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126.挙式

Category『Distance from you』 本編
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その日、リアドル・グランドホテルで行われる挙式に招待されたのは、二人のごく親しい者達だけだった。

類側の列席者は7名。
道明寺司と滋、西門総二郎とその兄・祥一郎、そして美作あきら。
つくしたっての希望で、本永圭一と福重梢も招待された。
本来列席すべき彼の親族の姿はそこになかった。

つくし側の列席者も厳選された。
二人の事情を知り、考慮できる者でなくてはならなかったからだ。

牧野晴男と千恵子。
祖母・斐川敏子。
弟の進と妻・亜由美、長男・恭介。
病院のスタッフである長谷ミチ子と、野島由紀乃。
親友の立花優紀。…そして、桑田佳奈恵。

つくしは、佳奈恵へ夫婦揃っての出席を打診したが、公彦の方はそれを固辞した。仕事があるからというのは表向きの理由だっただろう。まだあの夜の一件を負い目に感じているのだとしたら、それは申し訳ないことだった。


新郎・新婦を含めて総勢19名。
ごく内輪の挙式であるからこそ、滋はそれが寂しく感じられないようにと、会場セッティングには様々な配慮を施してくれた。


所有する無数のホテルの中でも、滋が一番気に入っているというそのチャペルはホテル上階に位置し、壁面に張られたガラスの向こうに東京の街が一望できる。視界を遮るものはない。
内装は白を基調としており、アレンジメントされた花々が、同じく白で整えられた調度品を明るく彩って華やぎを加えている。
ホールの天井は高く、上空に広がるは鮮明な青。晴れ渡った日の挙式は、まるで空に浮かんでいるかのような不可思議な感覚を列席者に共有させる。


列席者が入場し、席に着いたところで、まず類が入場してきた。
会場の脇に控える聖歌隊が美声を響かせ始める。
それに続く伸びやかなソロ・ソプラノと、パイプオルガンの調べ。
真っ白なタキシードに身を包み、粛々と祭壇へと向かう類を、佳奈恵はマジマジと見つめた。おそらくは、この場にいる誰よりも熱く。

―この人が、牧野の伴侶。

つくしから結婚相手の名を明かされた時、佳奈恵には驚きしかなかった。
佳奈恵でさえ知っている、大企業の元・御曹司だったからだ。
そして、新郎側の席に立ち居並ぶ彼の親友達。

―彼らが、F4。

大学在籍時にも、その名を友人から聞いたことがあったように思う。
そして、後年になっては主にはマスコミの報道で。
今春、世間を騒がせていた花沢物産のニュースも記憶に新しい。
芸能人にも勝るとも劣らない美しい容貌と、比類なきその財力と権力。
彼らが一堂に会するこの場に居合わせることができたことこそ、まさに僥倖ぎょうこうのようなものだと佳奈恵には思えた。


類は祭壇の前に真っすぐに立ち、新婦の入場を待つ。
聖歌隊が再びその歌声を響かせ始めると、新婦入場がアナウンスされ、皆は一斉に入り口のドアを振り返った。

ゆっくりと、大きく開かれる扉。

そこへ立っていたのは、歩み出す前から涙に濡れている晴男と、その父を支えるように寄り添うウェディングドレス姿のつくし。半透明のヴェールがその顔を隠してはいたが、幸せに満ちた微笑が浮かんでいるのが皆に分かった。
入場の段になっても、晴男の足が動かない。つくしが少し屈み、小声で晴男を励ましている。それが微笑ましく、新たな涙を誘った。


―清廉。


赤いヴァージンロードの上を、つくしが歩みを進める度に純白のシルクがふわりと波打つ。列席者からは、ほぅ、とため息が漏れた。
普段は飾らない彼女だからこそ、今日という晴れの日の美しさが一層際立つ。


つくしは、列席者に視線を送った。
一貫して類との交際を後押ししてくれた、親友の優紀に。
ようやくすべてを明かすに至った、同志の佳奈恵に。

冷静な視点からつくしを手助けしてくれる、パートナーの由紀乃に。
温かな愛情でつくしと類を支えてくれる、母親のような存在のミチ子に。

そして、愛すべき牧野家の家族の一人一人に。


「父さん、ちゃんと前を見て!」
「パパ! しっかり!」
進から、千恵子から温かな励ましがかかる。亜由美の腕に抱かれた恭介が、ご機嫌な様子で喃語を発する。晴男はうんうん頷いて涙を拭い、つくしを導くというよりは導かれながら、類の元へとゆっくり進んでいった。
敏子とミチ子が互いの体を支え合いながら、涙を滲ませた。



