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視線 ~7~

Category*『視線』
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9月の第三日曜日、午前9時半。

あたしと花沢類は千葉県にある水族館に来ていた。
そこは太平洋を一望できる臨海テーマパークで、ショッピングモールやホテルも併設されている。すごく有名な水族館だけど県外だし、行くのは初めてだった。


『あのね…。デートでは、割り勘にしたいと思ってるんだけど…』
『…なんで?』
『花沢類が自由に使えるお金は、ご両親が稼いでくれた大切なものだよね?』
『…そう、だけど』
『遊ぶためにたくさんのお金を使ってもらうのは、やっぱり気が引けて…。お互いが気持ちよく払える範囲内で楽しめないかなって…』
『…分かった』

3日前の夜、あたしの申し出に納得してくれた彼は、水族館貸切り案を取り下げた。
少しでも混雑を避けるために開館時刻に合わせて行こうと提案すると、早起きはできないという意志薄弱な返事が…。

「モーニングコールがあったら起きれるかも」という、かなり疑わしい解決策を提示され、あたしは朝6時半から数分おきにコールをすることになった。
…花沢類は、本当に寝起きが悪かった。
電話に出てくれたのは、なんと12回目にかけたとき。
時刻は7時半になっていた…。



なんとか開館時刻を少し過ぎた頃に着いたのに、入口には入場を待つ長蛇の列。
さすが人気テーマパーク。週末の集客力はこちらの想像を超えている。

「ね。早く並ぼう」

あたしが彼を促すと、気怠そうな返事とともに花沢類はついてくる。
この寝坊助め…。
車の中でもくーくー寝てたのに。
一体、何時間寝たら睡眠が足りるのよ?

だけど、格好良さ3割減の彼でも、集まってくる周囲の視線は凄まじかった。
その場にいた女性達は、10人中9人の割合で彼を二度見したんじゃないかな。
ヒソヒソ話も数が多ければ、その音量も大きくなるというものだ。



アクアリウムの館内は、透明な蒼色の世界。
大きな水槽の中を多種多様な生物が自由自在に動き回っている。
その予測不能な動きについ見入ってしまう。

繋いでいない方の手を伸ばして、指先で水槽のアクリルガラスを撫でる。
指先の向こう側に集まってくる魚達。

「あはっ。かわいい!」

あたしは熱帯魚が好きだ。
小さくて、色鮮やかで、いつまで見ていても飽きない気がする。

「…牧野みたいなのがいる…」

ボソッと呟いた彼の目線の先には、黄色いハコフグがふわふわと遊泳していた。
四角いフォルムと、円らな瞳と、おちょぼ口。
…うん。かわいいっちゃ、かわいいよ。
けど、なんてゆーか、ちょっと特異な可愛さなんじゃないかと…。

「…あたしのイメージって、フグ?」
「いいじゃん。愛嬌あって」

よくないやい。
ハコフグは嫌いじゃないけど、似てるって言われても嬉しくない。

「あ。…拗ねた?」

拗ねたりしないよ。冗談なんだって分かってるから。
…いやいや、彼のことだ。ちょっとは本気かもしれない。


ここにいたのが静さんだったら、もっと別の魚に例えていたんだろうなぁ。
あぁ、そもそも彼女となら水族館は選ばないか…。


そんなことを頭の隅でボンヤリと考える。
どうやらそれは、ひた隠しにしている静さんへのコンプレックスをピンポイントに刺激してしまったようで、胸の奥がチクチクと痛み始めた。
…なんだかな。
あたしは巧い返しが浮かばなくてうつむいた。


すると、繋いでいた手を解かれて。
代わりに、そっと腰を抱き寄せられる。
当然、体だって密着する。
そんなふうに彼に甘く触れられるのは初めてのことで、あたしは凄くびっくりした。

「…ごめん。機嫌直して」

こ、ここ、こういう謝り方はズルイんじゃないかな!?
あたしはにわかにパニックに陥った。
鬱々としていた気分は即座に吹き飛んでしまう。

「わ、わ、分かったから…」

だから、ちょっとばかし、離れてください…。


花沢類はアタフタしているあたしを見て、ふっと小さく笑う。
完全無欠、余裕綽々の微笑。
所詮、あたしは、いつだって彼の掌の上で転がされる小さき者だ。
さっきと同じように手を繋ぎ直される。

「先に進もう」
「う…うん…」




アクアホールという大きなプールのある会場で、これからイルカショーがある。
入場ゲートで一人に1枚ずつ、チケットが配られる。
どうやらショーのイベントに参加できる抽選券らしい。

『可愛いイルカから、みなさんにキスを!』

なんと、抽選で選ばれた3人は、イルカからキスをしてもらえるんだという。
ふわぁ。なんて素敵な企画だろう!

花沢類は自分のチケットをあたしに寄越した。
もし選ばれたら、自分の代わりに行っておいで、と。
あたしはそれを有り難くもらうことにした。


パフォーマンスは実にダイナミックだった。バンドウイルカ達はトレーナーの指示の下、一糸乱れぬ動きでプールを縦横無尽に泳ぎ回った。
最後は、中空へ向けて大ジャンプ!
盛大な水しぶきが上がる。
前列の人達はキャーキャー言いながら海水をよけていた。

あたしも大きな歓声と拍手を送った。
隣の花沢類をそっと窺い見ると、穏やかな表情でショーを見守っている様子。
…良かった。
居眠りしてないのは、つまらなくはないってことだよね?






いつも拍手をありがとうございます。
初デート編です。まだまだしっくりこない二人です💦

訪問者カウンターが130,000を超えました~(*^-^*) 
自分のペースで頑張っていきます。これからもよろしくお願い致します。
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