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Telepath ~Akito side~

Category10万HIT記念
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ぼくは、花ざわあきと。6才になったばかり。
パパと、ママと、みーちゃんと、ぼくと、りっちゃんの5人かぞく。


1つ上のみーちゃんは、4月から小学生になった。
ずっといっしょのようちえんだったのに、みーちゃんがいなくなって少しさみしい。

でも、ヤなこともあるから、いなくてもいいなとおもうこともある。
みーちゃんは小学生になってから、すごくエラぶるようになった。
ぼくがしらないことを、じまんしてくるんだ。

ぼくたちはなかよしだけど、ケンカもいっぱいする。
ママは、“二人はライバルどうしだね”って言ってる。


りっちゃんは、女の子の赤ちゃん。
赤ちゃんっていうけどまっしろで、プクプクして、すごくかわいい。
ギュッてすると、あまいにおいがするの。ふしぎだな。

りっちゃんがまだママのおなかにいるころ、ぼくは、まい日はなしかけていた。
はやく会いたいよって。いっしょにあそぼうねって。
3月にやっと会えたのに、りっちゃんはまだおはなしができないんだって。
ぼくのこえがきこえていたのか、おしえてほしかったのにな。

でも、ヘンなんだ。
りっちゃんのことがだいすきなのに、ときどき、ヤだなっておもうこともある。
しんぞうのところがモヤモヤして、ちょっとくるしくなるの。
なんでかな?


ある日、みーちゃんがこんなことを言い出した。
「ねぇねぇ、あっくん。ママって“ちょうのう力しゃ”なのかもしれないよっ!」
「“ちょうのうりょくしゃ”って、なぁに?」
そうきいたぼくに、学校のとしょかんでかりてきた本を見せてくれる。その中に、あいての心の中をよみとる力をもつ人のことを『テレパス』とよぶ、とかいてあった。

みーちゃんはいろんなものをしんじてる。
サンタクロースとか、かみさまとか、おばけとか、まほうつかいとか…。
でも、ぼくはちがう。
目に見えないものはしんじないんだ。
だってパパが、じぶんの目で見たものをしんじなさいって言うんだもん。



******



「パパ見て。さんかん日の作文、すごくほめられたの」
美玖が大きな花丸のついた原稿用紙を持ち帰ってきたのは、参観日が行われた週の休日の昼下がりだった。俺はつくしからその内容を聞いていたけれど、美玖にこうお願いした。
「見に行けなくてごめん。だからここでもう一度、発表して見せてくれない?」
「えぇ~」
美玖はモジモジと恥ずかしがる。
そうした仕草がつくしと似ていて微笑ましい。


「ママが言ってたよ。美玖がすごくお姉さんらしく見えたって。パパも見たいな」
「ぼくも見たぁい!」
続けて声を上げたのは、近くで本を読んでいた暁斗だった。
つくしは理紗の授乳をしていて、別室にいる。
「みーちゃん、よんで」
「う~ん…。いいよ!」
美玖は俺と暁斗から少し離れた位置で真っすぐに立つと、原稿用紙を両手で持ち、ハキハキとした口調でスピーチを始めた。 


「…大きくなったら、わたしもママのようなお母さんになりたいです。…これでおわります!」


美玖が発表を終えると、俺と暁斗は惜しみない拍手を送った。
「よく纏まってるね。自分で考えたの?」
「そうだよ」
美玖は満足そうに胸を反らせた後、でもね、と言葉を継いだ。
「あかねちゃんのママが、ママはテレパスじゃないよって言ったの。どりょくすれば、だれにでもあいての気もちをしることできるんだって」

「…それ、ほんとう? どうやってやるの?」
俺が声を発するより前に、暁斗が食いつくようにして問うた。
美玖は大河原の言葉を思い出そうと、天井を仰ぎながら暁斗に説明した。
「えっとねぇ…。あいての目やひょうじょうを見て、あいてがなにをよろこぶのかをかんがえるようにしたら、だんだんできるようになるんだって」


ここまで聞けば分かる。
美玖はおそらく本当に記憶力がいい。大河原の言葉はつくしから聞いたものとほぼ同じ内容で、美玖は一度聞いたことを暗記すること、記憶し続けることに長けている。


「じゃ、みーちゃんは、テレパスのことはもうしんじてないの?」
「えぇ、なんで? ママはちがうみたいだけど、ほかにいるかもしれないよね?」
「みーちゃんは本をしんじすぎだよ」
「あっくんはいつもそればっかり…」
子供達が不毛な議論を始めようとしたとき、俺は意を決し、二人に話しかけた。
「美玖、暁斗、今日は二人に聞いてほしいことがあるんだ」

