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視線 ~5~

Category*『視線』
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「牧野、顔上げて」

黙って話を聞いていた花沢類が次に発したのは、あたしに向けた言葉だった。
弾かれたように顔を上げて、彼の顔を見る。
何か言おうと口を開きかけるのを、彼は優しい眼差しで制した。

「…あの時の言葉を信じて」




空港からの帰り道。
リムジンの中。
あたしは、あの時、彼に投げかけた質問を思い出す。

『どうして、あたしと一緒にいたいの?』

花沢類の答えはこうだった。
珍しく彼は饒舌だった。

『予感がするから。牧野と離れてしまうことを、いつか後悔する日が来るって』

『まだ恋だ、愛だと言えるほどの気持ちじゃない。だけど、一緒に育てていきたい』

『だから、俺の傍にいて』



彼だって、同じことをよくよく自問してくれたのだと思う。
あたしに向けた気持ちが何なのか。
だから、答えには曖昧さが残っていた。
それが彼のリアルだった。

信じて、と言うなら信じよう。
F3にこうして追及されても、あの時の問いの答えが変わらないのなら―。




あたしが小さく頷くと、花沢類が「よかった」と呟いた。
道明寺が、痺れを切らして叫ぶ。

「二人だけの世界に入ってんじゃねぇ!」
「お前達の話はよく分かった」

花沢類は涼しい顔で、道明寺の怒号をいなす。

「でも、杞憂だから。俺達は同じ気持ちでいる」
「…本当にそれでいいんだな、牧野」

あたしを名指しし、返答を求めたのは西門さんだった。

「類と付き合うにはそれなりの覚悟が要る。それを分かっての行動なんだよな?」


―覚悟。


それは、どれくらい、どんなふうに持ち合わせていれば過不足ないものなの?
チャラチャラした印象しかなかった西門さんの、凛とした視線に身がすくむ。

「中途半端な覚悟なら、たぶん、傷つくのはお前だぞ」
「総二郎」

軽く咎めるような声は美作さんのものだ。

「そうならないように、俺らがサポートしてやればいいだろ。0か100しかない言い方で追い詰めるのはやめろよ」
「俺は、サポートする気なんか、さらさらねぇからな!」
「こっちだって、お前達に助けてもらう気はない」

道明寺の大声に被せるように、花沢類が冷たい声を発する。

「行こう」

花沢類は先に立って、あたしの手を引く。
あたし達はそのままラウンジを後にした。
結局、西門さんの質問には答えられず仕舞いだった。




午後の授業の始まりを告げるチャイム。
あたし達はそれをいつもの非常階段で聞いた。

「授業、いいの?」
「うん。だってお昼食べ損ねちゃったし、腹が減っては戦は出来ぬ、だよ」

ラウンジでの質疑応答で、昼休みは潰れてしまっていた。
5限目の現国のサボりを決めて、弁当箱を広げる。
あたしが授業より昼食を優先したことを、彼は面白がった。

「うーん。おいしー」
「いつも美味しそうに食べるよね」
「そう? 今日はつくねが自信作!」
「…1個もらっていい?」

彼からの意外なお願いに、あたしは戸惑って箸を止めた。
手作りではあるけれど、格安の材料で作られたおかずだ。
だって、鶏ミンチだよ? 
しかもタイムセール品だよ?
あたしには美味しくても、とても彼の口に合うような代物ではない。



「…ダメ?」

うは…っ。
あの時も思ったけど、花沢類のこのちょっと甘えた感じ、破壊力が半端ない。
ダメなものでも、何とかしてあげたい気になるもん。

「…はいっ」

逆さ箸を使うのは気が引けて、ピックでつくねを突き刺して彼に差し出す。
あたしは、彼がそれを受け取ってくれるだろうと思っていた。

だけど、違った。
花沢類はすっと身を屈めると、あたしの指先からパクリとつくねを食べた。

「……っ!」

もぐもぐと口が動いた後の微笑にあてられる。
美味しかったってことでいいの?
「よかった」という言葉以外、発しようがないというものだよ。



あたし、傍にいていいのね?
花沢類のこと、好きでいていいんだよね?


待ってるから。


いつか、ちゃんと言って。
何の迷いも、曖昧さもなく。


あたしのこと、好きだって。






いつも拍手をありがとうございます。
二人の関係はまだまだ過渡期。見守っていてくださいね。
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2 Comments

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2019/07/18 (Thu) 10:34 | REPLY |   
nainai

nainai  

ゆ様

こんばんは。いつもコメントありがとうございます。

類がつくしに示した答えは曖昧さを多分に含んでいます。まだ『好き』の一言もない。ですが、それがリアルな心情だからこそ、つくしの信を得られました。
強い思慕を抱いていた静からつくしへと気持ちをシフトさせるのには、それなりの過程と時間が必要であろうと思い、このような運びとなっております(;^ω^)

F3のスタンスはいずれ明らかになってきます。
二人が拙いながらも恋心を育てていく過程、楽しんでいただければと思います。

2019/07/18 (Thu) 22:42 | REPLY |   

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