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131.Answer

Category『Distance from you』 本編
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つくしは、心の中に抱え込んでいたものをすべて吐き出した。
類はそれを最後まで静かに聞いた。
そして、しばらく黙りこんだ後、ゆっくりと口を開いた。

「買い被りすぎだよ」
「そんなことない。…類は自己評価が低いと思う」
その言葉に、類は薄く笑う。
大きな手がつくしの手に重なる。


「つくしは、自分の仕事に誇りとやりがいを持ってる」
「…うん」
「俺は違うんだ。根本的にそこが違う。…俺はただ、言われたようにしてきただけ。子供の頃からレールは敷かれていたし、それに抗う反骨心もなかった」
類は、きっぱりと断言した。
「俺には向いてない。適性がない仕事だったと今は思う」
つくしは目を見開く。


「俺、もともと社会性に欠けるだろ? 性格だから今さら直せるものではないけど、人付き合いはやっぱり得意じゃない。リーダーシップにも欠けるし、トップよりは参謀とかサブとかの方がずっと性に合ってる。

幹部の仕事は商談が主だし、社交界で人脈を作っていくのも重要。時には政治家との駆け引きも必要。グレーゾーンのやり取りもね。…とにかく情報とコネクションと財力が物をいう世界だから。

目まぐるしい変化に対応しながら、足元をすくわれないよう、孤立しないよう、全感覚を研ぎ澄まして、計算高く動く必要がある。
司みたいに、毒を皿ごと食らうような豪胆さは持ち合わせてない。
あきらみたいに、相手の心理を読み取って利用する器用さもない。
総二郎みたいに、すべてを柳のようなしなやかさでいなせる技もない。

…俺には、どうしても、あの世界が好きになれない」


類の本来の気質が、闘争を好まないものであることは分かっていた。
だが、適性がないという強い言葉には、やはり驚きを隠せない。


「花沢にいた頃はね、俺が好むと好まざるとに関わらず、駆け足の日々があった。会社のために、社員のために、是が非でも結果を残さないといけなかった。だけど、俺自身の満足はどこにもなくて、誰かを喜ばせたいなんて考える余地もなくてさ。…何もかもがモノクロの世界のようだった。
つくしのことを抜きにしても、俺には向いてない仕事だったと思う。退職したのも俺の意志だし、それを後悔なんてしやしない」


つくしはまだ湖から視線を外さない。
…遠い目をしている。
類は、小さく嘆息して、その肩を抱き寄せた。
二人のシルエットがぴったりと重なり合う。


「聞いて。…俺はね、つくしが勿体ないって惜しんでくれる力量を活かせる場所を探してる。模索してる最中なんだ。…だって、今までそれ以外の選択肢を考えてこなかったから、やっぱりすぐには見つかりっこない」
つくしは、こくりと頷く。
「出奔を後悔したことはないよ。ただの一度もね。…だけど、いろいろな道を自分なりに模索した後の結論が、やっぱりあの世界に戻ることなら、そのときは潔く飛び込んで行こうと思う。今度は、確固とした意思をもって。
…でもそのときが来ても、つくしには俺の一番近くにいてほしい。つくしとの間にはどんな距離も感じたくはないから」


類の言葉は、真っ直ぐに心に飛び込んだ。
つくしの瞳から溢れ出たひとしずくの涙が、頬を伝っていく。


「俺、幸せだよ。事あるごとにそう伝えているつもりだけど、本当に毎日幸せで、どんな言葉でも伝えきれないくらいで。…決して、俺の本質が損なわれたわけじゃない。むしろ、一人の人間として欠けた部分が補完されて、大きく成長できたと思ってる。…俺自身がこんなにも今の自分に満足してるのに、つくしがそれを否定したりしないでよ」
「…ごめんなさい」
「これで全部? もう心に残してることはない?」
うん、と頷くと、また新たな涙がこぼれ落ちた。


寄せ合っていた体を離して、向き合うように座り直す。
類は指の背でつくしの涙を拭ってくれる。
「意外に、泣き虫だよね」
「…そうかも」
類はつくしの左手を取る。
その薬指に光る結婚指輪に触れ、持ち上げて手の甲にキスを落とす。