二人はキョトンと俺を見上げてくる。
つくしに似た漆黒の瞳が、俺に似た鳶色の瞳が、本当につぶらで幼気いたいけで…。
これから懺悔を聞いてもらわないといけないと思うと、気が引けてしまう。
でも、自分がしでかしたことはちゃんと自分で始末をつけなきゃね。

「美玖がテレパスを信じるようになったきっかけは、去年の夏、ママが話してくれた昔話からだったよね…」



******



腕の中で理紗が眠ってしまうとベビーベッドに寝かしつけ、私は話し声のする方へと近づいていった。聞こえてくるのは類の声だけ。その口調から、類が過去の真実を子供達に明かしているのが分かった。
私は足音を忍ばせ、隣にある続き部屋で3人のやり取りを聞いていた。


「…じゃあ、パパはウソをついてたの?」
類の話を聞き終わると、美玖は最初にそう言った。
「ママはいつもウソはいけませんって言うのに、ママもウソついたの?」
美玖の声はとても悲しそうだった。それを聞いて、私も悲しくなる。

その場しのぎの嘘は、目的がどうあれ、つくべきではなかったと反省する。
私達の馴れ初めは多くの人が知るところだ。
大きくなれば、いずれその話が他から持ち出される可能性があった。


ごめんね、という類の声が続く。
「ママは悪くないよ。ケンカの時の美玖がすごく一生懸命で、暁斗の前でそれを違うって言ったら、美玖が傷つくと思ってそう言ってくれたんだよ」
「…でも、ウソはウソだもん!」
美玖の声は怒っていた。
最初に悲しみがやってきて、やがて怒りに転じていったのがよく分かる。
「そうだね。…でも本当のこともあるよ」
類の口調は終始穏やかだった。
「パパにはママの気持ちが分かってたよ。パパはママのことを知ろうとたくさん努力したからね。そして、ママも同じだった。だから今、とっても幸せなんだよ」


「パパはどうしてウソをついたの?」
暁斗の声だ。話の理解が早く、核心をつく質問をするのはいつも暁斗だ。
そうした冷静な視点が類とよく似ている。
「見栄を張りたかったんだよ」
「“みえをはる”って、なぁに?」
「自分をよく見せたいと思うこと」
「なんで、そんなことするの?」
「…あぁ、そうか。そういう感覚って伝わりにくいよね。難しいな…」

子供に、“感覚”という無形のものを教えようとするのは実に困難だ。
まして今回は、“自分ばかりが相手を好きなようで悔しい”という、これまた複雑な心理から始まってしまった嘘なのだ。
類はため息をつき、その理由を説明することは諦めたらしかった。

「騙して、からかってやろうとしたわけじゃないよ。美玖はとても小さかったから忘れてしまうだろうと思ったんだ。でも、美玖の記憶力がこんなにすごいとは思わなくて、嘘をつくんじゃなかったってものすごく反省してる。…本当にごめんね」



暫くの間、美玖は黙っていた。
暁斗も何も言わなかった。
やがて、小さな声がした。



「わるいことしたって、おもってる?」
「うん、とっても」
「もうウソつかない?」
「うん、絶対」
「……じゃあ、ゆるしてあげる」
美玖は言う。
「ちゃんとごめんなさいをした人はゆるしてあげようねって、ママが言うの。だから、みく、もうおこるのをやめにするね」


あぁ、と嬉しくなる。
美玖はそういう子だ。夢見がちな部分はあっても、人の教えを素直に受け止め、理解し、それを実践に移せる子だ。


「ありがとう、美玖」
心から安堵したような類の声に苦笑する。
4年越しの嘘を美玖に許され、さぞかし猛省したことだろう。




その夜、ベッドタイムにて。

「…つくしの予想通りだったね。美玖って本当にいい子…」
しみじみとそう言った類はなんだか嬉しそうだった。
「二度目はないからね!」
念のために釘を刺しておくと、分かってるよ、と言葉が返る。
「個性って面白いよね。暁斗はあの年で妙にリアリストだし。…理紗はどんな子になるかな?」
「一番下だからね、目一杯甘やかされて育って、ワガママになっちゃうかも…」
「あり得るね。俺、理紗が何しても許せそうな気がするもん」

甘やかしの筆頭が、さっそくそんな発言をする。
…いやいや、ダメだからね!

