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Intermission ~2~

Category*『視線』
 2
俺は静を追うのではなく、牧野の傍にいることを望んだ。
そのことは、図らずも大きな波紋を生んだ。

俺には、外野の反応が理解できない。
無関係の奴らに何の断りが必要なのかと思う。


牧野ともどもラウンジに呼び出された時、幼馴染達の反応は三者三様だった。
真っ先に厄介だと感じたのは司だ。排除対象だったはずの牧野に、傍目にも明らかな好意を寄せているのが分かったからだ。
激しい怒りは、強い猜疑は、つまりは悋気りんきの表れだった。


でも、ダメだ。
牧野は譲れないとガードを固くする。


総二郎には、親愛と恋愛を混同しているんじゃないかと指摘される。
その言葉に牧野が静かにうつむく。だが、俺の言葉を信じてほしいと言えば、彼女は繋いだ手をぎゅっと握り返してくれた。



学校では、時間を見つけては一緒に過ごした。
最初は俺からのアクションの一つ一つに真っ赤になり、動揺が大きかった牧野。
吃音きつおんも激しかった。
だが徐々に状況に慣れ、緊張がほぐれていく様子は見ていて微笑ましかった。

自活能力に優れるせいなのか、牧野の金銭感覚は俺とは違っていた。
俺が彼女のためにしてあげたいと思うことのほとんどは、やんわりと固辞された。
デートは割り勘などと、親友達が聞いたらびっくりしそうなことを言う。
彼女の家庭が裕福ではないことはよく分かっていた。
だからといって、金銭面で俺に頼ろうとしない姿勢は好ましかった。



牧野が俺に向けてくれる気持ちはいつも真っ直ぐで。
くるくると変わる表情やふとした仕草には、俺への想いが溢れていて。
そうした彼女だからこそ、違和感を察するのも容易かった。



初めてのデートの行先は水族館。
熱帯魚が好きなのだと、水槽のガラスに手を伸ばす彼女の瞳はキラキラしていた。
その輝きをくすませてしまったのは、俺の不用意な一言。

『…牧野みたいなのがいる…』

示した先に、ふわふわと遊泳する黄色いハコフグがいた。
チャーミングで、ファニーなフォルム。
軽く笑い飛ばしてくれるかと思ったのに、彼女は曖昧に笑んでうつむいてしまう。
彼女の瞳の奥に滲む悲哀の色を捉えて、俺はいつになく動揺した。


しまった、と思った。
それはもう、痛烈に。


彼女が何を気にして落ち込んでしまったのかは分からなかったが、すぐさま謝る。
分かったと応じてくれた彼女に、俺は安易な安堵を得た。
このやり取りが後々になっても響いてくるとは思わずに。



イベント後のプールサイドのハプニングで、小学生を転倒から守った牧野。
二人分の体重で倒れこみ、ぶつけた部分はとても痛かったんだろうと思う。
戻ってくるときの歩き方が少しおかしかった。
だけど、彼女は笑顔のままでいた。

濡れた服のクリーニング代を払うという男児の家族の申し出を、牧野は固辞する。
後で訊けば、それがその子の嫌な思い出になってほしくないからだという。
なるほど彼女らしい理由だ、と思った。


今日の日のために彼女がチョイスしたのは、水色のフレアスカート。
白いカットソーとの組み合わせもよく、夏らしく、純朴な彼女によく似合っていた。

スカートの濡れた部分を手で隠しながら、失敗したと彼女は恥ずかしそうに笑った。
胸に疼くものがあって、俺はシャツを脱いで彼女をそっと包んだ。
すると、「ありがとう」ではなく、「ごめんね」と彼女は言った。


そんなふうに謝らなくていいよ。
いいことをしたんだって、堂々としてればいいよ。


抱き寄せた牧野の肩は細く、華奢だった。
この頼りなげな体のどこに、あれだけのエネルギーが詰まっているんだろう。
そんなことを思いながら、水族館側の厚意で準備されたホテルの一室に向かった。



その日、牧野とはずっと手を繋いでいた。
彼女の手は小さくて、柔らかくて、温かい。

ドキドキするのとは少し違う。
何て言えばいいだろう。
…安心感? 
そう。彼女といると、ひどく心が安らぐんだ。




デートの日を境に、俺の意識には明らかな変化が起きた。
牧野と一緒にいることが、触れ合っていることが、俺の日常になっていく。
その感覚が体に浸透すると、牧野と離れている時間を寂しく感じるようになった。
心を占める彼女の存在が、徐々に大きくなっていく。


もっと笑い合おう。
もっと一緒にいよう。


俺の中にあった名もなき感情は、こうして確実に育っていった。
だけど、自分の気持ちを表現することが苦手な俺は、その術が分からないままで。
彼女ならば察してくれるだろう、という希望的観測でもって日々を過ごした。







いつも拍手をありがとうございます。

本日以降、更新時刻を午前0時とさせていただきます。
今月は偶数日の更新です。改めまして、よろしくお願いいたします。

類の恋心は着実に育っていますが、相変わらずの言葉足らず。このままではうまくいかないのがセオリーです。次話からは再びつくし視点に戻ります。
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2 Comments

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2019/08/02 (Fri) 00:38 | REPLY |   
nainai

nainai  

ゆ様

二度目のこんばんはです。
なんとも的確なコメントをありがとうございます(*^^)v

双方の気持ちはこの時点で微妙にズレています。つくしが思っている以上に類は彼女を大事に想っていますが、いま一つそれが伝わっていないのです。

10代かつ恋愛初心者ゆえの危うさ。これが本作の主題であり、二人それぞれに成長していってもらいたいなと思う部分であります。

まだ最後まで執筆し終えていないので、秋までに終われるように頑張ろうと思います!

2019/08/02 (Fri) 00:59 | REPLY |   

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