「つくしっ! すっごく綺麗だよ!」
すぐ右方から滋の声がする。声の方に振り向けば、この数ヶ月、自分達を支え、励まし続けてくれた面々が並ぶ。

よく似た笑顔を浮かべた西門兄弟。
細やかな気遣いに長けた美作あきら。
優秀な警護役であった本永と福重。
持ち前の明るさでつくしを支えた滋。
そして、これまで唯一顔を合わせたことのなかった道明寺司。

つくしは謝意を伝えるように微笑み、会釈した。



二人は、黒衣の神父の前に並び立つ。
神父は穏やかな微笑をたたえ、聖書の教えを授けた。
愛よ、永遠なれと皆で祈る。

交わされる誓約。
指輪交換。
そして―。


類の手が、つくしのヴェールを上げる。
漆黒の瞳が優しく和んで、類を見上げていた。
類にも自然と笑みが浮かぶ。


―綺麗だよ。
―ありがとう。

―緊張してる?
―うん。


「You may kiss your bride!」


神父の言葉に応じ、類はつくしに唇を寄せた。
彼女に贈るのは、恒久の愛を誓うキス。

親しい者達の前で交わされるそれを、シャイな彼女が恥ずかしがることは分かっていた。だから類は、皆の視線から隠すようにして、つくしの唇の右端にそっと口づけた。模範的な3秒で唇を離す。
類が最大限の譲歩でそうしたというのに、花嫁は頬を染めきっていた。
そんな彼女がたまらなく愛おしくて、類は目を細めて笑った。


繋いだ手が語りかけてくる。
言葉にしなくても伝わり合う、優しい言葉の数々。


ありがとう。
これからもよろしく。

ずっと一緒にいよう。
いつまでも、ずっと。


この無上の瞬間を、生涯忘れることはない。






いつも拍手をありがとうございます。
結婚式、じっくりと書いたのは初めてでした。披露宴は割愛です(;^_^A
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8 Comments

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2019/06/15 (Sat) 22:14 | REPLY |   

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2019/06/15 (Sat) 22:53 | REPLY |   

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2019/06/15 (Sat) 23:07 | REPLY |   
nainai

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桜様

おはようございます。コメントありがとうございます。
一番乗りの祝辞、とても嬉しかったです(*^-^*)

紆余曲折ありましたが、ようやく挙式に至った二人です。ここまで本当に長かったですよね。結婚式の描写はどうしてもパターン化されがちなので、本作に盛り込むか非常に迷ったのですが、やっぱり書いてみてよかったなぁと思いました。

最終話まで、あともう少しお付き合いくださいませ。

2019/06/16 (Sun) 06:39 | REPLY |   
nainai

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m様

おはようございます。コメントありがとうございます(*´ω`*)
喜んでいただけたようで嬉しいです~。

披露宴も書いたら楽しかっただろうと思うのですが、挙式で燃え尽きてしまいました(;^_^A お互いに大好きな人と結婚できたのだから、これ以上の幸せはないですよね。
類側の列席者達は昔の彼を知っていますので、つくしを前にした類を見たときは『こんな表情で笑うんだ』と驚きが隠せなかっただろうと思います。本永と福重にも参列願いました。ボディガードが参列者ってあまりない展開かな、とw

二人の幸せな生活をもう少し追います。二人の子供も登場するのでお楽しみに。

2019/06/16 (Sun) 06:44 | REPLY |   
nainai

nainai  

ふ様

おはようございます。コメントありがとうございます(*'▽')
喜んでいただけたようで嬉しいです。頑張って書いた甲斐がありました!

結婚式会場のモデルは都内ではないのですが、私が参列したホテルウェディングの様子をもう少し幻想的にして描写しました。挙式の臨場感を共有していただけたようでよかったです♪ 類とつくしの二人がただただ幸せを感じられる挙式にしたいなぁ、という願いが込められています。
今回、類の友人として登場させた滋でしたが、非常にいい働きをしてくれました。設定がアラサーなので不思議ちゃんの要素はやや控えめにしています。司の伴侶としては満点の企業人でもあります。

最終話まであともう少しです。ラストまでよろしくお付き合いくださいませ。

2019/06/16 (Sun) 07:04 | REPLY |   

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2019/06/16 (Sun) 09:09 | REPLY |   
nainai

nainai  

ふ様 (2回目)

こんにちは。再コメントありがとうございます(*^^)v

幸せな気分にてお目覚めだったとのこと。良かったです~♪♪
文末に入れているコメントはUP前日に書いていることが多いです。細かい部分も楽しんでいただけているようで嬉しいです。

ふ様のご質問ですが、今夜のお話で答えが出てくると思いますよ。
どうぞお楽しみに~(^^♪

2019/06/16 (Sun) 12:43 | REPLY |   

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