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視線 ~3~

Category*『視線』
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当然ながら、馬場さんは学校の敷地内まであたしを送り届けるつもりでいた。
目立つのは困るのだと切々と訴え、近くの路地で降ろしてもらうことに成功する。


いつもより早く学校に到着し、正門を通り過ぎた。
その途端に周囲がざわめき、ビリッと緊張が走ったのが分かった。


あたしに集まる視線、視線、視線―。


それは赤札の虐めを受けていた時の、侮蔑や厭らしさを含んだものとはまた違う。
奇異のものを見るような、疑わしいものを見るような……そうした視線。
質が変わったところで、気分のいいものではない。
どっちにしても、マイナスのオーラが満ちてるんだもん。

あたしは顔を伏せ、纏わりつくそれらから逃れるようにして教室を目指した。



クラスメイト達の反応も同様だった。
誰一人、あたしに話しかけてこないのはいつものことながら、視線ばかりが集中。
頻繁に交わされる囁き声にも、そろそろウンザリだ。

そんな奇妙な雰囲気のまま、4限目が終了した時だった。

「牧野さん」

うぉっと、要注意。鬼ユリ接近。
彼女の取り巻きの二人も半歩後ろに控えている。

「先週、空港で、花沢様があなたにお話しなさっていたようだけれど、どういう内容でしたの?」

おっ、直球。
でも、答えてやる義理はないよね。

「浅井さんには関係ない話」
「あら、私達、お友達よねぇ?」
「そうだっけ? こないだ皆に追い回されて、ここに友達はいないって再認識したばかりなんだけど」

皮肉交じりにそう言うと、彼女の口元がひくっと歪んだ。
どの面下げて、『友達』だなんて言えるの?
あんた達がしてきた嫌がらせの数々、忘れたとは言わせないから!

「それじゃ」

あたしは弁当箱を持って、鬼ユリの立つ通路とは別のルートで教室を出る。
廊下に出ても、すれ違いざまに受ける視線は相変わらずで、息が詰まりそう。
そんなあたしが目指す場所は一つだ。




「…いた」

非常階段に続くドアを少し開け、その向こう側を窺い見る。
誰かが壁にもたれて座っているのが見えた。
言わずもがなの花沢類。

ここは校内の雑多な空気とは切り離されていて、あたしに呼吸をさせてくれる。
心のオアシスなんだ。

「…はよ…」
「おはようじゃないよ。もう昼だよ」

ドアを押し開けて外に出るとそこは日陰になっていて、思いのほか暑くない。
花沢類が、微笑でもってあたしを出迎えてくれる。
それを見たら、空港での出来事は夢じゃないんだって思えて嬉しかった。

途端に跳ね上がっていく心拍数。
さっきまで沈んでた気分も急浮上。
あたしってば、ホント単純に出来てる…。



「あのね、朝の迎えのことなんだけど…」
「………あぁ」
「気遣ってくれてありがとう。でも、あたし、自分でできることは自分でしたいと思ってるから」
「車、要らない?」
「うん。ごめんね」
「…分かった」

花沢類は気を悪くした風もなく、ふわぁ、とあくびを一つ。

「お昼は?」
「…学校のは、食べない…」
「そっか。あたし、ここでお弁当食べていい?」

もちろん、とばかりに彼は手で示し、そのまま壁に背を預けて目を閉じてしまう。
そのマイペースぶり、相変わらずだね。


あんなことがあっての今日だよ?
もうちょっと話をしようよ。



お弁当を食べ終わる頃には、昼休みも残り10分を切っていた。
花沢類はすっかり寝入ってしまっている。

…綺麗な寝顔だなぁ…。

予鈴が鳴った時も彼に見惚れていて、ハッと我に返る。
あわわ、時間がヤバい。

あたしは花沢類に声をかける。今の彼に聞こえないことは分かっていたんだけど、何も言わずに立ち去るのも気が引けて。

「午後があるから、あたし、もう行くね」
「……………」
「寝てばっかりいたら、そのうちカビ生えちゃうから」
「……ホント?」

パチッと彼の瞳が開いて、あたしは「うひゃっ」と仰け反った。
右手首を掴まれ、ぐいっと引き寄せられる。
ち、ちち、近いって…っ!

「…次、いつ会える?」
「えっと…」
「放課後は?」
「だ、団子屋のバイトがあって…」
「…分かった」

花沢類はゆるゆると腕の力を緩めると、また目をつぶった。

あたしは、大きく深呼吸する。
まだドキドキが治まらないや。
こういう不意打ちは心臓に悪いよ。

「じゃあね」と言って今度こそ立ち上がると、小さな返事があった。


でも、こうして、会話が成立している現実を喜ぶべきよね。
ちょっと前まで会話どころか、彼の視界にすら入れてもらえなかったんだから…。


明日は、今日よりもっと話せるといいな。






いつも拍手をありがとうございます。
次話は『Intermission ~1~』です。類視点の話を1話だけ挟みます。
お楽しみに(*'▽')
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