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視線 ~9~

Category*『視線』
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海水は乾くとベタベタするようになる。
水族館のスタッフの誘導で通された部屋に入ると、花沢類は言った。

「シャワー浴びてきな。あっちで待ってるから」

有無を言わさず脱衣所に押し込められて、あたしは仕方なく服を脱いだ。
濡れた服はちょっと生臭いけど、ドライヤーで乾かしたらいいよね?
そう思いながら浴室に入り、シャワーを浴び始めた。


すると、ほどなく…。

「…牧野」

浴室の中折れドアのすぐ向こうから彼の声がして、あたしは文字通り飛び上がった。
なんで、そこにいるの!?
部屋で待ってるんじゃなかったの!?

「えっ、なっ、なに?」
「着替え、用意したから」

えぇっ?
この短時間で?

謝辞を述べる間もなく、彼がすっと遠ざかっていくのが分かった。
慌ててお礼を言ったけど、聞こえていないかもしれない。


よくよく考えてみたら、この状況って…。

(一応) 交際中の高校生達 →ホテルの一室で二人きり →自分はシャワー中

あわわわ…。
水族館デートから一転。
まさか、こんな色っぽい展開になるとは…。

だけど、不思議と、花沢類からはそうした男女の雰囲気を感じなかった。
それを喜んでいいのか、実は危ぶまないといけないのか、分からないけど…。



浴室を出ると、脱衣所には店のロゴが印字されたビニル袋が置いてあった。
袋の中には、包装を解かれた衣類一式が入っている。
ジーンズ生地のシャツワンピと、薄手のカーディガンと、…下着類。
どれも肌触りが良くて、シンプルだけどデザインも可愛かった。

…買ってきてくれたのかな。花沢類が。
だとしたら、ちょっと恥ずかしい思いをさせてしまったかもしれない。




真新しい服に着替え、濡れた衣類をその袋に入れて脱衣所を出ると、花沢類はベッドに寝転がっていた。
しかもちょっとウトウトしてる様子。
…三年寝太郎め。

「ね、起きて」

ベッドサイドに腰かけて、あたしは花沢類の肩に触れる。
彼のシャツも新しいものに替わっていた。
今朝とは違って眠りは浅く、彼の瞳がパチッと開く。

「…着替えた?」
「うん。どうもありがとう。一式揃えてくれたんだね。全部ピッタリだったよ」

花沢類はあたしの姿を確認すると、小さく笑った。

「似合ってる」
「…そ…そうかな…」
「で、怪我は?」
「尻もちだけだし、大したことないよ」



花沢類の大きな手が、剥き出しの膝に触れてくる。
そのまま、よしよしと優しく撫でられ、あたしの心拍数は急激に跳ね上がった。

な、な、なんで撫でるの?

制止しようとして、思わず両手で彼の手を押さえつけてしまう。
彼は意味深な笑みを浮かべた。

「…あのさ、知ってる?」
「え?」
「男が女に服を贈る意味」

贈り物をする意味?

あたしは要領を得ずに首を傾げる。
えっと、今回のは服が濡れたから、その代わりだよね?

「この服で体を温めてね、とか?」

あたしは、至って真面目に答えたつもりなんだけど。
花沢類は一瞬固まり、「満点!」と答えてまた楽しそうに笑い出した。

その反応からするに、正解じゃなさそうだな。
次のバイトの時に、優紀に聞いてみようっと。




それから、あたし達は中断していたデートを再開した。
話を聞いて分かったのは、あたしの服を選んだのは彼ではないという事実だった。

「このホテルのテナントに入ってるのが、うちの系列の店だった。店長に事情を話して、部屋まで服を届けさせたんだよ」

なぁーるほど。
それであんなに短時間で準備ができたんだ。
彼に下着まで選ばせたわけではないと分かって、あたしは大いにホッとした。

「あのね、服のお金だけど、今日は持ち合わせが足らないの。次会った時に払うね」
「…は?」

あたしの言葉に、彼は目を見開いた。

「あれは俺からのプレゼント。割り勘しなくていい」
「でも…」
「ここは納得して受け取って」

花沢類は、自分の意見を通す時と引っ込める時がはっきりしている。
この口調は前者だろうと判断し、あたしは素直に彼の言葉に甘えることにした。


「ありがと。大切に着るね」
「今度は、俺が選んだ服を贈るから」
「……うん?」

よく分からないけど、彼の決意表明みたいなものを聞いて、あたしは曖昧に頷いた。
…服には、そんなに困ってないんだけどな?






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