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視線 ~10~

Category*『視線』
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楽しかった水族館デートの翌々日。
連休明け。
英徳では、水面下で大変な騒ぎが起きていたらしい。

あたしが登校すると、いつも以上の数の視線が集中してちょっとビビる。
もう! 何だってのよ?
人のこと、ジロジロ見るのはマナー違反だって習わなかったの?


ねっとりと纏わりつく視線を振り切るようにして、教室にたどり着く。
自分の席にカバンを置いた途端、ズンズンと近づいてくる鬼ユリ達。
…疲れるし、朝からやり合いたくないんだけど。

「牧野さん! 一昨日はどこにお出かけでしたの?」
「…プライベートだから」

関係ないでしょ、と継ごうとすると、苦虫を噛み潰したような表情の浅井から、ぬっと彼女のスマートフォンを突き出される。
そこには、あたしも使ってるメッセージアプリの画面が表示されていた。


「なに、これ…」


思わず声が出る。
そこに写っていたのは、あたしと花沢類だったから。
一昨日の水族館デートの様子を伝える画像だったから。

1枚目は、あたしが花沢類のシャツに包まれ、彼に肩を抱かれて歩く姿。
2枚目は、服を着替えたあたし達が、ホテルのエレベーターから出てくる姿。

ご丁寧に日時と場所まで記載してあって…。
まるでbefore&after。
見ている人に邪な想像を掻き立てさせるには十分なものだった。

隠し撮りされていたんだ…。
いつの間に?
一体、誰がこんなものっ!



「どうして、こんな…。浅井さんの仕業なの?」
「バカなこと仰らないで。アカウントが違うわよ。…それで? この画像は本物?」

本物だけど、意味合いが違う。
あたし達は交際中だけど、まだそんな関係じゃないし。
とりあえず何か言わなきゃ、と口を開きかけた時だった。


「この件はF4で預かる。以後、詮索無用で」


教室内の空気がざわりと揺れる。
声の主は教室の入り口に立っていて、あたし達のやり取りをたった一声で制止した。
美作さんだった。

「牧野、ちょっと顔貸せ」

廊下の人垣が割れていく。
あたしと美作さんは連れ立って歩いたけれど、お互いに無言だった。
だからって気まずい雰囲気でもない。なんとなくだけど、彼は、あの雑多な空気の中からあたしを救い出してくれたみたいだった。

途中で始業ベルが鳴ったけれど、美作さんは当然の如く足を止めない。
たとえ先生であってもF4に注意できる人はいないから、誰に咎められることなく、あたし達は無人の廊下を進んで、カフェテリアのラウンジに着いた。
そこにいたのは、西門さんだけだった。



「司は?」
「直接文句を言わなきゃ気が済まんらしい。類の家に行ってる」
「…はぁ、ご苦労なこった」

二人のやり取りにあたしは首を傾げる。

「文句って…。こないだもそうだけど、なんで道明寺が花沢類に怒るの?」

あたしの疑問に、二人は顔を見合わせる。
続けて、ぷっと吹き出して。
それを皮切りに、訳が分からないあたしを置いて、二人は爆笑し始めた。
そのうちに、美作さんが笑いを噛み殺しながら問う。

「お前、その理由、ホントに分かんない?」
「うん。…なんで?」
「くくっ。司の都合、だな」
「都合って?」
「そんなことより牧野! これ、本物か?」



無理やりな感じで、西門さんが話題を変える。
彼のスマートフォンにも、浅井から見せられたのと同じ画像が表示されていた。
あたしは頷く。

「一昨日、花沢類と一緒に出掛けたの。写ってるのはあたし達だよ」
「じゃ、ヤッたんだな」
「やったって、何を?」
「何って…セックスしかねぇじゃん」

頭を何かでくわんっと殴られたような衝撃が走る。
な、な、なんてストレートなの…。

「しっ、してない! してないよ!!」
「ホテル行って服着替えて何もないって、どういう状況だ?」



あたしは言葉につかえながらも、デートの一部始終を話す。
事の顛末を知ると、二人はにわかに興味を失ったような表情をした。

「はっ…つまんねぇ…」
「類は何やってんだ?」

花沢類は、何も悪くないと思うけど…。
むしろ、あたしは、彼の気遣いに感動したよ?




その時だった。
カフェテリアの入り口の方から、大きな声が聞こえてきたのは。
階下を覗けば、道明寺と花沢類の姿がある。

花沢類はすこぶる不機嫌そうだった。
きっと惰眠を貪っているところを、道明寺に襲撃されて怒っているのだろう。
道明寺があれこれ話しているけど、彼はそれを黙殺しているらしかった。
それが余計に道明寺の怒りを煽っている。



「…はよ…」
「おはよう。あの、花沢類…」
「…画像、見せて…」

花沢類はあたしに頷いてから右隣に座る。
西門さんからスマートフォンを借り受けて、無言のままそれを見ていた。
そして、美作さんに話を振る。

「…犯人、割り出せるよね」
「できないことはねぇが、わざわざ突き止めたいか? 放っておけよ」
「…牧野はどう? 懲らしめてほしい?」

花沢類の口から飛び出した制裁の言葉に、ドキッとする。
少し考えた末にあたしは首を振った。

「ううん、そこまでは…。もうこんなことしないでって、注意できればと思うけど」
「…OK。じゃ、その方向で」






いつも拍手をありがとうございます。本作の暦は2019年と一緒です。
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