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視線 ~11~

Category*『視線』
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花沢類はずっと仏頂面だったけど、怒っているというわけではなかった。
たぶん、単純に眠かったんだと思う。

西門さんに自分のスマートフォンに画像の転送を頼むと、電池が切れたみたいにその体を傾がせた。右肩に彼の頭が触れたかと思うと、そのままズルズルと倒れこんできて、あたしの脚を枕代わりにしてしまう。


二つの声が上がる。
怒れる道明寺の声と、戸惑うあたしの声だ。

「おいっ! 類!」
「ちょっ…」
「…寝かせて。…眠くて死にそう」

語尾が消えるタイミングで、もう深い寝息が聞こえた。
花沢類に膝枕をするなんて初めてのことで、あたしは激しく動揺した。

右手の置き場に困って、つい彼の頭の上に置いてしまう。
初めて触れた彼の髪は、思った通りサラサラで柔らかくて。

うぅ…っ。
撫で回したくて、ウズウズするんだけど…。



視線を感じて顔を上げる。
西門さんと美作さんが、ニヤついた顔であたしを見ていた。

「頬染めちゃってかーわいいねぇ。つくしちゃん」
「Xデーまでそう遠くはなさそうだな? 牧野」
「やっ…あの…」
「…それはねーんじゃねぇ?」

場に割って入る道明寺の声に、あたし達は一斉に彼に目を向けた。
…えっと、どういう意味だろう。

「聞いたからよ。類に。牧野と…そ、そ、そーゆー関係になったのかって」
「そこでドモるなって」
「なってないんだろ? それは俺もさっき訊いたし」
「そのとき、類が言ったんだ。『俺にとって、牧野はそういうのじゃない』って」


それって…。


ふわふわしていた気分が急速にしぼんでいく。
花沢類にとって、あたしは“そういう対象じゃない”ってこと?
うつむいた先には彼の寝顔がある。

すぐさま、あたしを気遣ったらしい美作さんのフォローが入った。

「司、もうちょっと前後のやり取りを話せよ。そこだけを切り取ったら、類の言動は矛盾するだろ」
「前後も何も。終始こんな感じでボーッとして、会話が成立しなかったからよ」
「本当にそう言ったのか?」
「あぁ」

美作さんの念押しを肯定する道明寺の声が、胸に刺さる。
花沢類がそう発言したのは間違いないんだ…。



「司」

成り行きを静観していた西門さんが声を発する。

「横恋慕するな。みっともねぇぞ」
「ばっ…。誰がっ」
「牧野、又聞きじゃなく、ちゃんと自分で聞け。類の真意を」

あたしはゆるゆると顔を上げる。

「最初に忠告してやったろ? 類が親愛と恋愛を混同してるんじゃないかって。あのとき、類は即座に否定したけど、今は違う心境でいるのかもしれない」
「…うん」
「言っとくが、俺は二人を別れさせたいわけでも、応援したいわけでもねぇ。あくまでも中立だ。そこにある感情が捻じ曲がってないかを見ているだけだ」
「…嘘や勘違いがなければ、それは容認するってこと?」

ご明察、とばかりに西門さんは笑んだ。



つまりは、こういうことなんだ。
最初からあたし達の交際には反対姿勢の道明寺。
双方の行き違いがないようにと、中立の立場をとる西門さん。
何かとフォローしてくれようとする美作さん。
まったく、三者三様だね。


「とりあえず警告文を出しておく。二人の隠し撮りや画像掲載はするな、この件についての詮索はするなっていう内容でいいか?」

美作さんがあたしに問う。
同意を求めるべき相手は夢の中だ。

「警告文ってどうやって出すの?」
「協力者がこのグループに登録してるから、そいつを介して書き込む」
「……もしかしてだけど、赤札に関することもここで拡散してたわけ?」

心の奥底から、怒りがフツフツと込み上げてくる。
あたしは、赤札による集団虐めを忘れたわけではない。



西門さんと美作さんは肩をすくめる。

「主に司がな」
「もうやんねーよ」
「当たり前だよ。虐めなんて、人としてどーかしてる! クズよ、クズ!」

あたしは道明寺にも目線を振る。
ついでに、キッと睨みつける。
赤札の件に関して、あたしは正式に謝罪を受けていない。
だから、首謀者である道明寺と慣れ合う気など、さらさらないのだ。

「否定的なままでいいよ。あんたは最初っから、あたしのこと貧乏人だの、ブスだのって気に食わなかったんだもんね? あたしもここで受けた虐めのことは忘れないし、あんたのことだってずっと、ずぅーっと、許してやんないんだからっ!」

話していくうちに高まっていく怒りのボルテージ。
つい鼻息も荒くなる。
すると、道明寺からは驚くような反応が返った。



「…悪かったよ」



えぇぇっ!?
驚いたのはあたしだけじゃない。
西門さんも美作さんも固まったようになって、道明寺を凝視している。

「聞いたか、総二郎」
「すげっ。レア…」
「今、もしかして謝った?」
「…てめぇっ! それ以外にどう聞こえんだよっ!」
「謝ったり、怒ったり忙しい奴だなぁ…」

美作さんが呆れたように笑う。
西門さんは楽し気にニヤニヤしている。



「本当に反省してる? 形だけの謝罪なら要らないよ」
「…………あぁ」
「赤札は、あたしで最後にしてくれる?」
「…………あぁ」
「じゃあ、いいよ。…許してあげる」
「…おう」

赤札の廃止。その約束が取り付けられたのなら、あたしが赤札を貼られた意味はあるんじゃないかと思う。
ここの学校の奴らのことは、正直好きじゃない。だけどその中の誰かが、あの時の自分みたいに痛めつけられるのはもう見たくないから…。


「え? あんなんで許したわけ?」
「うん」
「あっさりしてんなぁ。ひでぇ目に遭わされたのに」
「それ、西門さんがいうセリフじゃないでしょ!」

こうして、あたしと道明寺との間には休戦協定が結ばれたのだった。






いつも拍手をありがとうございます。
F3それぞれのスタンスを示してみました。
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