前にもこうして緩めたよ」
「ここで寝入ってしまった夜のこと?」
「うん…」
2ヶ月ほど前の夜のことだ。
「あのとき、初めて自分からあなたに触れたの。…なぜか、嫌悪感が湧かなかった。ずっとそれが不思議だった…」
類は嬉しそうに笑う。
「その時にはもう、俺のことが好きだったからだよ」
「…そう…なのかな」
「そうだよ。…そういうことにしておいてよ」
類のおどけた口調に、つくしもクスクスと笑った。



向かい合ったまま身につけたものを一つ一つ脱がせ合い、ついには一糸纏わぬ姿になる。その頃には、つくしの表情も硬く強張ったものに変化していた。
漆黒の瞳が泣き出しそうにゆらゆらと揺れている。
「怖くない?」
ここに至るまでにも、何度も繰り返された問い。
「…………うん」
返答までの、今までで一番長い数秒間に、つくしの逡巡が透けて見えた。


類はつくしの手を持ち上げ、その白い甲にそっとキスを落とした。
「…無理しないで。ちゃんと教えて」
つくしは言い淀みながらも、正直に胸の内を明かした。
「全然怖くないって言ったら…たぶん嘘になる。…だけど…」
つくしも類の手を持ち上げ、その甲にキスをする。
まるで誓いの儀式のように。


「あなたが好き」
類に向けられる、真っ直ぐな想い。
「私なりに精一杯、あなたを愛したい。だから…」



―愛し、愛された幸せな記憶を、私にください。



つくしが最後まで告げ終わらぬうちに、類がその唇を塞いだ。
口づけは、これまでになく深く、情熱的なものへと変わる。
息も継げない激しいキスに、つくしが身を強張らせていくのが分かった。

つと唇を離すと、細い銀糸が二人の間を繋いでいる。
はぁ、と吐息を洩らしたつくしの、その表情からあどけなさは消えていた。
初めて見せられた女の顔に、情炎が燃え立つ。
類はつくしの体をゆっくり後方へと押し倒すと、隙間なく素肌を重ねた。



類が思う以上に、つくしはキスが巧かった。
温かく、甘く、そしてわずかに淫靡で。

それを彼女に教え込んだ存在を意識すると、狂おしいほどの嫉妬が芽生える。
つくしに対する独占欲の強さには、自分でも驚くほどだ。
だが、それに呑まれてはダメだ、と類は自身を厳しく律する。


かつて彼女を苛んだものは、男の一方的な欲望。
愛していると言いながら、決して彼女の幸せを考えない身勝手さだっただろう。



心の中で叫ぶ。



俺は、そいつとは違う。
つくしを深く愛しているからこそ、その心に寄り添うことができる。
彼女を幸せにするためになら、それ以外のすべてを手離すことができる。



だから、怖がらないで。
どうか、目を逸らさないで。



俺だけを見ていて。






いつも拍手をありがとうございます。次回の更新は明後日、パス付き公開です。
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