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Category第1章 紡いでいくもの
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導入部分が長くてすみません…。時系列の整理をしておきます。
1-1は、司に焦点を絞った過去
1-2、1-3は、F3との関わりと、牧野家の内情についての過去
そしてこれからが、オリジナルキャラである彼女と、つくしの関係性に焦点をあてた過去編となります。




もし誰かに、あたしの尊敬する人を訊かれたら、あたしは迷いなく彼女の名を挙げるだろう。
あずま 八千代やちよさん。
服飾メーカー『fairy』の会長兼ファッションデザイナーであり、美作夢乃さんの実母でもある彼女との出会いは、いくつかの偶然が重なって起きたことだった。
あたしは、いまでもずっとその出会いに感謝している。
先生に出会ったことで、あたしは自分の進路を決めることができたのだから。


―時を遡って、美作さんに社交ダンスを習い始めて、半年が経った頃のこと。
うちの両親が千葉に転居したのも同じ頃だった。

季節は秋、いつものように、あたしは美作邸にお邪魔させてもらっていた。
その日はダンスの完成度を見てもらい、悪い部分を指摘してもらおうと思っていたから、いつもはいない西門さんや花沢類の姿もそこにはあった。
絵夢ちゃんが手に何かを持ってダンスホールに滑り込んできて、小走りにあたしに近づいてくる。
ちょうど一曲を踊り終えたばかりで、あたしの息は上がっていたけど話せないほどじゃなかった。

「お姉ちゃま…」
「どうしたの? 絵夢ちゃん」
しゃがんで目線を合わせ、あたしが優しく訊ねるのを見て、西門さんが驚いたように言った。
「牧野、双子の区別がつくのかよ」
「そうなんだ。間違ったことないんだぜ」
美作さんが答えてくれていたので、あたしは西門さんの問いかけを無視して、絵夢ちゃんの話を聞く。

「これ…」
ぎゅっと握りしめられた両手がそっと開かれて、花をあしらったコサージュが見えた。その一部が引き千切れている。
「芽夢のなの。…絵夢、破るつもりはなかったのに…」
絵夢ちゃんの瞳がすぐにうるうると潤んで、大粒の涙が零れ落ちる。
あたしは絵夢ちゃんのふわふわの髪を撫でてやる。
「喧嘩しちゃったの?」
「うん…」
「コサージュのこと、ちゃんと謝った?」
「…まだ」

あたしは後ろから様子を見守っていた美作さんを見上げる。
「ちょっと休憩もらっていいかな?」
「あぁ」
「…どうするの?」
ここにきてからずっと黙っていた花沢類が、おもむろに声を発したのを聞いて、あたしは彼が眠っていなかったことを知った。
「あ、起きてたんだね」
「…牧野のダンス見にきたんだし? …で?」
「縫ってあげようと思って」

あたしは自分のカバンの中からソーイングセットを取り出す。
服が破れたりボタンが外れたりしたら、簡易的に直せる優れ物。服が傷んだら新しい物とすぐ取り替えてしまうだろう彼らには、必要のないものだろうけど。
「それ、なに?」

―ほら、予想通りの反応。…このボンボンめっ!
「見たことないかもしれないけど、ソーイングセットだよ。この中に針と糸とハサミが入ってるの」
「へぇ…裁縫できるんだ」
花沢類がしみじみと言うので、あたしは苦笑する。
「大したことはできないよ。…絵夢ちゃん、ちょっと貸してね」
「うん…」


まだ涙に濡れていた絵夢ちゃんにハンカチを差し出し、代わりにコサージュを受け取る。花弁が二枚ほど千切れ、その破れている部分からは中綿が出てしまっていた。生地の性質からして、荒く裂けてしまった部分の再生は難しそうだった。
完全に元通りにすることは無理と判断して、あたしは自分の思うようにさっさとアレンジ作業を進める。
「これ、可愛いね」
「…おばあちゃまの手作りなの…。絵夢のもお揃い」
絵夢ちゃんがはにかみながら言う。

「なんでお袋か、他の誰かに言わないんだ? こう見えて、牧野も忙しいんだぞ」
余計なひと言もあったけど、兄のもっともな指摘に、絵夢ちゃんはしゅんと項垂れる。
「だって…」
「…怒られると思ったんでしょう? あたしのことはいいよ。…はい、できたっ!」
「えっ、もう?」
絵夢ちゃんの顔がぱぁっと明るくなる。
「元通りにはならなかったけど、これじゃだめかな?」
「すごぉい! ありがとう。お姉ちゃま」
「どういたしまして。…ちゃんと芽夢ちゃんに謝れる?」
「うんっ」

元気に応えた絵夢ちゃんを見送って、あたしは美作さんに向き直る。
「おばあちゃんの手作りって言ってたけど、あたしが勝手に直して悪かったかな?」
「いいんじゃね? それにしてもお前、裁縫上手いな」
美作さんからの思ってもみない褒め言葉に、あたしはちょっと照れる。
「…慣れてるから。懐事情により…」
「ははっ。確かにな」
西門さんが豪快に笑う。

あたしははっと我に返る。
わずかな時間とはいえ、彼らを待たせていたことに気付いて謝った。
「…っとと、お待たせしてごめん。ダンス、再開してもいい?」
「OK」
そうして再び、あたしは差し出された美作さんの手を取った。




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