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Category第1章 紡いでいくもの
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英徳学園高校での思い出は、あまりいいものではない。
―天国と地獄。
まさにその表現が相応しい事態が、何度も何度もあたしの身に起きたから。
それでも、高校生活で何か得たものがあるかと聞かれたとしたら、あたしは迷うことなくこう答えただろう。
彼らとの出会いが、あたしの人生を大きく変えてくれた、と。


茶道の表千家、西門流の跡取り、西門総二郎。
アジア圏に事業展開する総合商社、美作商事の後継者、美作あきら。
そして、欧州圏に事業展開する花沢物産の後継者、花沢類。
道明寺と合わせて『花の四人組(Flower four)』、略してF4と称され、幼い頃から讃美されてきた彼ら。
財力、知力、そして類い希な美貌を兼ね備えた彼らは、世間的にも有名で、本来なら下層階級にいるあたしなんかが出会えるような人達ではない。

それでも玉の輿を狙うママの策略で、英徳学園高校に入学させられたあたしは、どういう運命のいたずらか、彼らと深く関わり合うことになってしまった。
完璧な外見とは裏腹に、中身は最悪最低な奴ら―。
第一印象はそうだった。

最初の印象こそ良くなかったが、一人ひとりの性格や過去を知るうちに、周囲からは見えない屈託や孤独、そして敷かれたレールへの反発を抱きながら、彼等もある意味では窮屈に生きているのだと知り、あたしは金持ちへの偏見を改めた。
お金は無かったら困るけど、ありすぎても困るものなのかもしれない。
優雅そうに見えてたくさんの束縛があり、自由そうに見えて実は不自由で――。
あたしと出会って、その自由さに魅かれたと道明寺に言われたときは、何を言ってるんだろうと思っていたけれど、いまならその言葉の意味がよく分かるんだ。


高校で、あたしは恋をした。
初恋の相手は…花沢類だった。
まだ彼の内面を知らない時期の、夢見がちだったあたしの淡い思い。
―なんていうか、絵本の中の王子様に抱くような、夢想的なもの?
当時の彼は、2学年上の幼馴染み、藤堂静さんに思いを寄せていた。
当然ながらあたしの初恋は実らなくて、誰にも明かさず、あたしの胸の奥にそっと仕舞われた恋心だった。


それから、あたしは事もあろうに道明寺から告白をされた。
初めは何の冗談だろうと思った。
だって、あいつはあたしに赤紙を貼って集団で虐めるように仕向けた奴で、一時は、この世で一番嫌いな人間にまで成り下がったのだから。

それでも、彼はどこまでも真っ直ぐで、どこまでもあたし一筋で。
時折見せる照れた顔や、無邪気な子供のような一面や、不器用すぎる優しさに触れて、あたしはだんだんとあいつに魅かれていった。
…あいつの笑顔を、守ってあげたいって思ったの。
数々の困難を一緒に乗りこえて、あたし達は互いの気持ちを確かめ、将来を約束し合った。そうして、あいつは高校卒業と同時にNYに旅立ったんだ。



「牧野に必要な教養は、俺達が身に付けさせてやるよ」
道明寺に頼まれたのか、単に好意からだったのか、日本に残ったあたしに対してF3はそう申し出てくれた。
あたしが英徳大学に入学してすぐのことだ。
彼らにしてみれば、あたしのためというより、旧友のためっていう大義が大きかったのかもしれない。
それまで、そうしたことは必要最低限で身に付ければよかった状況と変わって、あたしには彼のステータスに相応しい女性になることが求められていた。
それこそ、生粋のお嬢様のように。

…正直、自分のガラじゃないし、しんどいなとは思った。
それでも名にし負うF3が稽古をつけてくれるって言うんだから、羨ましがられこそすれ、断ったりため息なんてついたりしたら罰が当たるというものだろう。
それに海の向こうにいるあいつが慣れない環境下でも頑張ってるんだから、あたしも負けないくらい頑張らなくちゃ、と思った。


西門さんは茶道と生け花と着付けを、美作さんは社交ダンスと食事作法を、そして、花沢類は語学や経済学をそれぞれ分担して受け持ってくれた。
もちろん彼らは大学以外にも家業が忙しい人達でもあったから、習うのは本人からではないことも多々あった。

西門さんの場合は、茶道に関しては本人からだったけど、生け花と着付けに関しては、幼少期に彼の指導に当たったというお付き人の雅恵さんに主に習った。
「…なんだよ。着付けも俺が指導してやるのに」
いやいや。着付けをエロ門…もとい西門さんに習うなんてそもそもが危険だし、道明寺だってきっと許さないと思った…。

美作さんの場合は、ダンスに関しては本人から、食事作法に関しては主に彼のお母さんである夢乃さんから習った。
美作さんの双子の妹の絵夢ちゃん、芽夢ちゃんもマナー講習が必要な歳になっていたから、彼女達と一緒に学ばせてもらうという、年上のお姉さんとしては、ちょっと情けない形の学習法になったけれども。
それでも夢乃さん達との会話はとても楽しかったし、双子ちゃんには普段の疲れを癒される感じで、あたしはマナー講習の日を密かに楽しみにしていた。

花沢類の場合、…彼だけはいつも本人からだったな。
語学や経済学は、それこそ彼自身が生きた教材だったし、場所や時間を問わずに教えてもらえるから、わざわざ彼の邸まで行くようなことはしなかった。
講義の空き時間に申し訳なくも彼ら専用のラウンジを使わせてもらったり、中庭のベンチで一緒に昼食をとりながら教えてもらったりして。
だから、大学では花沢類と一緒にいる時間が一番長かったと思う。


高校時代に彼に抱いていた淡い恋心はすでに昇華して、あたしは花沢類に温かな友情を感じていた。
道明寺との恋を、一番近くで応援してくれたのも彼だ。
その過程であたしへの好意を打ち明けてくれた彼でもあるけれど、あたしがそうであったように、花沢類もそれはすでに過去のこととして捉えているようだった。

いまの彼からは何の他意も感じない。
…それでも、道明寺は花沢類を一番警戒していたけどね。




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