ベッドの中でくっつき合って他愛のない話を続けていると、部屋の入り口の方からカタンと音がした。
キィッとドアが開く音、タタタッという小走りの音、そして…。
「ママ…」
「…暁斗?」
ベッドサイドに佇んでいる小さな影。
「どうした? 怖い夢でも見た?」
類の問いかけに、ふるふるっと首が横に振れる。
暁斗は理由を告げない。
それでいて、何かを訴えかけるような、物言いたげな表情…。


―こういう顔をするときは…。


「…おいで。一緒に寝よ?」
掛け布団を捲ると、暁斗は嬉しそうに笑ってベッドに潜り込んできた。温かな体を腕の中に抱き込み、安心させるように背を撫でてやると、ものの1分も経たぬうちに寝入ってしまう。
すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえ始めると、類がそっと問うてきた。
「暁斗、どうしたの?」
「あれは“寂しいなぁ”の顔だよ。…暁斗はね、自分からはそう言えないの」
細く柔らかな髪を撫でてやる。

「美玖は喜怒哀楽がハッキリしてるから対処しやすいけど、暁斗は自分の気持ちを隠そうとするんだよね。理紗が生まれて、二人の気持ちもちょっぴり揺れてる。…覚えてる? 暁斗が生まれたとき、美玖の赤ちゃん返りがひどかったの」
「…あぁ、あったね」
「暁斗はお兄ちゃんになって、理紗をすごく可愛がってくれているけど、時々はこんなふうに寂しくなるんだと思う。…だから、そういうサインのときは、思いっきり甘やかしてあげたい」
小さなつむじにキスをする。暁斗は身じろぎひとつしなかった。

お昼寝タイムに、静かな自分の部屋ではなく、わざわざ理紗の隣にやってきて眠ろうとするのも、暁斗なりの心情表現なのかもしれない。
大好きだけど、ちょっとだけ寂しい。その二つは矛盾せず、共存し得るのだ。


「…本当にテレパスなんじゃないの?」
「えぇ? 滋さんも言ってたでしょ? 母親だからだよ。…それにね」
私は笑う。
「…暁斗は類に似てるから、よく分かるの」

感情表現が少し苦手なところも、我慢強いところも。
“寂しいなぁ”のあの顔も。

そっか、という類の嬉しそうな声がして、後ろからぎゅっと抱き寄せられる。
ライトだけど長めのキスをして、おやすみを言い合った。
次の授乳は2時間後かな。
そんなことを思いながら、私は眠りに落ちていった。



言葉にしなくても伝わることばかりじゃないよね。
ちゃんと口にして伝えなきゃいけない、ここぞ、というときは必ずある。
あの夏の日、私と類がそうだったように。


だけど、“以心伝心”という言葉があるみたいに、そうした間柄でありたいと努力し続けることは、きっと無駄にはならない。
そうだよね?





~Fin~






さて、いかがでしたか? ちょっと盛り込みすぎた感のある記念SSでしたね。
前編4,700文字、後編4,400文字の計9,100文字。
三話に分けてもよかったのですがキリが悪く、それぞれのsideでスパッと終えたかったので一話分が長くなりました。…内容はともかく、読み応えはあったかと…(;^_^A 

つくし似の美玖&類似の暁斗の思考を追ってみました。彼らの発言や独白は、二人なら知っているであろう漢字レベルに合わせて表記しています。そうした趣旨ですので、読みづらい部分は申し訳ございません。

私は子供の頃、非科学的なものを強く信じてしまうところがあり、超能力や幽霊はその最たるものでした。美玖もいずれは現実を知るところになると思いますが、まだ夢見がちなふわふわした年頃をこのように描いてみました。

最初はキーワードを『魔法使い』にしようとしていたのですが、イメージがしっくり来ず、『テレパス』に落ち着きました。“げに深きはつくしちゃんの愛”ということで、愛情いっぱいの花沢familyをお送りしました。

またしても変わり種をテーマにしてしまいましたが、それこそが私らしさマイワールドであるという気がします。楽しんでいただけましたら幸いです。




いつも拍手をありがとうございます。10万HIT記念でした!
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4 Comments

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2019/05/08 (Wed) 15:20 | REPLY |   

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2019/05/08 (Wed) 17:24 | REPLY |   
nainai

nainai  

k様

こんばんは。コメントありがとうございます(*^^)v
SSは毎回出来に自信がなく、ドキドキしながらの公開なので、素敵な…と仰っていただけて嬉しい限りです。

今回は花沢familyに登場いただきました。滋とその子供達にもw 
どの子も個性豊かに伸びやかに育ってほしいな、との思いで、愛情いっぱいのやり取りを描いてみました。お話を書いているうちに、理紗の大きくなった様子も書いてみたくなったので、またそのうちお目見えするんじゃないかと思います。

2019/05/08 (Wed) 21:27 | REPLY |   
nainai

nainai  

ゆ様

こんばんは。コメントありがとうございます(*^^)v
目標の10万HITでした。とても嬉しかったです。

子供達それぞれをしっかり書き分けたいな~と思い、夢見がちな美玖、リアリストな暁斗という対極を描いてみました。ちなみにうちの子達も全然性格が違います。共通しているのはマザコンなところだけですw

和んでいただけたようで何よりです。記念SSとしては一区切りですが、連載が落ち着いたら時間の許す限りで、またあれこれ書いてみたいな~と思っています。

2019/05/08 (Wed) 21:36 | REPLY |   

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