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視線 ~2~

Category*『視線』
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「行ってきます」

9月2日月曜日。今日から新学期。
あたしはいつもの時刻に家を出る。
社宅は10階建ての集合住宅。その4階から下に向かって下りていく。
通学にはバスを利用している。

ところが、だ。

狭い道を塞ぐようにして停まっている白いリムジンに、あたしは気付いた。
社宅の住人が数人、好奇の視線でもって遠巻きにそれを眺めている。
そりゃ、そうだ。
だって明らかに異質だもん。この光景。

だけど、その車の中から現れた運転手は、あたしの姿を見るなり恭しく一礼した。
朝っぱらから度肝を抜かれる。

「おはようございます。牧野様」

えっ!? 誰っ!?

「初めてお目にかかります。私、花沢家の運転手を務めております、馬場と申します。牧野様を学校までお送りするようにと類様に仰せつかり、お迎えに上がりました」

花沢類のおうちの人?
馬場さんはロマンスグレーの髪と柔和な笑顔が印象的。
パパと同じくらいの年齢に見える。

「さぁ、どうぞこちらへ」
「あ、あのっ。あたし、花沢類…さんからは何も聞いてなくて…っ」

馬場さんは問題ないとばかりにニッコリ。
流れるような所作で後部席のドアを開き、乗車を促してくる。
車内は無人だった。

「類様はまだ自宅で休んでおりますので、後ほど学校の方でお話しくださいませ。とりあえず本日は、私の職分を全うさせていただけないでしょうか」

馬場さんの懇願するような声音に、あたしは不承不承頷く。
あたしが断ってしまったら、指示をされた馬場さんが困るってことだよね?

リムジンのシートの座り心地は最高だ。
でも、心の中はモヤモヤでいっぱいだった。

哀しいかな、携帯電話を持たないあたしは花沢類に連絡すらできない。
学校に向かうまでの間、先週末の空港での出来事を思い出すことにする―。



*****



「牧野が俺と一緒にいてもいいって思うなら、この手を取って」

花沢類の申し出に、当然ながらあたしは戸惑った。
それでも、引っ込められそうになる彼の手を見て、咄嗟にその手を取ったあたし。

そのまま長い指を絡められて。
歩き出した花沢類に引っ張られるような形で、彼についていく。

あたし達の後ろで、悲鳴にも似た声が上がったことには気づいていた。
…怒った声は道明寺のものだったような。
いずれにしても、あたしはギャラリーの反応が怖くて振り返らなかった。


だって、何なの、この状況。
あたしだって困惑してる。


彼に最後に会ったのは、渡仏を思いとどまってもらおうと、静さんに土下座のお願いをしていた時。
彼のためだという大義名分を掲げながら、自己満足でしかなかった行動。
花沢類はあたしを痛烈に非難し、怒鳴った。

それからの急転直下。
理解が及ばない…。



花沢類は身長が高い。加えて足が長い。
彼はコンパスの差を考慮してくれないから、あたしはやや小走りになってしまう。

「あっ、あのっ、花沢類っ」

なに?とばかりに、無言で視線を振られて。

「も、もう少しだけ、ゆっくり歩いてくれない?」

あぁ、と納得したような表情になる。
繋いだ手は離さないまま、あたしの歩幅に合わせて彼はペースダウン。

「どこに行くの?」
「どこがいい?」

質問に質問で返さないでよね。

「あたし、これからバイトがあるの」
「じゃ、送る。…場所は?」



花沢家のリムジンでバイト先に送ってもらう。
移動する間に、あたしはちゃんと確認しておこうと思った。
彼の言葉の意味を。
だって、彼は無言のままだし、説明してくれそうな雰囲気は皆無だ。

「…どうして、静さんと一緒に行かなかったの?」

あたし達の手は、まだ繋がれたままだ。

「静さんのこと、好きなんでしょう?」
「…まぁ、好きだけど」

だよね。
あたしの問いかけに、花沢類はポツリと呟くように答えた。

「たぶん……LIKEであってLOVEじゃない」

たぶん?
その違いってどうやって分かるもの?
恋愛ビギナーのあたしには、いまいち分かんないんですけど。

「…あ、…あの、…あのね」
「……なに」
「どうして、あたしと一緒にいたいの?」



*****



パパッという軽めのクラクションの音で、あたしは回想から現実に戻った。
窓の外を見やると、いつもバスが通っているルートで車は進んでいた。
もう学校が近い。
それが認識できた瞬間、あたしはこの状況のヤバさに気付いた。

あたし…どこで降車することになるんだろう。
当然、学校の敷地内だよね?
花沢類は一緒じゃないのに、花沢家のリムジンで登校するあたしってどうよ!?

「あのっ、馬場さん!」

パーテーションの向こう側の馬場さんに伝わるよう、あたしは叫ぶ。
通話用のボタンを押すのを、うっかり忘れて大声で。

「ここで降ろしてくださいっ!」







いつも拍手をありがとうございます。
空港帰りのつくしの問いかけに、類が何と答えたかはまた後日(*'▽')
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2 Comments

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2019/07/10 (Wed) 17:32 | REPLY |   
nainai

nainai  

ゆ様

こんばんは。いつもありがとうございます(*´ω`*)
新連載はまだ手探り状態なので、コメントいただけて嬉しいです。

物語の中で、つくしは自分や類を見つめる様々な視線に出くわします。
その点を主軸に、丁寧に心情を追っていけたらなと思います。

久々の一人称形式に四苦八苦しております(^^;)
更新&執筆、頑張ります。

2019/07/10 (Wed) 21:26 | REPLY |   

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