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視線 ~12~

Category*『視線』
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「はぁ~。そんなことがあったんだ…」

いつものバイトの時間、大きなため息をついたのは優紀。
花沢類との初デートと、その後の隠し撮り騒動を報告すると、親友はあたしの複雑な胸中を気遣ってくれた。

「道理でね。なんか今日、元気ないと思ったよ」
「…うん。ちょっとモヤモヤしちゃってさ」
「隠し撮りかぁ。気分良くないね」
「実害はなかったし、気にしすぎてもよくないと思うんだけどね…」

優紀はショーケースのガラスを拭く手を止め、小首を傾げる。

「それで? 肝心な一言は、花沢さんに真意を確かめたわけ?」
「…うぅん」

あたしはゆるく首を振る。


*****


あの後、メッセージアプリには、F4からの警告文が掲載された。
直後からたくさんの既読がついたそうで、例の画像もいつの間にか削除されていた。
これで大丈夫だと美作さんに言われて、あたしはホッとした。
ただ、こうしたことは自分達にとっては日常茶飯事で、いちいち気にしていたら身が持たないから、とも忠告された。

その後、F3は、あたしと花沢類を置いてラウンジを後にした。彼の方はというと、寝返り一つ打つことなく、あたしの膝の上に頭を預けて昏々と眠り続けている。



1限目に続いて、2限目もエスケープ。
あたしは思う存分、彼の柔らかな髪を撫で梳き、その寝顔を飽くことなく見つめた。
こうして一緒にいるだけで、触れているだけで、あたしはどんどん惹かれていくのに、もしかしたら彼の方はそうじゃないのかもしれないと思うと無性に悲しかった。

『まだ恋だ、愛と言えるほどの気持ちじゃない。…だけど、一緒に育てていきたい』

あの時、花沢類はそう言ってくれた。
でも、そうしようと思うことと、実際にそうできることとは別なのかもしれない。

気持ちは、ちゃんと育ってくれるのかな。
あたしがあまりに子供っぽくて、おっちょこちょいすぎて、呆れてしまったかな。

あたし達の関係は始まったばかりで。
だからこその不安定さで、あたしの心を不穏に揺らし続けた。



3限目には数学の小テストが予定されていた。
あたしは教室に戻らざるを得なくなり、花沢類に声をかけた。

「気持ちよく寝てるとこ、ごめんね。あたし、もう行かなきゃ…」

それでも反応がなく、仕方なしに彼の頭を少し浮かせて自分の体を引き抜く。
枕にされた脚はジンと痺れていた。

「…行くの?」

立ち上がろうとすると、手を掴まれてそれを阻まれる。
あたしはもう一度ソファに座り直した。

「起こしてごめんね。3限目は出なくちゃマズいから…」
「…昼、いつものところで待ってる」
「うん…」


*****


優紀への報告は、お客さんの来店があったために中断されたままだった。
バイトは定刻に終わり、馬場さんが運転するリムジンに今日も二人で乗り込む。
帰りの車中で、話の続きをした。

「…で、昼休みに聞こう聞こうと思いながら、結局その質問が言えなくて。花沢類はいつも通りだったから、余計にさ…」
「まぁ、聞きにくいよね。…でもさ、西門さんっていう人が言ったみたいに、又聞きの情報に悶々とするより、直接花沢さんに真意を確かめる方がいいんだと思うよ」

優紀はあたしの頭をよしよしと撫でる。

「ほらほら、そんな情けない顔しないの! 素敵な初デートだったじゃない。これからもいろんなところに出かけて、たくさんの思い出を作っていったら、そういう不安はなくなるよ!」
「そうかなぁ…」
「そうだよ! もっと自分に自信持ちなって」

優紀にめいっぱい励ましてもらって、沈んだ気分を緩やかに浮上させて。
親友って本当にありがたいなって、しみじみと思った。



あと3分で優紀のうちに着くというタイミングで、あたしはあることを思い出した。次に優紀に会ったら聞こうと思っていた質問だった。

「聞きたいことがあったんだった」
「うん? 何?」
「男の人が女の人に服を贈るのって、何か特別な意味があるの?」

優紀は、は?と言って目を丸くする。

「意味って、…え? 一般的なやつよね?」
「あ、やっぱりあるんだ。花沢類に訊かれたの。答えたら正解って言われたんだけど、なんか違うみたいだったから」
「…なんて答えたのよ」
「この服で体を温めてって意味でいい? そしたら、今度は自分の選んだ服を贈るからって言われたの。なんか嚙み合ってないよね?」

優紀の瞳が大きく見開かれ、次の瞬間には盛大に吹き出された。



「やだもー! つくしったら」
「違うんだよね。ね、ね、笑ってないで、早く教えて」
「先にそれを話してくれてたら、もっと話は早かったのに。……大丈夫! 花沢さんはちゃんとつくしにその気があるよ?」
「えぇ? なんで?」

優紀はコホンと咳払いをすると、あたしにそっと耳打ちした。

「男の人が女の人に服を贈るのは、その服を脱がせたいって意味があるらしいよ? 『そういうのじゃない』の言葉の意味、ちゃんと確かめてみなよ」







~お知らせ~

次回から、更新時刻を午後10時から午前0時に変更しようと思います。
いつもUP直前に最終チェックをするのですが、多忙により生活リズムが変わり、午後10時前にそのための時間を確保するのが難しくなったからです。
ご理解のほど、よろしくお願いいたします。

次話は、Intermissionです。
8月2日午前0時に更新します。どうぞお楽しみに!
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2 Comments

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2019/08/01 (Thu) 09:45 | REPLY |   
nainai

nainai  

ゆ様

こんばんは。いつもコメントありがとうございます(*^-^*)

さて、モヤモヤ展開が続いております。今回は一人称形式なので、不透明感がより顕著だと思います。まだまだ先のことですが、終幕へ向けての布石と思って堪えていただければと思います。
今夜の『Intermission』では類の心情変化を追います。お楽しみに♪


子供達が夏休みに入って、輪をかけて多忙になっています💦
まだ8月初っ端ですが、早く学校が始まってほしいと願うばかりです。

2019/08/01 (Thu) 23:26 | REPLY |   

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