「あの日、誓い合ったよね。生涯、お互いを愛するって」
「うん…」
「今は、つくしと生まれてくる子供の傍にいさせて。俺なりに精いっぱいの愛情を注ぎたいんだ。…自分が社会に対して果たすべき役割は、これから模索していくのでも遅くないと思う。…それが、俺の答えだよ」


つくしは大きく息を吸い込んだ。そうして、肺に入った空気のすべてを吐き出すと、吹っ切れたような表情へと変わった。
「類の気持ち、よく分かった。…ごめんね。嫌な気持ちにさせて」
「いや、話してくれてありがとう。…父の言葉が、今もつくしを悩ませてるなんて思いもしなかった。俺の方こそ気付いてやれなくてごめん」
つくしはゆるく首を振る。


「モヤモヤを全部吐き出したら、お腹すいてきちゃったな」
残った涙を拭いながら、つくしが笑う。
「俺も喋り過ぎて、喉渇いた」
類も笑う。

お茶にしよう、と彼女が言い、いいお店があるよ、と彼が言う。
立ち上がろうとするつくしに、類はそっと手を伸べた。
手を繋いで二人は歩き始めた。



ー箱根の次はどこに行こう。
ーどこがいいかな?

ー久しぶりに桝川さんのところに行こうか。つくしに会いたがってたよ。
ーサクラやラリーにも会いたいね。



この瞬間ときを楽しもう。
もう二度とは戻らないこの瞬間ときを。
二人きりの時間は、あとわずか。






いつも拍手をありがとうございます。
いかがでしたか? 私なりに色々と悩んだ末の類のanswerでした。
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6 Comments

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2019/06/20 (Thu) 22:41 | REPLY |   
nainai

nainai  

み様

こんばんは。お祝いコメントありがとうございます♪
地道に数字を伸ばしております。大変ありがたいことです(*ノωノ)

類はね、いっそ清々しいほど未練も後悔もないのです。つくしの傍にいることこそ彼のベスト。この辺りは大きく突き抜けています。言葉を返せば、それほどまでに渇望し続けた幸せでした。

仕事に対するスタンスはつくしとは正反対で、ずっと好きだとは思えずに業務を熟してきました。周囲からの評価を求めてもいません。ですから、今度は自分が自分らしく頑張れる場所を追求しています。つくしに言われたからではなく、彼は彼なりに社会貢献の在り方を考えているんですね。

残りの話数も少なくなってきました。最後までお付き合いくださいませ。

2019/06/21 (Fri) 01:26 | REPLY |   

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2019/06/21 (Fri) 10:06 | REPLY |   
nainai

nainai  

m様

こんばんは。コメントありがとうございます(*'▽')

m様の仰る通り、つくしは類の答えを概ね予想していました。自分が感じている幸せを、彼も同じように感じてくれていると確信もしていたからです。それでもこれで良かったのかという疑問は常にあって、類の答えに安堵しつつも涙が出てしまうのでした。本人が思う以上に類は優秀ですしね。専門外のつくしにもそれは分かっていました。

類は、つくしの仕事に対する情熱を非常に高く評価しています。今後の社会貢献を考えたとき、自由意思に基づき、自分の好きな仕事をしてみたいと思うのはごく自然な心の動きだったかと。

互いを尊敬し、尊重し合う。夫婦の理想形かなぁと思います。

2019/06/21 (Fri) 21:06 | REPLY |   

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2019/06/22 (Sat) 00:45 | REPLY |   
nainai

nainai  

6/22 00:45にコメントくださった方へ

おはようございます。コメントありがとうございます(*´ω`*)
温かい祝辞もいただきまして、とても嬉しいです。

残りの話数もわずかとなりました。ここに至るまでには様々な出来事があり、それらを一つずつ乗り越えて絆を深めてきた二人でした。今は幸せいっぱいです。物語を通じて、私が伝えたいと思った事柄をそのままお伝えできているようで、本当に嬉しく思います。

送っていただいたURLにアクセスしました。素敵な歌を教えてくださってありがとうございます。透き通った歌声にマッチしたCG映像もいいですね。
ただ動作環境の問題か、フルバージョンの方が視聴できなかったので、6/24のTV放映分を確認して改めてお返事させていただこうと思います。少しお時間をくださいませ。そのお返事は、第132話『臨月』の方に入れたいと思います。よろしくお願いいたします。

2019/06/22 (Sat) 06:56 | REPLY |   

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