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視線 ~6~

Category*『視線』
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「これ使って」

ある日、彼から手渡されたのはスマートフォン。
パステルブルーの色合いが可愛い。
あたしが携帯電話を持っていないことを知り、彼が準備してくれた。

でも、機器代は高いし、月々の通信料も払えそうにない。
そう言ってお返ししようとすると、花沢類はこう言った。
今回は有無を言わさぬ口調で。

「連絡ツールがないと不便。俺のために持ってて」



彼が持っている機器と色違いだと聞いて、それだけでも有頂天になる。
説明書はあったけど、操作方法は彼から簡単に習って理解した。

『マメじゃないけど、よろしく』

メッセージアプリに送られてきた1通目のメールはそれ。
花沢類からメッセージ…。
なんかもう、貴重すぎて感極まってしまうんだけど。

『こちらこそよろしくね』

画面上で指をスライドさせるフリック入力に慣れない。
もたもた入力して返信すると、目の前でそれを受け取った彼からは微笑が返った。
その表情が実に自然で、彼がリラックスしているのがよく伝わってきて、あたしは嬉しかった。


そんなふうにあたし達の関係はとても良好で。
恋愛というよりは、友情の延長のような仲の良さで。

恋人らしいことはまだ何もないけど、あたしは彼と過ごす時間が楽しかった。
花沢類の方もそう思ってくれている様子だった。



*****



「初デート! いいねぇ~」

『千石屋』でのバイト時間は、優紀への報告タイム。
親友である彼女へは、まるっとすべてを明かしてしまっている。
そして、その都度、恋愛指南を受けているのだ。

「どこに行ったらいいかなぁ。デートスポットなんて全然分かんなくて…」
「花沢さんは何て言ってるの?」
「行きたいところがあるなら言ってほしいって…」
「あはは。それ言われちゃうと逆に難しいよねぇ~」
「あと、何を着ていけばいいか迷っちゃって…」
「前に一緒に選んだ水色のフレアスカートは? つくしによく似合ってたよ」

ちょうどお客さんもいなくて、優紀と話に夢中になっていたら、奥から出てきた女将さんに怒られてしまった。

「彼氏ができたからって、浮付いて仕事に身が入らないようじゃ困るんだよ!」

…はい。ご尤もです。



あたしは、女将さんに、彼氏ができたことをわざわざ報告したわけじゃない。
だけど知られてしまったのは、バイトの後に迎えの車が来るようになったから。

花沢家の運転手の馬場さんは、あたしのバイトが終わる時間には店の近くに待機している。例の白いリムジンで。でも花沢類がそこにいることは稀で、ただあたしを家まで送るためだけに、馬場さんを寄越してくれているのだ。
朝の迎えを断ったときと同じように固辞すると、彼は夜道は危ないの一点張りで、ここは引いてもらえなかった。


花沢類は、優紀がリムジンに乗ることも容認してくれている。
優紀を先に送ってもらい、それからあたしのうちへ向かうコースが定着しつつある。

薄給アルバイトの女子高生の迎えがリムジン…。
なんてシュールな絵面だろうって、あたし達は笑い合った。


「大事にされてるよね。羨ましいな」

優紀はいつも最後にそう言って話を締めくくる。
その一言を聞くと、そうなんだって実感ができてホッとするんだ。

「デートの報告待ってるね」
「なんかもう、緊張でどうにかなりそうだけど、頑張ってくる」
「頑張るものじゃないよ。楽しんできてね!」

優紀と別れると、あたしはもう少しだけ思案し、行先を決めた。





『今、馬場さんに送り届けてもらいました』

自宅に帰ると、あたしはまず彼に到着のメッセージを送る。
返信がくるかどうかは半々だったけど、今夜はすぐ応答があった。

『電話できる?』
『いいよ』

あたしは同室の進を追い出して、彼の電話を待った。

「行きたいとこ、決まった?」
「あ、うん」

優紀が勧めてくれたデートスポットの中から、彼も好きそうな場所を選んだ。

「水族館はどうかなって…」
「どこの?」
「あの、えっと…」

都内にも水族館はいくつかある。そのどこに行きたいというよりは、水族館であればどこでもいいのだという趣旨を話すと、彼は分かったと一言。

「じゃ、こっちで場所は決めて、貸切るようにするから」

…は?

さらりと言われた一言に思考が固まる。
か、貸切る? 
聞き間違いじゃないよね?
それを問うと、あたしこそ何を言うのだと言わんばかりの回答があった。

「俺、人混みキライだし。ゆっくり回れるよ」
「で、でも…、あの…」
「……何? そういうの嫌?」


…胸の中がモヤモヤする。
その内容を話してしまっていいのかな。


「ちゃんと言って」
「…お、怒らない?」
「怒る?」
「…気を悪くしない?」
「さぁ…たぶん?」

金銭感覚の違いはきっと今後もついて回る問題だと思う。あの時あぁだったと後から話すより、最初に自分の指針を示しておくべきだと思った。

「あのね…。デートでは、割り勘にしたいと思ってるんだけど…」






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